白井貞信 さん
3-13 再会 [スパイラル第３部 スパイラル]
3-13 再会
「あそこに？」
純一は今一度確認するように如月に訊いた。
「ええ・・・。身体が良くなられてから、あそこに・・・。最初は、どこか遠くへ身を隠すとおっしゃっていましたが・・・それでは、二度と会長と会うことも叶わないと思い、ここに家を作り住んでもらいました。・・それに・・・」
如月が言い終える前に、純一はその家に向かって歩き始めた。
まだ、万全の身体ではない。砂に足を取られる。ミサが肩を貸すように傍について歩いた。
砂浜から、ミサ樹の上に登る石段があった。
純一は一歩一歩登る。視界が開けると、そこには小さな家が建っていた。
入口には小さな門があり、広い芝生の先に玄関があった。純一はゆっくりと進む。
玄関に辿り着くと、チャイムを鳴らそうと手を伸ばした。
「会長、少しお待ち下さい。」
ミサがそっと伸ばした純一の手を止めた。そして、ポケットから小さな箱を取り出した。
「これをどうぞ。」
箱を開くと、ペンダントが入っていた。
「これは・・・。」
「ええ・・・あのショッピングモールでご褒美に買っていただいたものですが・・・。」
「しかし・・・。」
「いえ・・・ご褒美というのは嘘です。いつかこの日が来る事を願っておりました。その時に、プレゼントしていただけるように選んだんです。ミホさんのイニシャル、Mのデザインです。」
純一は、その箱を握り締めた。そして、再び、手を伸ばしてチャイムを鳴らした。
すぐには返事は無かった。
その代わりに、玄関ドアの向こう側から、パタパタという小さな足音が響いている。
純一の胸の鼓動が高まっていく。
ドアがゆっくりと開いて、ドアの隙間から、小さな手が見えて、すぐに引っ込んだ。
純一は戸惑った。
「え？・・今のは？」
純一がミサを見た。ミサがにっこりと笑った。
再び、ドアが開くと、ミホが小さな子どもを抱きかかえて立っていた。
純一は言葉を失った。
目の前に居るのは確かにミホなのだが、この子は一体？
ミホはまっすぐ純一を見つめ、大粒の涙を零している。
「ママ？」
抱きかかえられた子どもが愛くるしい声で言った。
「君の子どもなのか？」
純一は唐突に訊いてしまった。
ミホは涙を零しながら小さく頷いた。
「どういうことなんだ？」
「純と名づけました。」
ミホはそういうと、抱きかかえた子どもを純一にしっかりと見えるように抱きなおした。
「純？」
「ええ・・・さあ・・純、お父さんよ。あなたのお父さん。判る？」
その幼子は、ミホの言葉を聞いてしばらく考えているようだった。
そして、急に、純一をじっと見つめた。
「お・・とう・・さん？」
「そう・・・。あなたのお父さん。パパよ」
それを聞いて、幼子は手を伸ばして「パパ！」と叫んだ。
純一はそれに答えるように、手を伸ばし、幼子を抱きしめた。
「純・・・純か・・・そうだ・・・パパだ。パパだよ。」
ミホも、純一に抱きついた。
「ミホ・・・遅くなってごめん。あの日の約束、ようやく果たせたよ。」
あれから４年。
純一は、岬の家に移り住み、親子水入らずで暮らすことにした。
純一は、すっかり身体も治り、早朝からマリーナに出かけ、マリーナの事務所の最上階に作られた会長室から、海の様子を確認するのが日課になっていた。
純は、幼稚園に入った。
幼稚園までは、ミホが自転車で送り迎えをしていた。
「お父さーーーん！いってきまーーす。」
毎朝、登園の時、自転車の後ろの席から、マリーナにいる純一に大きな声で挨拶をする。
ミホも、手を振り、颯爽とマリーナを横切っていく。
穏やかで他愛の無い幸せな日々がゆっくりと過ぎていく。
長い間、お読みくださってありがとうございました。ー完－
「あそこに？」
純一は今一度確認するように如月に訊いた。
「ええ・・・。身体が良くなられてから、あそこに・・・。最初は、どこか遠くへ身を隠すとおっしゃっていましたが・・・それでは、二度と会長と会うことも叶わないと思い、ここに家を作り住んでもらいました。・・それに・・・」
如月が言い終える前に、純一はその家に向かって歩き始めた。
まだ、万全の身体ではない。砂に足を取られる。ミサが肩を貸すように傍について歩いた。
砂浜から、ミサ樹の上に登る石段があった。
純一は一歩一歩登る。視界が開けると、そこには小さな家が建っていた。
入口には小さな門があり、広い芝生の先に玄関があった。純一はゆっくりと進む。
玄関に辿り着くと、チャイムを鳴らそうと手を伸ばした。
