SSブログ

3-12  約束 [スパイラル第3部 スパイラル]

3-12 約束
ゆっくりと工事をしているマリーナの中へ入った。
「如月さんもこちらに向かわれているようです。」
「そうですか・・・。」
「車でお待ちになりますか?それとも、少し散歩でもいかがですか?天気も良いですし・・あそこの砂浜辺りも気持ち良いでしょうから・・・。」
「そうですね・・・外の空気に当たるのも悪くない・・・行ってみましょう。」
純一は車を降りた。

マリーナの先には白い砂浜が続いている。
今朝は風も無く、波もほとんど立っていない。
「昔、ここらは夏になると賑やかな海水浴場でした。・・・施設からも近かったから、よくここに遊びに来たものです・・・。」
純一の言葉どおり、山際の斜面を利用して、海の家が作られていた跡が残っていた。
純一は眼を閉じると、その頃のにぎやかな光景を思い起こしていた。
今は、昔ほどの賑わいはないのか、すっかり寂れてしまっているようだった。

「会長、お体は如何ですか?」
如月が早足で、手を振りながらやって来た。
「もうマリーナはご覧いただけましたか?」
「ええ・・随分立派な施設が出来るようですね・・。」
「あと二ヶ月ほどでほぼ完成です。・・ここを新たな拠点に上総CSは再興させようと思っています。」
如月は、純一を元気付けるつもりなのだろう。いつもよりも力の入った言葉で言った。
「ああ、きっと素晴らしいところになるでしょう。ここは波も穏やかだし、冬も暖かい。交通の便もいいから、遠くからも訪れる人は多いでしょう。きっと賑うにちがいない。」
「会長に言っていただけて、一層勇気が出ました。」
「短い期間でよくここまで・・・如月さんを社長にして良かった。きっと者の皆も安心して仕事が出来るでしょう。」
「いえ・・私の力だけでは在りません。・・・皆、知恵と力を出してくれていますから・・・。」
「そうですか・・・。」
前以上に、上総CSが発展している事を純一は喜びながらも、やはり、ここにミホが居ない事をふと思い出し、ふたたび沈んだ気分になっていた。

「会長のお住まいもこちらに移されてはいかがでしょうか?」
如月の言葉に純一は少し躊躇うような表情を見せた。
「会長は幼い頃、ここで過ごされたんでしょう?」
「ええ・・しかし・・・・。」
確かに、養生するには都合の良い気候の土地だった。
だが、ここには幼い頃の想い出が多い。
きっと、ミホの事を毎日思い出すに違いない。今、こうしてここに居るだけでも、ミホとの約束を果たせなかった自分の不甲斐なさに強く後悔しているのだ。

そんな様子に、如月も気付いていた。
如月は、決意した表情を浮かべて言った。
「実は、会長にお話しなければならない事があるのです。」
「なんですか?」
如月は、傍にいるミサをチラリと見た。ミサもこくりと頷いた。
「実は・・・ミホさんは生きておられます。」
如月の言葉に純一は驚いて如月の顔を見た。
「今、何と・・・。」

「ミホさんは生きておられます。本当です。・・・あの事故は確かに酷いものでした。しかし・・ミホさんは奇跡的に助かったのです。・・いえ、奇跡ではないかもしれません。ミサさんたちがミホさんを見つけた時、ミホさんの体をメビウスが包み込むようにしていたというのです。」
それを聞いて、ミサが続けた。
「海面に浮かんだメビウスの塊の中に、ミホさんは優しく包み込まれるようにしていました。意識はありませんでしたが、外傷も無く、病院に運ばれまもなく意識を回復されました。」
「ミホが生きている?」
純一は信じられなかった。
「生きているなら・・何故・・・それを・・・。」
ミサが涙ぐみながら答えた。
「ミホさんの願いです。ミホさんは全ての記憶を取り戻されていたんです。それで・・・このまま会長の傍にいるのは許されないと考えられたようです。」
「どうして・・・私はミホさえ無事ならば・・・それで・・・。」
「私たちもそう言って引き止めました。しかし、ミホさんの決意は固かったのです。会長と過ごされた日々は偽りではないけれど・・・それが、全てメビウス破壊の為に仕組まれて運命だったのだとわかって、会長と顔をあわせる資格が無いと言われ・・・・それで、ミホさんは事故で亡くなったことにしたんです。」
「そんな・・・・・どんな形であっても・・いや、ミホがどう思っていようと・・私はミホとの約束を果たしたい・・・・私は幼かったミホに約束したんだ。・・必ず迎えに来るからと・・・その約束を果たしていない私こそ責められるべきなんだよ・・・・。」
純一は、その場に座り込んでしまった。

「会長、ミホさんはすぐ近くにいらっしゃいます。」
如月はそう言うと、砂浜が続く小さな岬を見上げた。
岬の上、木の陰から屋根が見える。

nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0