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2-12 三人目の秘書 [スパイラル第2部遺言]

2-12 三人目の女性
純一の言葉に、二人ともどう答えてよいか判らぬ表情を浮かべ、隣にいたミホの顔を見ている。ミホもその視線をはっきり感じていた。
ミホが二人に訊いた。
「ねえ・・もう一人の秘書の方は一体どんな人なんです?名前は?」
二人とも更に答えに窮した表情を浮かべた。そして、ミカが苦しそうに答えた。
「もう一人の秘書は、ミホと申します。」
「ミホ?」
純一が驚いて訊いた。
「ええ・・・ですから、私達も驚いたのです。それに、よく似ていらっしゃるものですから・・ミホが・・済みません・・・秘書のミホが戻ってきたのかと驚いていたのです。・・しかし、小林様の奥様とお聞きし、他人の空似なのだと・・しかし、偶然というか・・奇跡のような・・・。」
純一はそこまで聞いて、同一人物かもしれないと考え始めていた。
偶然ではなく、誰かが自分の許へミホを連れて来たのではないか、そしてその人物こそが英一を殺害した犯人だろうと考えていた。
ミホ自身も、ひょっとしたら、同一人物なのかもしれないと考えていた。如月がミホの戸籍を難なく手配できたのも、きっと計画の一部だったのではないか、とすれば、自分が純一の傍にいる事は純一を危険な目にあわせることになるのではないか、ミホの頭の中でどんどん悲観的な考えが広がっていった。

「全くの他人ですよ。ミホという名前だって、僕がつけたのですから・・。」
純一は思い出したのだった。容姿が似ているとしても、名前は、あの病室で咄嗟に思いついたものだった。偶然、同じ名前をつける事なんて万に一つも無い。
ミホは純一の言葉を聞いて、頭の中に広がっていた考えを払拭した。
「名前をお付けになった?」
今度は、ミサが不思議に感じて純一に聞いた。ミホの記憶喪失は秘密にしておく事になっていた。しかし、この二人ならば大丈夫だと判断して、ミホが記憶喪失である事、身元保証人になった経緯などを純一は二人に話した。
「いいですか。このことは秘密にして下さい。・・他の役員が知れば、へんな憶測が広がり、ミホの立場がなくなります。良いですね?」
「秘書は、社長の秘密を漏らす事はありません。ご安心下さい。」
ミカの言葉に、ミサも頷いた。
「もう一つ、秘密を打ち明けましょう。」
純一はそう言うと、地下のラボで、英一が開発していたメビウスの話をした。そして、
「英一社長は、自分を殺した人物を調べて欲しいと言っています。協力してくれますか?」
「はい。」
ミカもミサも強く頷いた。
「もう一つお聞きしたいんですが・・・山下君や如月さんは信用できる人間でしょうか?」
ミカが少し考えて答える。
「個人的な感情ではお答えしかねますが・・・」
そう前置きしてから、少し小さな声で言った。
「如月さんは怖ろしいお方です。法律の隙間を縫うようにして、ぎりぎりの事をこれまでもたくさんやってこられました。勿論、社を守るためですが・・・・しかし、とても冷たいお方です。信用とか信頼とかとは無縁のお方と思います。利害に絡む事であれば、とことん固執して必ず得になるように動かれるお方です。」
続いて、ミサが言った。
「山下副社長は、前社長とは一心同体と思われていましたが・・・かなり、難しいお方です。直接お会いしたことはないのですが・・・私たちのプライベートな事もご存知で・・というか、調べておられて、驚く事もありました。少し、怖いお方です。・・今回も、どうやって私達の居場所がわかったのか・・・解雇されたので、上総CSへは居場所を教えていなかったんです。でも、携帯に連絡があって・・驚いたんです。」
どうやら、二人とも信用すべきではない人物だと純一は判断した。
「他の役員は?」
「まあ、敬二郎様も奥様もお嬢様も、お金が最大の目的でしょう。役員である限りは暮らしは安泰ですから・・こちらにいらっしゃる前は、そうとう借金もおありになったようです。」
ミカが答えた。
「伊藤部長も、ギャンブル好きのようで・・仕事より、遊ぶ事がお好きなようです。私達にも、何かと近寄ってきてはいやらしい目つきをされるし・・・ただ、如月さんや副社長よりも正直なお方です。敬子お嬢様とご結婚されたので、部長になれただけだともっぱらの評判です。」
昨日の様子からも、ミサの言葉は正しい事は判った。

純一には少しずつ、上総CSの役員達の様子が判り始めた。
「お二人にお願いがあります。」
「社長なのですから、ご命令で結構です。・・・一体、何でしょうか?」
ミカが姿勢を正して言った。
「ミカさんは、役員全員の財務状況、経歴、暮らしぶりがわかるデータを纏めてください。ミサさんは、社長が亡くなるまでの1ヶ月の行動を纏めてください。・・わかる範囲で結構ですから・・。」
「はい。・・・ですが・・・いつまでにご提出すれば宜しいのでしょうか?」
「1週間後に役員会を開きます。それまでに纏めてください。」
二人は立ち上がった。
「ところで、君たちは何処で寝泊りするんですか?」
「小林社長はご存じないようですね。・・あの、キッチンの隣に秘書室があります。プライベートの部屋もあるんです。私達はそこで・・仕事をしています。・・・何か御用がありましたら、名前を呼んでください。この家にはあちこちにマイクがあって、私達の名前が呼ばれると、すぐに判るようになっているんです。」
秘書の言葉に純一は驚いた。これでは迂闊に悪口も言えない。
二人はにこりと笑顔を見せると、深々と頭を下げ、キッチンの奥の部屋へ入って行った。

「あの・・純一さん。私にも手伝わせてください・・・。」
ミホが遠慮がちに言った。
「ああ、ミホは、居なくなった秘書の事を調べてもらいたい。きっと、君も気になってるだろう?」
「はい。」
こうして、英一社長が亡くなった真実を調べる仕事が始まった。


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