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2-16 メビウス [スパイラル第2部遺言]

2-16 メビウス
ミカの案内で島を一回りし、昼食を終えた後で、純一とミホは再びラボへ戻った。
ミカとミサは、純一の指示に従って、役員の経歴や英一社長の行動をまとめる仕事をした。

純一は、メビウスを起動する事にした。コントローラーを手に、メビウスの起動画面にしてボタンを押した。ソファーの後ろに球状のメビウスがゆっくりと現れた。
「何ですか、これは?」
ミホが驚いて訊いた。
「これが、英一社長の開発していたシステムさ。メビウスという名らしい。」
純一はそう言うと、静かに上部のカバーを開いて、中に入った。静かにカバーは閉じていく。
いきなり、目の前に英一社長が現れ、太い声が響く。
「何か収穫はあったのか?」
「あなたの事故には不可解な事ばかりでした。状況証拠から自殺と判断されたようですね。」
「殺された証拠は見つかっていないということか・・・」
「ええ、しかし幾つか不自然な事もありますからもう少し調べてみます。それで・・一つ伺いたいのですが・・・ミホという名の秘書の事を教えてください。」
メビウスの英一は、一瞬押し黙り、眼を閉じ、じっと、何かを考えているようだった。
「ミホは・・・ミホは秘書ではない。・・・パートナーだ。研究のパートナーであり、人生のパートナーでもあった。私達はお互いを理解し、尊敬し、愛し合った。」
その言葉は、深い悲しみを持っているように聞こえた。
「・・・ミホさんは、事故以来行方不明になっています。」
「そうか・・・おそらく、私とともに殺されたのだろう・・・可哀想な事をした。」
「ミホさんは、事故の前の日、あなたの指示で本社へ行き、その後行方がわからないんです。事故のボートに乗っていたとも考えられますが、遺体は見つかっていません。・・ミホさんがこの事故の・・いえ、英一社長が亡くなった真相を知っているのではないかと思うのですが・・・。」
「まさか・・ミホが私を殺したとでも?」
「いえ・・そうとは・・ただ、事故の原因も不明ですし・・・何か関係しているはずです。・・ミホさんのパーソナルデータはありませんか?」
再び、メビウスの英一は押し黙った。そして10秒ほどして答えた。
「探してみたが・・意図的に削除されてしまったようだ。」
「サーバーにMというファイルがあるんですが・・アクセスできません。ここにあるとは・・・。」
メビウスの英一は純一の言ったファイルMへアクセスしようとしているようだった。
「確かに・・このファイルにはアクセスできないようだな。・・・パスワードとは違う何か、別の方法でロックされている。ただ・・・中のデータ量は極めて小さい。短い映像の類だろう・・・。ミホのデータは完全に削除された記録が残っていた。」
「そうですか・・・。あなたの中に、ミホさんの記憶があるのなら・・それをみせてもらえませんか?」
「それは無理だ。・・・私の記憶は人の記憶と同じなのだ。・・思い出話をしろというならできるが・・データにする等できぬ。君だって、自分の記憶を全てデータにしろといわれても拒否するだろう。」
「ええ・・・しかし、ミホさんがもし生きているなら、あなたの死の真相を知っている可能性が高いんです。遺体が見つかっていない以上、どこかで生きている可能性がある。・・その手がかりが掴めればと思ったんですが・・。」
「それならば、如月に訊ねてみるといいだろう。・・ミホを私に紹介したのは、如月だった。私が優秀な助手が欲しいというと、どこからか連れて来たのだ。電子工学の知識だけではなく、あらゆる分野の知識を持っていた。それだけではなく、料理も一流コック顔負けの腕前だった。・・どこから見つけてきたのか判らないが、私はすぐに彼女を採用し、傍に置いた。お陰で、このメビウスも完成した。彼女なくして、メビウスは出来なかったはずだ。」
「如月さんは、ミホさんの事を知っているんですね?」
「ああ・・・。」
如月は純一のところに現れてから、そのようなことを一言も話さなかった。いや、それどころか、英一社長の事もほとんど話していない。純一はもう一度じっくり如月の話を聞くべきだと考えていた。
「ミホの事を調べるより、他の役員をもっと調べるのだ!」
メビウスの英一は少し苛立った声を出した。
「しかし・・」
「奴らが私を殺したはずだ・・いや、全員が関わっているかも知れぬ。私の知恵と財産目当てに集まってきた奴らだ。誰も信用できない。・・事故の真相を突き止め、奴らに罰を与えるのだ!」
「わかりました。」
「ところで、私の欠陥の修復はどうなっている?」
メビウスの英一が尋ねた。
「・・・電力の問題と、排熱・冷却システムの構築が必要でしょう。・・今、洋一さんに電力の問題を調べるように指示しました。・・そうです・・・このメビウスの設計図はありませんか?構造がわからなければ、修復も叶いません。」
メビウスの洋一が暫く黙った。
さきほどからのこの「沈黙」が純一には妙に気になっていた。
「では、設計図をサーバーに開示しておく。ただし、これは極めて重要な情報だ。万一にも外に漏れれば全て失いかねない。・・モニターで見えるレベルにしておくからな。」
「わかりました。」
純一が返答すると、アラームが鳴り始めた。
「時間のようだ。」
シャットダウンされると同時に、カバーが開いた。
「ふう・・・。」
純一は大きな溜息をついた。

「英一社長と秘書のミホさんは、互いに愛し合う深い仲だったようだ。」
メビウスに乗り込んだ純一を心配しながら待っていたミホの顔をみて、純一が言った。
「ミホさんのパーソナルデータは残っていないようだった。だが、一つ収穫だ。秘書のミホさんを英一社長に引き合わせたのは、如月さんだった。彼に話を聞けば、わかる事もあるだろう。」
「そうなの・・・。」
純一の言葉に、ミホは何か不安そうな表情で答えた。
「どうした?」
「いえ・・少し具合が悪いの・・・さっきから頭痛がして・・・少し横になっていいですか?」
「ああ・・なら、上に行って薬を貰って休むと良い。」
純一は、ミホを連れて、リビングへ戻ることにした。

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