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-ナレの村-2.ヤマモモ [アスカケ第1部 高千穂峰]

2.ヤマモモ
「良かった。日暮れ前に戻ってきたな。」
父ナギが、縄を編みながら、家の中に飛び込んできた二人に、声を掛けた。
カケルの父、ナギは村で一番の縄作り名人であった。ナギの作る縄は、太く強く風雨に曝されても切れることがなかった。村を出てすぐのところにある谷を渡る縄橋や、裏山の崖に上る縄梯子もナギの手によるものだった。
「獲物はどうだ?見せてみろ。」
そういうとナギは、カケルの腰から籠を取り上げて、中を覗いた。
「ほう、たくさん獲ったな。」
「うん、西の谷にある二つ岩の向うまで行ってみたんだ!」
「そうか、あんなところまで行ってたのか。」
「そこにはね、深い淵があったんだ。そこに潜ったら、たくさん魚がいたよ。」
「ほう、良い場所を見つけたな。今度は、一緒に行こう。」
「うん。とと様なら、もっとたくさん獲れるよ。」
「ああ・・だがなあ、タケル。そんなにたくさん獲ってはいけないぞ。魚も命があるんだ。大事にせねばならない。自分たちが食べる分だけにしておかないといけない。・・それと、淵に入る前にはしっかりお祈りをするんだ。淵の神様に許しをもらってからにするんだぞ。」
「うん・・今日も、ちゃんとお祈りをしたよ。」
そう言って、地に両手をつき、深々と頭を下げ、いにしえの祈りの言葉を発した。
「ね・・これでいいんでしょ。」
「ああ、上出来だ。ちゃんとやるんだぞ。カケルは良い子だ。」
父の言葉に、カケルは得意な笑顔を見せて、家の中を跳ねてみせた。竃の火加減をみていた母ナミも微笑んでみていた。
「良かったね、カケル。・・イツキはどうしたの?」
「うん。イツキは山桃の実をたくさん採ったよ。」
その返事に、ナミとナギは顔を見合わせた。そして、ナミはナギに何かを確認するように頷いてから、静かに訊いた。
「そのヤマモモの木は大きかったの?」
「うん。とっても大きかった。川の傍に立ってて、両手をうんと伸ばしたような格好をしてたんだ。カケルが魚を獲る間に、私、そこに登って実を摘んだんだ。」
「そう、たくさん取れたのね。」
その会話を聞いていたナギが立ち上がり、イツキの傍に座り、イツキの背に手を当ててから優しい声で話し始めた。
「イツキ、よく聞きなさい。その山桃の木は、イツキの父様の樹なんだよ。」
ナギの言葉の意味がよくわからず、イツキはナギの顔を見た。
「イツキはきっと覚えていないだろうが、お前の母様が死んでから、父様はいつもお前をつれて、畑や猟にも行っていた。ある日、西の谷の向うにある畑に行く途中、大きな熊が出たんだ。」
「熊?でも、熊は人を襲わないでしょ?優しいもの。」
イツキが訊いた。
「ああ、熊は人は襲わない。だが、その熊は手傷を追っていたんだ。どこかで喧嘩をしたのか、あるいは、ほかの村人が傷を負わせたか・・とても興奮していた。そして、畑に向かっていた娘たちを襲いそうだったんだ。お前の父様は、何とか止めようとして、熊に矢を放ち、見事に当たった。だが、すぐに父様のほうに向かって走ってきた。・・お前をおぶっていた父様は、西の谷へ降りた。熊はどんどん近づいてくる。父様はとっさにお前を大きな山桃の樹の高い枝に乗せてから、熊から守ろうとした。」
「父様はどうなったの?」
「山桃の樹から離すために、川へ入った。熊は追いかけて行って、父様に手をかけたんだ。娘たちが村に知らせに来てから、俺もすぐに行ったんだが・・もう駄目だった。」
イツキは、父の最期の様子を初めて聞かされ、驚いた様子で言葉が出なかった。その様子を見ていたナミが、
「イツキ、今日、実を摘んだ山桃の樹は、イツキの命を守ってくれた樹なのよ。そう、イツキの父様の代わりにね。だから、イツキの父様の樹なの。」
その言葉に、イツキが不意に涙が零れはじめ、止まらなくなった。昼間、実を摘みながら、どこか懐かしく、温かな気持ちになれたのを思い出して、さらに泣いた。ナミはイツキを抱きしめながら、
「今日、そこに行ったのは、きっと父様がお前に会いたいと思っていたからじゃないかしらね。時々、会いに行くといいわ。」
その様子を眺めていたカケルが、
「そうだ。今度、母様も一緒に行こう。父様と僕は魚を獲る。母様とイツキは山桃の実を摘んで来よう。」
「そうね。そうしましょう。・・ほら、カケル!串を打ったから、やぐらのところへ持っていきなさい。もう、宴の仕度もほとんど済んでいるだろうから。・・それとこれも一緒に・・」
母ナミは、黍で作った団子を盛った皿をカケルに渡した。
07_yamamomo_mi_3.jpg

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コメント 2

ami

こんにちわ^^
nice!ご訪問ありがとうございました。
by ami (2011-01-31 13:02) 

はくちゃん

こんばんは
ご訪問いただきありがとうございます
これからもよろしくお願いします

by はくちゃん (2011-01-31 20:15) 

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