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2-20 洋一の決意 [スパイラル第2部遺言]

2-20 洋一の決意
「マリン事業部は、上総CSの基礎事業です。廃止は思いとどまってください。亡くなった会長もお嘆きになります。」
純一には、洋一の言葉の意味が判らなかった。
「会長?」
「はい、会長はマリン事業こそ、上総CSの骨格をなすべき事業だと常々おっしゃっていました。バブル時代には大きな収益を上げました。大型クルーザーの受注もあり、上総CSの社員の大半は、マリン事業の復活をきっと待っているはずなのです。」
洋一は強い口調で純一に迫った。
「しかし・・・今のままでは・・・。」
世の中は不景気である。レジャー産業自体もかなり縮小傾向にある。その上、社長がボート事故で亡くなったのだ。社会の信用は失墜している。どう考えてみても、復活できるとは思えなかった。
「いえ、きっとまた復活できるはずです。」
洋一はさらに強く迫った。
「まあ落ち着いて下さい。・・洋一さんには何か思いがあるようですね。話してみてください。」
純一の言葉に、傍にいたミカも洋一の背をさするようにしながら言った。
「洋一さん、会長の事故からお話したほうが良さそうよ。落ち着いて話しましょう。」
ミホも洋一の様子を見て言った。
「さあ、洋一さん、座ってください。」
洋一は、ソファの脇に置かれた椅子に座った。
「私が順序だててお話しましょう。」
ミカがこういう場面を想定していたかのように、画面に古い写真を映し出した。
「これは、10年前の新造船進水式の写真です。」
ミカはゆっくりと説明し始めた。

上総CSは前身の上総総業の時代に、造船業を始めた。時代に乗って、小型のプレジャーボートの受注を受け徐々に成長した。そして、ついに大型クルーザーの受注を受けたのだった。
受注先は、取引先の銀行頭取からだった。当時、経理部課長だった、山下副社長を気に入っての受注とあって、会長は山下を一気に経理部長に抜擢した。同時に、社運をかけるほどの大きな受注であったために、英一社長をリーダーにプロジェクトを組むことになり、社内の若手が集められたのだった。
「プロジェクトには、如月さんや山下副社長も居ますね。」
「ええ・・・会長や社長が社内で面接を行なって選抜されたようです。残念ながら、当時、マリン事業部長だった、常務や伊藤部長はプロジェクトには入れませんでした。」

プロジェクトでは、当時の最新の機器・コンピューター制御技術、あらゆるものが採用された。そして、当時としては画期的な大型クルーザーが完成したのだった。
「しかし・・この船は進水式を終えて、マリーナを離れて5分もしないうちに爆発事故を起しました。・・エンジン部の燃料装置の不具合で、船体後部が大きく壊れたのです。不幸な事に、爆発箇所のすぐ上のデッキに、会長夫妻は居られました。マリーナから皆が見送っている最中の事故でした。」
その様子を洋一は思い出したのか、下を向き、涙を拭っている。
「警察の調べでは、設計ミスという結論となりました。・・・結局、それ以降、大型クルーザーの受注はなくなりました。・・いや、我が社のマリン事業の信用は地に落ちました。」
「設計の問題だったのか?」
純一の質問に、洋一は立ち上がって、顔を紅潮させて、強く言った。
「いえ、設計ミス等ありません。前日までの点検でも全く不具合等なかった。あれは誰かが仕組んだ事故に違いないんです!」
その様子を見てミカが言った。
「洋一さんは、プロジェクトの設計部門のメンバーだったのです。・・事故で、設計部は全員、責任を取る形で解雇されました。洋一さんは、その後、英一社長の個人所有ボートのメンテナンス技師として雇用されました。」
「そうですか・・・。」
洋一がマリン事業部存続を願う意味がようやく理解できた。しかし、マリン事業部が復活するのは容易なことではないだろうと思っていた。
「社長のクルーザーをどう思われます?」
「いや・・・どうって言われても・・良い船だと思うけど・・余り船には興味が無いんだが。」
「あの船は、会長が亡くなられた事故を起こした船です。事故のあと、ここへ運び修理をしました。事故の原因をこれまで何度も何度も調べました。部品がいくつかありませんでしたが、なんとか復元しました。・・・その結果、燃料タンクの一部に亀裂があったことが判りました。」
「それは?」
「何かで傷つけられたものでした。船の機材を調べたところ、ドックにあった特殊なスパナと一致したんです。あの事故は、作為的に起こされたものです。」
「そのことを警察には?」
「証拠を持ち込みましたが・・・すでに事故と処理されたものですし・・・私は部外者でもあるので・・。」
そこまで聞いて純一は言った。
「なんだかややこしそうな話だな。・・誰か社内の人間が作為的に事故を起こしたということか。・・」
そこまで聞いてミカが言った。
「おおよその目星はついているんです。」
「いったい誰が?」
「おそらく、常務か伊藤部長が関係しているのではないかと・・・プロジェクトを外されて恨みもあったでしょうし、会長が亡くなられてから、常務と部長に昇格されました。結局、プロジェクトが失敗したことで得をしたのはあの方たちですから。」
「それだけじゃ・・・それに、会社の信用を失墜させ、マリン事業部だって大幅に赤字を生んだのだろう?いくら昇進したところで、大きく見れば損をしたんじゃないか?」
純一は、ミカの話に何の根拠もないことを見透かすように言った。
「いえ、きっとそうなのです。」
「如月さんや・・そうだ、副社長は疑いはないのかい?」
それを聞いて、ミサが言った。
「あの事故には何人かけが人が出ました。副社長もそのお一人でした。いえ、一時は命の危険さえある状態でした。意識がもどるまで2年ほど掛かりました。今でも、その時の後遺症で・・・半身不随ですし、酸素吸入機がなければ生きていけない体になられました。ですから、事故を起こすなど考えられません。・・・如月さんも乗船されてました。爆風で飛ばされた副社長を海中から引き上げ、救命処置をされたと聞いています。ご自身も怪我をされていました。」

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