SSブログ

2-19 役員の素性 [スパイラル第2部遺言]

2-19 役員の素性
役員会開催の前日になって、秘書のミサとミカから、これまでに集めた情報について報告を受けることになった。リビングには、洋一も顔を見せていた。純一とミホが座る、大きなソファーの前には大型のモニターが置かれた。
「さあ、利かせてもらおう。」
先に、ミカが役員のパーソナルデータをモニターに表示して説明した。
「上総敬二郎常務からご説明いたします。」
写真や経歴、家族構成、資産状況など次々に表示される。
敬二郎は、名目上、常務取締役となっていたが、実際には何の役割も担っていなかった。兄の敬一郎の事故をきっかけに役員となった。その前は、マリン事業部の部長をやっていたのだった。
「会長の弟というだけで、特に仕事もせず役員と言うわけか・・・。」
呆れた表情で呟いた。
「次は、奥様の里美様です。・・・肩書きは、取締役部長。文化事業部を統括されています。」
画面は切り替わり、敬二郎のときと同様に、写真や経歴、資産状況が映し出される。
「文化事業部ってどんな事をやっているんですか?」
「以前は、我が社で開発したシステムの研修が中心でしたが、里美様が統括されるようになってからは、語学講座とか、趣味の講座も取り入れられました。最近は、投資や取引に関する講演会も始められました。・・何か、お気に入りの講師の方がおられるようです。」
「投資?」
「はい。海外への投資話をしておられるようです。講演会というよりも出資者を募るような事も・・少し危険な噂もお聞きしていますが・・・。」
「敬二郎さんは?」
「・・里美様よりも常務の方が積極的に動かれているようですね。海外視察にも何度も行かれていますから・・・東南アジアへの投資が中心のようです。借入金がかなり大きくなっていますから、それほど上手くはいっていないのでしょう。」
メビウスの英一が「財産目当て」と言ったのは間違っていなかった。おそらく、無断で会社の金を流用しているかもしれないとも思った。
「次は、お嬢様の敬子様です。・・・今は、アミューズメント事業部の取締役の肩書きをもっていらっしゃいます。」
「今は?」
「ええ・・もともと、お嬢様は我が社には関わり無かった方なのですが、2年ほど前に役員に入られました。常務のごり押しと言う噂もありましたが、何故か、如月さんは了承して、社長を説得されたんです。・・あ、それとアミューズメント事業といっても、乗馬クラブとゴルフ場の経営だけです。いずれも、敬子様がお好きだったので、近くにあったものを買収しました。・・その時も如月さんがかなり熱心に働かれました。」
純一は少し意外な感じがした。
「アミューズメント事業は上手くいっているのかい?」
「ええ・・・乗馬クラブもゴルフ場も、しっかりした支配人がおりますから、それぞれ独立してもやっていける状態です。・・ほとんど、敬子様はご自分の愉しみのために行かれる程度ですし・・・ほとんど関わりをもたれていないと思います。」
「それでも役員か・・・。」
純一は何だか虚しくなってきた。
「続いて、伊藤部長ですが・・・宜しいでしょうか?」
少しうんざりした表情の純一に、ミカが気遣うように訊いた。
「ああ、続けてください。」
「では・・。」
モニターには伊藤部長の経歴や実績、資産状況などが映し出された。
「マリン事業部は赤字状態です。今回の英一社長の事故で、ほとんど信用をなくしています。社員は少ないのですが、マリーナの維持や管理費用が膨大で、累積赤字も膨らんでいます。それと・・・」
ミカはそこまで言ってから、手元の資料を見ながら、報告すべきかどうか悩んだ表情を浮かべた。
「何か他にも問題が?」
純一の問いに、ミカは隣に居たミサをチラリと見た。ミサは続ける事を促すように頷いた。
「まだ、確証を得た話ではありませんが・・・マリン事業部に不正経理の疑いが出ています。」
「横領の類かい?」
「ええ・・・経理操作で売上げの水増しと、資金の流用の疑いが出ています。副社長も、今、調査をされているようですが・・・。」
それを聞いて、ミサが付け加えた。
「マリン事業部の経理担当・・・佐橋玲子と部長は不倫関係にあるようです。何度か、抱き合っている姿を社員が現場も目撃していますし・・・どちらかというと、佐橋玲子に言い寄られて手を出したというところのようですが・・・その女がギャンブル好きのようで、会社の金に手をつけたという構図のようです。」
「確かなのか?」
純一がミサに改めて尋ねた。
「はい。マリン事業部の営業担当から、直接メールをいただきました。今、証拠集めをしてもらっています。」
純一はミサの答えに眼を丸くして驚いた。
「ミサは、会社のあちこちに情報源を持っているんです。特に男性社員とのつながりが強くて・・。」
ミカが少し呆れたように説明した。
「おいおい・・君は信用して良いのかい?・・そんな男性社員を誑かしてるんじゃないだろうな?」
ミサはニコリと微笑んで答えた。
「私、男性には興味は無いんです。どちらかといえば、女性のほうが・・・。」
ミサはそう言うと、ミホの顔を艶な目つきで見つめた。ミホが、ミサの視線を受けて、何かどぎまぎした表情を見せたので、ミサはペロッと舌を出して微笑んだ。
「いいかげんにしなさい。会社の男性たちとおかしな関係にならないよう注意してくださいよ。」
純一がたしなめるように言うと、ミサは真面目な顔になった。
「はい、心得ています。皆も知ってますから。」
「赤字と不正経理か・・・伊藤部長を更迭する理由は明確のようですね。・・いや、それよりマリン事業部そのものを廃止する事のほうが良さそうですね。」
純一がそういうと、洋一が急に立ち上がった。
「社長、お願いがあります。」

nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0