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2-11 秘書 [スパイラル第2部遺言]

2-11秘書
翌朝、船着場にクルーザーが着いた。中から、女性が二人降りて来た。二人はすぐにエレベーターで、邸宅へ現れた。二人とも、黒いスーツを身に纏っていて、年の頃は30歳前後と思われた。
純一がドアを開けると、二人は深々と頭を下げている。背が高く、一人は長い髪を一つに束ねている。もう一人は少し背が低く、ショートカットだった。
「よく来てくれました。さあ。」
純一が促して中に入れようと声を掛けると、背の高い方が口を開いた。
「あの・・・私達はどのようなお役目でこちらへ呼ばれたのでしょうか?」
「山下君からは何も?」
「いえ・・前社長の様子をお話しするようにとはお聞きしましたが・・一旦、解雇されていますから・・・。」
「ああ、そうですね。では、改めて、私があなた達を秘書として雇います。前社長と同条件でいかがですか?」
その言葉に二人はチラッと視線を合わせ、合意した様子だった。そして二人とも真っ直ぐに身を起こした。背の高い方がはじめに口を開いた。
「私は、橘ミカともうします。主に、社長のスケジュールや財産管理、外との調整をしておりました。」
続いて、背の低い方が口を開いた。
「私は、橘ミサと申します。家事一切をさせていただいておりました。ゲストハウスの管理もしておりました。」
「二人は姉妹なのですか?」
同じ苗字と知って純一が尋ねた。
「いえ・・・名前は前会長の敬一郎様にいただきました。」
「ここでの名前ということですか?」
「いえ・・私達は、施設で育ちました。自分の名前は施設で付けられていましたが、苗字は施設の名前でした。ですから、会長が橘という姓を下さって・・・。」
純一も同様だった。純一は、どうやら、前会長が全てに関与しているのではないかと考えていた。
「まあ、中へ入ってください。」

純一はソファーに座った。二人は、その脇に直立している。座るように促したが、秘書として主人と同席する事はできないと断ったのだった。
二人の容姿を見ながら、妙な感覚を覚えていた。初めて会ったとは思えなかったのだ。
「山下君からは秘書は三人いたと聞いたんですが・・・もう一人は?」
ミカが答えた。
「社長がお亡くなりになった日に居なくなりました。きっと、あの事故で一緒に命を落としたのだと思います。」
「え?ボート事故で一緒に?そんな報道は無かったけど・・。」
「いえ・・確かな事は判りません。しかし、きっとそうです。彼女は常に社長とともに居りましたから。」
「探していないんですか?」
「ええ・・如月さんに止められていましたから・・・。」
今度は、ミサが答えた。
「あの、何かお飲みになりますか?」
ミサが訊いた。どうやら、彼女は直立しているよりも、給仕の仕事をしたいようだった。
「じゃあ。コーヒーを・・ああ、4つ用意してください。」
純一はそう言うと立ち上がり、寝室に行き、一通り説明して、ミホを連れて来た。
「妻のミホです。よろしくお願いします。」
ミホは、純一の横に立って二人に挨拶した。
コーヒーを運んできたミサが、驚いた表情で立ちすくんだ。ミカも同様の表情だった。
二人はじっとミホの顔を見つめている。
「どうしました?」
「いえ・・なんでもありません。・・・初めまして、橘ミカです。」
「橘ミサです。」
コーヒーをテーブルに置きながらも、ミサはミホの顔をしげしげと見ていた。

純一は、話を聞きづらいからと、二人をソファーに座らせた。
「英一社長は自殺だったと聞きましたが・・・・どうやら、そうではないようなのです。何か知っていませんか?」
「警察の捜査でも、尋ねられましたが・・・。」
二人とも応えに困っている様子だった。
「遺書はあったんですか?」
ミカが答える。
「ええ・・・リビングの上にあったそうです。ただ・・・サインだけは直筆でしたが、文面はパソコンで作成されていたと聞きました。」
「内容は?」
「研究に行き詰った事と病気が思わしくないことが書かれていたようです。」
「見つけたのは、あなた方ではないんですか?」
これにはミサが答えた。
「ええ・・・事故の前日、社長から用事を言いつけられまして、不在でした。事故の知らせを受けてここへ戻った時には、すでに警察の方も居られて・・・多分、如月さんが発見されたと思います。」
「自殺するほど追い詰められていたのでしょうか?」
「いえ・・・前日、もうすぐ研究しているものが完成するとお聞きしておりましたから・・信じられませんでした。」
ミカが静かに答えた。ミサが続いて口を開いた。
「それに・・社長が、あんな小さなプレジャーボートに乗られる事自体、不自然です。大きなクルーザーでのんびり出かけられることはありましたが・・・。」
「やはり、誰かに殺されたという事でしょうか?」
「判りません・・しかし、用心深いお方でしたから・・・。」
ミサがミカの様子を伺うようにして答えた。
「ええ・・・亡くなる前にはほとんど外に出られることもありませんでしたし、ラボへは私達さえ入れられませんでした。極力、外部とは接触しないようにされていました。」
「では・・もう一人の秘書の方が一緒だったとすれば、彼女が社長を殺したとも考えられませんか?」
二人は顔を見合わせた。

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