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2-21 如月の正体 [スパイラル第2部遺言]


2-21 如月の正体
どうやら、会長の事故は、単純な話ではなさそうだった。しかし、確証はない。いや、10年もの時が経っている以上、今更罪を問うことさえ無理だろう。
「わかりました。その件は、もう少し成り行きを見ていきましょう。」
純一が一旦話を終えようとしたところで、洋一が言った。
「前社長・・英一社長の事故ももっと調べるべきです。きっと、会長の事故となにかつながっているはずです。」
純一もそのことは気になっていた。それに、メビウスからも、死の真相を調べるよう指示されている。
「洋一さん、あなたの熱意はよくわかりました。では、会長の事故と英一社長の事故、だれかの策謀によるものか徹底的に調べてください。社内の人間だけでなく、関わりのあった人も含めて調べてみてください。・・・それと、マリン事業部の存続も再検討してみましょう。あなたなら再建できるかもしれない。どうか、力を貸してください。」
純一は決意を込めて洋一に言った。
「あ・・・ありがとうございます。」
洋一は涙ぐみながら純一に頭を下げた。

「さて、あとは、如月さんと副社長ですね?ミカさん、続けてください。」
純一は、ミカの報告を待った。ミカは、洋一の涙ぐむ様子にもらい泣きしているのだった。
「スミマセン・・続けます。」
ミカは再び、説明を始めた。
「副社長は先ほど説明差し上げたとおりです。今は、会社の最上階に副社長室兼自宅を持たれてほとんどそこからは出られることはありません。・・資産はほとんどお持ちではありませんし・・。」
「そうですか・・・。」
「如月さんは、法務担当取締役で、英一社長が開発された特許やシステムのパテント管理、訴訟など一手に引き受けていらっしゃいます。そうとう頭の切れる方です。資産運用についても造詣が深く、我社の資産・経営管理は如月さんがされているといっても過言ではありません。」
ミカはこれまでの役員紹介とは違って、妙に褒め称えるように言った。
「欠点はない。我が社には欠かせぬ存在ですか。」
「はい。」
ミホは違和感を覚えていた。
かつて鮫島運送にやってきた時、小さな事務所をのぞきこみ、見下すような視線を送っていた。相続人の身辺調査と称して、妖しげな男を雇い、調査もさせた。お金に物言わせて何でもやってしまう、戸籍さえも捏造できる男だと思っていたからだった。
純一も同じ思いだった。第一印象は悪かった。こちらの都合などお構いなしという態度が気に入らなかった。
「住まいは?」
「本社のとなりの高層マンションの最上階に一人で住んでいらっしゃいます。」
「資産関係は?」
「現金預金はかなりお持ちのようですが・・・投資などはされていないようですね。堅実な暮らしといったところでしょうか?」
「英一社長が亡くなって、ほぼ実権を握っているんじゃないのかい?なのに堅実な暮らしというのも腑に落ちないけどね。」
そういう純一にミカが答えた。
「如月さんは子供の頃から随分ご苦労されたようです。両親を早くに亡くされ、施設にも預けられていたとか・・・苦学生だったようです。遊ぶこともなく、ひたすらに勉学に励んでこられて、今の暮らしを手に入れたということでしょう。」
なんだか純一は自分の人生を語られているように感じた。しかし、如月が時折見せる冷たい表情が気になった。
「どこか屈折している・・ということはないですか?」
それはまさに自分のことだった。
「そうですね・・・確かに、ご自身のことはあまり話されませんし、嬉しそうな表情を見たことはありません。でも、面倒見は良いお方です。私たちも、如月さんに声をかけて頂いて・・会長に引き合わせていただいたのですから。」
「君たちもかい?確か、ミホ・・いや、秘書のミホさんも如月さんの紹介で社長が採用したと・・。」
「ええ・・・上総CSの社員には、同じように、子供の頃には恵まれなかった者が多くいます。会長自身が、そうした子供たちへの援助もされていましたし・・・。」
「何か理由でもあるのかい?」
「さあ、そこまではお聞きしたことはありませんが・・・ただ、罪滅ぼしだと冗談交じりに話されたことはあります。如月さんは、その会長への恩返しのつもりもあるんじゃ無いでしょうか?」
「恩返しねえ・・・。」
自分と似た境遇、会長への恩返し、まるで自分がそうあるべきだと言われているように純一は受け止めていた。
「わかりました。どうやら、如月さんと副社長は、我が社には欠かせぬ人という感じですね。以上ですか?」
ミカは「はい」と頷いた。

ミカからの報告を聞いたあと、一通り資料をもらってから、純一はミホと供に、ラボへ向かった。

ラボの真ん中にあるソファに座り、純一はため息をついた。
「何か釈然としないんだよな・・・。」
呟く純一に、ミホも言った。
「ええ・・・私も・・・。」
「ミカさんの話を信じないわけじゃないけど・・・上総一族は皆悪人で、如月と副社長が善人というのもどこかありきたりだし・・確かに、会長の事故と英一社長の事故の関連も疑えばそうだろうが・・・何だか都合のいい話だし・・・第一、あの如月があまりに欠点が無いというのもね・・・。」
「ええ・・私も・・・最初に如月さんに会った時の印象はあまりいいものじゃなかったわ。どちらかというと私達を見下してるような・・・蛇みたいな印象だったし・・・。」
「君もそう思うんだね・・・。」
「ええ。」
純一とミホは、ソファで身を寄せた格好で、外の風景をぼんやり眺めた。


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