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2-18 悪夢 [スパイラル第2部遺言]

2-18 悪夢
「困った様子?」
純一が訊き返した。
「ええ・・・大きな溜息をついていらしたんで・・・どうされたのかなと・・。」
「何か言ってなかったかい?」
「いえ、詳しいことは・・ただ、その日以来、英一社長は深く考え事をされるようになられて・・・そうです。あの事故の十日ほど前だったと思います。」
純一は、メビウス完成で何かトラブルが発生したのだろうと考えた。
それを明らかにする為に、本社へ行こうとした。とすると、本社にいる副社長か如月か、いずれかがトラブルの原因となっていた可能性がある。
しかし、メビウス自身はそんな事を教えてはくれなかった。おそらく、記憶された情報が欠落しているのだろう。どれほどの期間かはわからないが、英一社長の記憶をインプットしていない期間があるに違いない、純一はそう考えた。
「ミサさん、英一社長の行動をできるだけ遡って調べてください。特に、亡くなった十日前くらいが知りたい。ひょっとしたら、社長はやはり誰かに殺されたのかもしれませんから。」
「はい。」
ミサは神妙な顔で返事をした。
「私も、役員の情報収集を早く終えて、ミサを手伝います。洋一からもいろいろと訊いてみます。」

純一がリビングで、秘書たちと話している間、ミホはベッドルームで眠っていた。

ミホは夢を見ていた。
広い海原に一人、浮いている。周囲を見回してみても何も見えない。
時折、波が顔にかかり呼吸が出来なくなる。このまま、たった一人、誰にも見つからず死んでしまうのだろうか・・底知れぬ恐怖を感じていた。
突然、ミホを呼ぶ声がする。どこからか判らない。ミホは手足をばたつかせて、身体を向きを変えようともがいた。しかし、声の主は見えない。しかし、確かにすぐ近くで声がする。
純一の声ではない。だが、何か懐かしい声だった。
「どこ?どこ?私はここにいるわ!」
声を出そうともがいてみたが、波が口の中に入ってうまく行かない。
そのうち、急に海底に引きずり込まれそうになった。慌てて手を伸ばすと、誰かが、ミホの手を掴んだ。そして、海中から顔を出すと、そこには「如月」が笑顔で待っていた。
ミホは驚き、そして、底知れぬ恐怖が襲ってきて、「わあ!」と声を上げた。

「ミホ、大丈夫か?」
ミホが夢から覚めると、ベッドの脇には純一が居て、ミホの手を握っていた。
「何だか、うなされている様だったけど、夢でも見ていたのかい。」
純一の顔を見て、ミホは安堵した。
しかし、何故、夢の中にあの「如月」の顔が浮かんできたのだろう。確かに、底知れぬ恐怖心を感じたことはあったが、これまで深いかかわりなど無かったはずだ。
「何か・・怖い気持ちは・・・・でも、・・・・どんな夢だったか・・・思い出せません・・」
「熱もあったんだろう。・・ここへ来て、疲れも出たんだよ。もう少し休むかい?」
「いえ・・・もう大丈夫です。」
ミホは身を起こすと、純一を安心させるように言った。
「そうかい・・・だが、随分、寝汗をかいたようだね・・・着替えるといい。ミサさんに着替えが無いか聞いてみよう。」
純一は立ち上がると、リビングに戻った。すぐに、ミサがベッドルームに入ってきた。
「着替えはワードローブにあるものでいかがでしょう。」
ミサはそういうと、ワードローブを開いた。色とりどりの洋服がぎっしりと入っている。
「英一社長が、秘書のミホさんのためにお揃えになったものが入っています。」
「いえ・・私も着替えは持ってきていますから・・。」
ミホが答えると、ミサが言った。
「ここにあるものは、一度も袖を通されていないものばかりなんです。英一社長がデザイナーを招いて作らせたものばかりなのに・・・。」
それを聞いて、純一がミサに訊いた。
「すべてオーダーメイドなのかい?」
「ええ・・これだけじゃありません。隣のクローゼットの中にもあります。でも、ミホさんは、いつも地味なお洋服ばかりでした。」
「ふーん。」
純一は、ワードローブの洋服を見ながら、ミホに言った。
「良いじゃないか・・・せっかくこれだけあるんだ。気に入ったものだけ着ればいいだろう。」
「でも・・・。」
「まあ、いいさ。とにかく、着替えた方がいい。さあ、ミサさん、手伝ってください。」
純一はそういうとベッドルームを出た。
ミサは、隣のクローゼットへ行き、下着なども持ってきた。その間に、ミホは吊り下げられた洋服を選んだ。

リビングに戻った純一は、先ほどのミサの言葉を思い出していた。
「特別に作った洋服・・・まさか・・・。」
ミホを海岸で見つけた時、着用していた水着が特注品だったことを思い出していたのだった。
ミホと秘書のミホが同一人物ではないかと考えたのだった。容姿も似ている、名前も、・・どんどん共通項が増えていた。
「しかし・・その秘書が記憶を失くして僕のところへ?・・何のために?」
ミホ自身はそのことをどう思っているのか、先ほどの洋服の件でも何か秘書のミホとの共通項を打ち消したい気持ちを感じていた。
きっと、偶然に、共通項を見つけただけなのだ、純一はそう考える事にした。

着替えたミホがベッドルームから出てきた。シンプルな白いワンピースを着ていた。
「横になって居なくてもいいのかい?」
「ええ・・もう大丈夫です。ごめんなさい。」
ミホは、純一が座っているソファーの横に座った。
「奥様、何かお飲みなりますか?」
ベッドルームから一緒に出てきたミサが訊いた。
「ええ・・・冷たいものが欲しいわ。」

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