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2-22 役員会 [スパイラル第2部遺言]

2-22 役員会
役員会当日を迎えた。海が荒れていて、少し、出迎えに手間取った事もあって、開始は午後になってからだった。如月と伊藤は、自前の船でやってきていた。
如月、敬二郎、里美、敬子、伊藤守彦の5人は、邸宅のリビングに置かれた大きな丸テーブルに腰掛けて、純一たちが現れるのを待っていた。
秘書と洋一は秘書室で成り行きを見守っていた。
ラボから二人が現れると、敬二郎が立ち上がって言った。
「さあ・・とっとと始めましょう。」
何か、少し投げやりな言い方で役員会の開催を催促した。
明るい日差しの差し込む窓を背に、純一とミホは座った。
「では、役員会を始めましょう。私が出した宿題は準備されていますか?」
純一は少し勿体つけるような言い方で皆を見た。敬二郎や里美は、如月にサインを送った。如月が大きく息を吐き出してから徐に立ち上がり、資料を取り出した。
「私から提案させていただきます。・・・一応、常務に依頼された事も先にお伝えしておきます。」
敬二郎は、チッと口を鳴らして苦虫を潰したような表情を浮かべた。
「社長はこれまで会社経営のご経験はないと伺っております。それでは、我が上総CS全体の経営を背負われるのは多大な負担になると考えました。そこで、各事業部を独立させてはどうかという提案です。」
大型モニターに会社の分割モデルと現況の経営と将来損益などが表示された。
「私の案は、コンピューティング部門と資産管理部門などを本社機能に残し、他の部門を切り分ける者です。マリン事業部を上総マリーンへ、そして、文化事業部を上総アカデミーへ切り離します。アミューズメント事業部は資産価値が大きいので現状のまま、独立採算制を取り入れます。」
非常に判りやすいデータ表示で、上総CSの事業損益も大幅に改善する事になっている。
「それで?」
純一が促した。
「その上で、小林社長は上総グループの総帥会長に就任いただき、それぞれの会社に社長を置きます。上総マリーンは伊藤部長が社長に、そして上総アカデミーは常務と奥様に社長と副社長をお願いします。本社は山下副社長が社長に、私は資産管理や知的財産権保全のための新会社を設立して社長となります。小林社長は総帥会長として、各社の社長へ指示を出すという仕組みでいかがでしょうか?」
「なるほど・・それぞれが自由にやれるようにという事ですか・・・。」
純一は少し皮肉った言い方をした。
「いえ・・小林社長のご負担を減らすためですし、今まで以上に役員の責任は重くなります。これなら、赤字になればそれぞれが責任を負う事になりますから、、上総CS本体への影響を最小限に留める事が出来ます。」
敬二郎や里美は今ひとつ理解できないような表情を浮かべていた。
純一は、耳に小さなイヤホンを入れていた。秘書室からミカやミサの意見も聞けるようにしていたのだった。
秘書室のミカがマイクに向かって一言言った。純一は小さく頷いた。
「しかし、分割するといっても経営権まで譲渡するということになるのですか?」
如月は、すでに織り込み済みという表情を浮かべて答えた。
「いえ・・・これだけの事業を譲渡するというのは無理です。資産価値も大きいですから。」
「では、結局、今のままと同じではありませんか?」
「いえ、ここからが本提案です。さきほどの分社においては、経営権の譲渡は出来ません。ですから、それぞれの事業への増資を社長に就任されるからに行なっていただき、共同経営者となっていただきます。」
それを聞いて、敬二郎が慌てた。
「増資?」
「ええ・・・そうですね。文化事業部の場合、一昨年建設したホールも資産価値に入りますから、ざっと3億円程度が相場でしょう。」
「3億円?そんな無茶な・・・何処にそれだけの金があるんだ!話にならん!」
顔を真っ赤にして怒って言った。
「そうですか?・・・今お住まいの邸宅はざっと3億円ほどの資産価値があります。あれを抵当に入れて金融機関から借り入れされれば都合つくでしょう。・・・もともと、あの邸宅は会長の所有だったんです。いつの間にか登記移転され、常務が所有されているようですが・・・。」
如月は、冷たい表情で言った。
「何だ!その言い方は!まるで俺があの屋敷を盗んだみたいな言い方をしよって!」
「違いますか?」
如月の表情は全く変わらなかった。
「ふん、話にならん。」
怒ったまま、敬二郎は椅子に座った。

「あの・・・マリン事業部はいかほどになるんでしょうか?」
伊東守彦が弱弱しい声で訊いた。
「マリン事業部は、販売のみの事業に集約し、マリーナや整備場などはそのまま上総CS所有にします。販売事業のみですから・・そうですね・・・3千万円程度の出資で賄えるでしょう。まあ、貴方の年棒3年分程度を納めてもらえれば結構です。」
「三千万円?!ですか・・。」
「しかし、その前に、貴方はやるべきことがあります。」
如月の目が再び蛇の目のように詰めたい表情に変わった。
「やるべき事?」
すぐにわからないような表情を浮かべている伊藤部長に、如月は、モニター画面に、伊東と佐橋麗子とのツーショットを大写しにした。
「彼女の名は佐玲子。マリン事業部の経理担当ですね。」
伊藤部長の顔から血の気が引いていくのが傍目にも判った。
「彼女はマリン事業部に入ってから、不正経理を繰り返しています。・・私の調査では総額で5千万程度が着服されていると見ています。・・・そして、貴方は彼女と深い関係にある。貴方はまず、彼女を始末して着服金を戻してもらう事になります。その上で、マリン事業部を手に入れるということです。」
如月の報告に、妻である敬子は表情を崩さなかった。すでに如月から聞いていたのだろう。夫の浮気と横領の二つの罪を聞き、すでに敬子は夫守彦に愛想をつかせていたのだ。
「離婚届は用意してきましたから。あとで判子を押してちょうだい!もう貴方とは縁を切るわ。私の財産なんてあてにしないでね・」
ほくそ笑んで、敬子は守彦の前に離婚届を投げつけた。

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