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23 嵐の去った後 [命の樹]

23 嵐の去った後
翌日は晴天だった。
加奈を仕事に送り出してから、哲夫は、まず与志さんの家を見に行った。
壊れた場所はなかったが、畑から土砂が庭先に流れ込んでいて、物置の戸が壊れていた。
哲夫は早速修理に取り掛かった。健には土砂を取り除くように言って、自分は、まず蝶番を外して戸の歪みを直して取り付けなおした。その頃には、健もすっかり土砂を取り除いていた。
「これで大丈夫。」
「ありがとうね。」
哲夫と健は、与志さんと別れて、倒木の下敷きになっているバイクを見に行った。
昨日は、夕暮れで薄暗い中、どれほどの状態か判らなかった。行ってみると、倒木はかなりの大きさだった。そのままではバイクは引き出せそうになかった。
「小さく切らなきゃ、駄目かな。与志さんもこの道が通れないと困るだろうし・・。」
哲夫と健は、一旦、自宅に戻ると、物置小屋に入った。
「確か、小さなチェーンソーがあったはずだが・・・。」
健は小屋の中を見て驚いた。ちょっとした工房のようだったのだ。
「ああ・・あった。使えるかな。」
哲夫はところどころにマシン油を指して、エンジンをかけた。ブーンと特有の音を立ててチェーンが回った。
「大丈夫だな。」
そう言うと、石段を降りて、神社の脇を通り先ほどの場所へ戻った。
1時間ほどかけて、倒木を小さく切り分け、道路の脇へ積み上げると、ようやくバイクが姿を現した。
健はすぐにバイクを起こしてみた。エンジンスイッチを入れてみたが、セルの回る音だけだった。
ハンドルとマフラーが歪んでいる。タイヤのスポークも3本ほど折れてしまっていた。
「こりゃあ、修理するのは手が掛かりそうだな。」
「どこか、バイク屋はないでしょうか?」
「バイク屋か・・・この町にはないなあ。浜松辺りならあると思うけど・・。とりあえず、うちの駐車場まで持っていこう。」
夏の終わり、日差しは強かったが、森の中の道は涼しかった。
健はバイクを引きながら哲夫の後をついていき、神社の脇の駐車場にバイクを停めた。

哲夫は、一旦、家に戻った。急に疲れが出た。少し息が上がっているのが自分でもわかる。
「悪いが、少し横になるよ。何だか、慣れない仕事で疲れたみたいだ。・・ああ、昼食は、そこにパンがある。冷蔵庫から何でも適当に出して、サンドイッチでも作ると良い。・・上にいるから、誰か来たら起こしてくれ。」
哲夫は健にそう言うと、階段を上っていった。
健は厨房の棚にあるパンを見つけ、冷蔵庫からジュースを取り出して、昼食にした。それから、電話帳を探し出して、バイク修理の店を探した。
何軒かの店は見つけたが、電話をすると、「出張修理は難しい、店に持ち込んでくれれば出来る」という返答ばかりだった。場所を確認すると相当遠いところばかりだった。そこまでどうやってバイクを運ぶか、まさか引いていくには無理がある。誰かに軽トラックでも借りなきゃ難しいぞ。しかし、この辺りには知り合いも居ないし、哲夫さんなら誰か当てはないかと考えた。
哲夫が2階に上がってから、3時間近く経とうとしていた。お客は一人も来なかった。そのうちに、健も、ソファに座って、うとうとと、し始めた。
「あなた、誰?」
目の前に若い女性が立っている。スリムな体系、短いスカート、大きなバッグを持っている。
健はぼんやりした頭で、お客と思って、反射的に答えた。
「いらっしゃいませ・・。」
「いらっしゃいませって・・ねえ、あなた、誰?バイト?そんな必要ないでしょ、この店に。」
その女性はそう言うと、健に大きなバッグを投げつけ、スタスタと2階へ上っていった。
「ねえ、お父さん!お父さん!・・どこ?ねえ、変な人がいるわよ!」
その女性は、下の娘、千波だった。
その直後、血相を変えて、ばたばたと階段を下りてきた。
店の中を見回し、何かを探しているようだったが、いきなり、健からバッグを取り上げて、携帯電話を取り出した。
「もしもし、結さん?・・お父さんが・・・・ええ、待ってます。ねえ、どうしたらいいの、・・・ええ・・わかりました。」
携帯電話を握り締めて、再び、2階へ駆け上がった。健も心配になってそっと2階へ上がってみた。
2階には部屋が三つあった。いずれも傾斜天井で、屋根裏部屋の形状となっていた。
昨夜、与志と健が泊まった、6畳ほどの客室が東側に二つ。風呂と洗面台をはさんで、西側に10畳ほどの大きな部屋があった。そこにはベッドと机などが置かれていて、夫婦の寝室らしかった。
寝室のドアが少し開いていた。健が中を覗くと、千波が哲夫に何かを着けている。千波の陰でよくわからない。ドアをもう少し開けようとした時、千波が振り返った。
「出て行って!」
そう言って、バタンとドアを締めてしまった。
30分ほどすると、石段を駆け上がってくる足音が響いた。慌ててやってきたというのが足音だけで充分判った。今度は30代の女性だった。
「あなた、誰?」
「あ・・いや・・その・・」
健が答えるまもなく、
「おじさんは?」
健が、恐る恐る2階を指差すと、靴を脱ぎ散らかして、その女性が階段を駆け上がっていった。
「千波ちゃん!おじさんはどう?」
その声だけは聞き取れた。しかし、その後は静かになった。
そのうちに陽が傾いてきた。健は、突然の事にその場から動けず、ぼーっとして外を眺めていた。
小さく、車の停まる音がした。
「哲夫さん!」
今度は加奈が戻ってきたのだった。
今、目の前で起きていることは尋常な事でない、哲夫の身に何かあったんだと、健は思っていた。何が出来るわけでもないが、結果が判るまで健は落ち着かなかった。

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