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-ナレの村-1.カケルとイツキ [アスカケ第1部 高千穂峰]

「イツキ!もう戻ろう。」
高千穂の峰から流れ出る渓流に、膝まで浸かって、銛を片手にしたカケルが呼ぶ。腰につけた竹籠には、ヤマメや鮎が何尾も入っていた。
カケル8歳。まだ少年だが、自然の中でのびのびと育ち、溌剌とした眼差しには、生きる命の輝きを感じさせた。
「ええ?もう帰るの?」
山桃の木の枝の間から、鈴の音のような透き通った声が返ってきた。

声の主は、イツキだった。
カケルと同い年。イツキの母は、イツキが生まれた年に病気で亡くなり、父も3歳の時に亡くした為に、ナギとナミの夫婦に、カケルと兄妹同然に育てられたのだった。目覚める時から眠るまで、イツキはカケルの後を追うようにして、一日をともに過ごしていた。

「魚は、たくさん獲れたし、もう日が沈む。早く戻らないと道を失う。」
カケルの声に、イツキは山桃の木の枝をするすると降り、カケルのいる川岸にやってきた。腰の籠には、山桃の実が溢れるほど入っている。
カケルは、とても8歳の子どもとは思えない跳躍力で、水から飛び上がると、大岩の上を三つほど跳ねてから、川岸にたどり着いた。

二人は、蔓を手に、川岸から山道に上がり、深い森をぬうように駆けた。
「カケル!少しゆっくり駆けてよ。せっかくのヤマモモがこぼれちゃった。」
突然、カケルが止まった。
「どうしたの?」
「シッ!」
カケルは辺りの様子をじっと伺っていた。夕暮れになり、森の中にはじんわりと暗闇が広がり始めていた。ふいに、カケルは、上を見上げ、眼を凝らした。そして、少し先にある楠の大木に一気に登り始めた。下から3つほどの枝先に移ると、さらにその先に進んでいく。

「やっぱり、ここにいたのか。」
カケルはそういうと何かを抱えて、一気に枝先から下へ飛び降りた。
「カケル。何があったの?」
カケルの腕には、まだ幼鳥と思える「鷹」が抱えられていた。
「まだ、うまく飛べないのかな?」
腕に抱えられた鷹は、ピーピーと鳴きながら、時折、カケルの腕に鋭い嘴を突きたてようとしたり、鋭い爪で何かをつかもうとした。
「もう大丈夫だよ。」
カケルはそう言いながら、鷹の様子を見た。
「こいつ、怪我してるみたいだな。連れて帰ってやろう。」
そう言うと、また、先ほどのような速さで、山道を駆け出したのだった。

尾根を越えたところに、「ナレ」の村はあった。夕暮れには、獣除けの為に、檜で作った分厚い門を閉ざしていた。
「おお、カケルとイツキが戻ってきた。・・門を開けよ!」
高楼の上から、長老が声をかけた。門の傍に居た数人の男が、獣除けの分厚い門をわずかに開いた。カケルとイツキは、その隙間にすべり込むように村に入ってきた。そしてそのまま、カケルとイツキは、父母の待つ家へ駆け込んだ。
沢.jpg

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