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2-13 人間模様 [スパイラル第2部遺言]

2-13 人間模様
島から戻った、上総敬二郎、里美夫婦は、自分の屋敷へ戻っていた。
「一体どうするつもり?」
敬二郎の妻、里美が服を着替えながら、敬二郎に強い口調で言った。
敬二郎は、リビングの自分専用のチェアに座って、タバコを吸っていた。
「・・・さあ・・どうするかな?・・・」
「このままじゃあ。追い出されてしまうわよ。」
敬二郎は、じっと天井を見上げた。
「それより・・・あの女だが・・・。」
敬二郎がぼそっと言うと、里美が言い継ぐ形で言った。
「驚いたわ・・本当に別人なのかしら・・・復讐に来たって・・・。」
「そんな事あるか!あいつは死んだはずだろ?」
「でも・・他人の空似って・・・いえ、じゃあ・・双子の妹とか・・・・。」
「いや・・違うだろう・・・そんなふうには・・・偶然にしても少し気味悪いな。・・」
敬二郎は立ち上がって、窓近くに立って外を見ながら言った。
「ねえ、如月に問い質してみてよ!・・・二人を連れて来たのは如月なのよ。ひょっとしたら、何か企んでいるのかも・・・。」
「しかし・・・。」
曖昧な態度をとる敬二郎に業を煮やしたのか、里美は着替えを済ませて、リビングにやってくると、敬二郎の携帯電話を掴むと、敬二郎の前に突き出した。
「さあ、電話して!例の宿題の事もあるし・・・如月に妙案を考えてもらいましょう。さあ早く!」
観念した表情で、敬二郎は携帯電話を受け取ると如月に電話を掛けた。

如月は、島から戻ってから、一旦、本社へ寄って幾つか仕事を済ませた後、本社近くのマンションに戻っていた。如月の部屋は、高層マンションの最上階にあった。シャワーを浴びて、ガウンに着替え、ゆっくりと過ごしていたところだった。
「はい、如月です。」
「ああ・・私だが・・・君に訊きたいことがあるのだが・・・。」
如月は、敬二郎が、嫌々ながら電話をしてきた事をすぐに感じていた。
如月と敬二郎は、滅多に会話さえもしない間柄であった。それには訳がある。如月が、上総CSへ入社したばかりのころ、敬二郎は営業部長という役職だった。会長の弟というだけで管理職に就き、ろくに仕事ができない敬二郎を、聡明な如月はいつも見下していた。敬二郎も、上司ではあったが如月が自分のことを見下しているのを知っていて、常に、罵声を浴びせるような態度を取っていたのだ。そうやって虚勢を張る事でしか、上司という立ち位置を確認できない情け無い状態だったのだ。
如月が、英一社長に見込まれ、法務担当になり、役員になってからは、敬二郎は皆のいる前では以前と同様に虚勢を張るように、如月と呼び捨てにしていたが、実際は、頭の上がらぬ存在となっていたのだった。
「何でしょう?」
「あの・・新社長の奥方の事だが・・・彼女は、元秘書だったミホとかいう女じゃないだろうな?」
「いえ・・全くの別人でした。」
如月はにやりと笑みを浮かべながら、平然と答えた。
「そうか・・・それにしても気味が悪いほど似ているが・・・もしや・・姉妹とか双子とかその類じゃないのか?」
「いえ、身元もはっきりしていますし・・他人の空似でしょう。気にする事はありませんよ。」
「そうか・・・・。それと、例の晋社長からの宿題の事だが・・・君に何か良い案はないか?」
それが本題なのだろうと如月は嘲るような笑みを浮かべて返答する。
「良い案といっても・・・。」
「このままでは・・追い出されてしまうかも知れぬ。君だってそうだろう。」
「ええ・・。」
「何か良い案を考えてくれないか。」
敬二郎達が、保身の為の依頼をしてきたのが、如月には妙に心地良かった。ここで動けば敬二郎達を後々自分の駒のごとく遣うことができるだろう。
「判りました。何か良い案を作りましょう。・・・新社長は、会社経営は素人同然です。どうにかなるでしょう。それより、ミホさんの事は、これ以上突かないほうが良いですよ。万一、あの事故の件に、社長が興味を持つようなことになれば、あとあと面倒です。良いですね。」
如月はそういうと携帯電話を切った。
「さて・・どうしたものかな・・・。」
如月は立ち上がると、リビングの一角に設えたバーに行き、気に入りのスコッチを取り出してグラスに注いだ。バスルームから聞こえていたシャワーの音が止まって、女性がバスタオルを身体に捲きつけてリビングに現れた。
「電話だった?」
「ああ・・・敬二郎さんからだった。」
「へえ・・珍しいわね・・・。」
その女性は、如月に近づくと、手からグラスを取り上げ、一気に飲み干し、そのまま如月にもたれかかるようにした。如月は少し憂鬱な表情を浮かべたが、すぐに抱えあげ、ベッドルームに行った。

伊藤守彦は、島から戻ると、マリン事業部のあるマリーナへ向かった。妻、敬子は友人との約束があると言って、クルーザーから降りるとすぐに自分の車でどこかへ行ってしまったので、とりあえず、仕事に戻ることにしたのだった。事業部の事務所には、留守番の事務員が一人残っていた。
「お帰りなさいませ。」
出迎えた事務員は佐橋玲子といい、30歳くらいで、事務職というより、水商売が似合いそうな派手な化粧をした女性だった。
「皆は?」
「ええ・・営業に出ています。今日は部長はお戻りにならないと聞いていましたので、皆、直帰すると言ってました。」
「そうか・・・・。君、仕事は?」
「特に・・必要な事は終わりました。」
「そうか・・・じゃあ、今日はもう事務所を閉めよう。」
その言葉を聞いて、玲子は、束ねていた長い髪を解き、守彦に身体を密着させて、先ほどとは違う甘い声を出していった。
「じゃあ・・・いつものところへ行きましょう。」
守彦は、玲子の背に腕を回すと、そのまま強く抱きしめた。そして、そのまま、事務所の外へ出て、車の助手席に玲子を乗せると、さっさとマリーナを後にした。

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