「会長、少しお待ち下さい。」
ミサがそっと伸ばした純一の手を止めた。そして、ポケットから小さな箱を取り出した。
「これをどうぞ。」
箱を開くと、ペンダントが入っていた。
「これは・・・。」
「ええ・・・あのショッピングモールでご褒美に買っていただいたものですが・・・。」
「しかし・・・。」
「いえ・・・ご褒美というのは嘘です。いつかこの日が来る事を願っておりました。その時に、プレゼントしていただけるように選んだんです。ミホさんのイニシャル、Mのデザインです。」
純一は、その箱を握り締めた。そして、再び、手を伸ばしてチャイムを鳴らした。
すぐには返事は無かった。
その代わりに、玄関ドアの向こう側から、パタパタという小さな足音が響いている。
純一の胸の鼓動が高まっていく。
ドアがゆっくりと開いて、ドアの隙間から、小さな手が見えて、すぐに引っ込んだ。
純一は戸惑った。
「え？・・今のは？」
純一がミサを見た。ミサがにっこりと笑った。
再び、ドアが開くと、ミホが小さな子どもを抱きかかえて立っていた。
純一は言葉を失った。
目の前に居るのは確かにミホなのだが、この子は一体？
ミホはまっすぐ純一を見つめ、大粒の涙を零している。
「ママ？」
抱きかかえられた子どもが愛くるしい声で言った。
「君の子どもなのか？」
純一は唐突に訊いてしまった。
ミホは涙を零しながら小さく頷いた。
「どういうことなんだ？」
「純と名づけました。」
ミホはそういうと、抱きかかえた子どもを純一にしっかりと見えるように抱きなおした。
「純？」
「ええ・・・さあ・・純、お父さんよ。あなたのお父さん。判る？」
その幼子は、ミホの言葉を聞いてしばらく考えているようだった。
そして、急に、純一をじっと見つめた。
「お・・とう・・さん？」
「そう・・・。あなたのお父さん。パパよ」
それを聞いて、幼子は手を伸ばして「パパ！」と叫んだ。
純一はそれに答えるように、手を伸ばし、幼子を抱きしめた。
「純・・・純か・・・そうだ・・・パパだ。パパだよ。」
ミホも、純一に抱きついた。
「ミホ・・・遅くなってごめん。あの日の約束、ようやく果たせたよ。」
あれから４年。
純一は、岬の家に移り住み、親子水入らずで暮らすことにした。
純一は、すっかり身体も治り、早朝からマリーナに出かけ、マリーナの事務所の最上階に作られた会長室から、海の様子を確認するのが日課になっていた。
純は、幼稚園に入った。
幼稚園までは、ミホが自転車で送り迎えをしていた。
「お父さーーーん！いってきまーーす。」
毎朝、登園の時、自転車の後ろの席から、マリーナにいる純一に大きな声で挨拶をする。
ミホも、手を振り、颯爽とマリーナを横切っていく。
穏やかで他愛の無い幸せな日々がゆっくりと過ぎていく。
長い間、お読みくださってありがとうございました。ー完－
2013-04-08 08:00
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コメント(6)
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こんにちは！
今回も長い間物語を読ませていただき有難う御座いました！
ヒヤヒヤドキドキ楽しみながらハッピーエンドでした！！
by シラネアオイ (2013-04-08 11:49)
シラネアオイ様
前作を含め、ずっと読み続けていただき本当にありがとうございました。
先日、交通事故に遭い、暫く入院しておりました。
次回作の構想を練っているところでしたが・・・少しお休みさせていただきます。
by 苦楽賢人 (2013-04-08 12:49)
こんにちは！
怪我をされたんですね！
お大事にしてください！！
by シラネアオイ (2013-04-09 09:21)
お早うございます。
毎回楽しませて戴きました。アリガトウございました(_ _)
by yakko (2013-04-09 09:30)
えっ ! 交通事故で入院なさっていたんですか、
どうぞ、お大事になさって下さい !!
by yakko (2013-04-09 09:33)
yakko様、シラネアオイ様へ
ご心配をおかけしてしまったようで・・・怪我は大した事はありませんので・・・。
なかなか次のお話が浮かばなくて・・ちょっと、事故を言い訳にしてしまって・・反省しています。
by 苦楽賢人 (2013-04-10 08:52)