SSブログ

24 女たちの相談 [命の樹]

24 女たちの相談
日がすっかり暮れた頃、千波と結、加奈が階段を下りてきた。健は緊張した表情で立ち上がった。
しかし、下りてきた3人は、予想外に穏やかな表情をしていた。
「まったく、千波は大げさなんだから・・。」
加奈が笑いながら言った。
「だって・・。」
千波は口をとがらせて不満そうに答える。
「まあ、でも安心したわ。まさか、ぐっすり眠りこんでいただけなんてね・・。ほんと、千波のおっちょこちょいは誰に似たのかしらね?」
加奈が言うと、結が少しからかうように言った。
「え?千波ちゃんはお母さん似じゃないんですか?」
「まさか、哲夫さんよ。・・いや、でも、あの人の場合、おっちょこちょい、じゃなくてせっかちね。」
「じゃあ、やっぱり、加奈さんに似たんでしょ?」
「嫌なこと言うわねえ。」
三人は、そこに健が居ることを忘れたかのように、和やかに会話しながらテーブルに着いた。
「あ・・あの・・」
どう会話に入っていいかわからず、健が小さく呟くように言った。
「あら、健さん、ごめんなさいね。・・・ええっと、こっちは次女の千波、大学生。そして、こちらは、水上結さん。まあ、私の妹みたいなものかしらね。」
「あ、僕は、伊藤 健、フリーターです。」
健はちょこんと頭を下げた。
「フリーター?・・何それ?・・無職ってことでしょ?」
千波は、健を品定めするようにじろじろと見ながら言った。
「千波ちゃん、相変わらずね。どうして、そんなに男の子には厳しいの?」
結が言うと、千波は何食わぬ顔で続けた。
「厳しいんじゃないわ。周りに、情けない男が多すぎるだけ。」
仕方ないわねという顔をしながら、加奈は、厨房に行くと、コーヒーを運んできながら言った。
「それにしても、千波、一体どうしたってわけ?こんな時期に。帰るなら前もって連絡しなさいっていつも言ってるでしょう?」
「ごめん。昨日、イタリアから戻ったばかりなの。夏休みに一ヶ月ほど、ヨーロッパあたりを旅行をしてたもんだから・・ついでに帰省しようかなって・・。」
千波はコーヒーを口にしながら、ちょっと視線を外して答えた。
「嘘でしょ?」
加奈もコーヒーを飲みながら言った。
「実はさあ・・ちょっと予定より滞在が伸びてしまって・・ピンチなのよね。」
「やっぱりね。今度は幾ら?」
千波は、アルバイトで貯めたお金でふらっと海外旅行に行くのが趣味だった。ただ、無計画なために、時々、生活費に困ることがあった。
「ごめん。いくらでもいいの。」
千波の答えも大体同じだった。こう言うと、加奈が5万円くらいを都合していたのだった。
「仕方ないわねえ・・。」
健は、哲夫に何かあったのではないかと大いに心配していたのだが、三人の会話は何事もなかったように他愛のない様子で、大したことではないのだろうと思い、そのまま訊かずにいた。数日前に偶然世話になっただけである。余りに立ち入った事を訊くのも気が引けたのだった。
「結ちゃん、今日、泊まっていけるんでしょう?」
加奈が訊いた。
「・・そうですね。特に予定もないし・・。」
「そう?良かった。じゃあ、夕食にしようか。」
加奈はそう言って立ち上がった。
「ねえ、部屋は?」
千波が、大きな荷物を抱えて、加奈に訊いた。
「ああ、そうか。・・2階の小さい部屋、一つは、健さんが使ってるから隣を使って。結ちゃんも千波と一緒で良いでしょ?布団は押入れにあるから。」
加奈が言い終わらぬうちに、千波は階段を上っていった。後を、結がついて上った。
「健さん、ちょっと手伝ってもらって良いかしら?」
加奈は健に夕食の準備の手伝いを頼んだ。
夕食の支度が出来て、テーブルに、加奈と千波と結が着いた。
「健さんもどうぞ。・・ねえ、せっかくだから、ワインを開けましょう。ほら、哲夫さんは下戸でしょ?いつも、私一人で飲んでてつまんないのよ。今日は楽しみましょう。」
「やったあ!」
千波が喜んだ。夕食は、千波がヨーロッパ旅行で撮ってきた写真を見ながらの土産話で終始した。

午後9時を回った頃には、健はかなり酔ってしまって、正体を失くし、ソファで寝てしまっていた。
それを確認して、加奈が結に訊いた。
「哲夫さんの具合はどうなの?」
加奈も千波も結も、相当ワインを飲んでいたはずだったが、少しも酔っていなかった。
「少し無理をしたみたいですね。でも、千波さんがすぐに酸素ボンベを着けてくれたから、大事に至らず良かったです。今、点滴もしていますから、明日にはもう普段どおりに動けるでしょう。」
「そう・・・彼が来て、哲夫さんも少し張り切っていたみたいね。・・」
加奈が不ソファで眠っている健をチラリと見た。
「これからは、もっと、こういうことが起きると思います。」
「そんなに悪くなってるの?」
千波が不安げに訊いた。
「ええ・・こうして普通に暮らしている事自体、奇跡だなんです。痛みが出ていないのが不思議です。」
「でも、いつもこんなふうに、哲夫さんの傍に居られるわけじゃないし・・。」
加奈も不安げに訊いた。
「その為に、良いものを持ってきました。携帯用酸素ボンベです。」
結は席を立って厨房の脇に置いた箱を開けて、ちょうどPETボトルほどのものを持ってきた。
「これから、哲夫さんにはこれをいつも持ち歩いてもらうようにしてください。」
「それがあれば、少しは・・。」
「ええ、苦しくなったらすぐに使うことで、楽になります。とにかく、呼吸を確保することです。」
3人は、それ以外にも注意する事を夜遅くまで話し合った。

nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0