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2.キラ [AC30第1部グランドジオ]

「では、行ってきます。」
体に密着する形状のエメラルドグリーンのボディスーツを着た若者の名はキラ・アクア。年は17歳。ひときわ大きな体格で、伸びた髪の毛を一つに縛り、鋭い眼光の持ち主だった。
「グラディウスは持ったか?」
そう言ったのは、キラの父、アルス・アクアだった。
黒い髭を蓄え、長い黒髪。グラスファイバー製の車椅子に乗っている。
「気を付けるんだぞ。私のようにしくじるんじゃない。お前に何かあれば、皆、飢え死にすることになる。」
「はい。充分に気を付けます。それに、これがあれば大丈夫です。」
そう言って、キラは、薄いブルーの細長い杖のようなものを目の前に掲げた。
「それは、先人たちから伝わった道具、グラディウスだ。これがあれば、凶暴なウルシン等ひとたまりもないはずだ。」
ウルシンとは、地上の森に潜む大型の昆虫だった。
原種はカマキリの類だが、気候変動で巨大化し、人類よりも大きく、肉食性で大型の爬虫類を鎌で捉え捕食する。これが最大の敵であったが、これ以外にも肉食性の昆虫や爬虫類もいる。丸腰ではひとたまりもない。キラの父アルスは、狩猟の最中に、ウルシンに足を奪われたのだった。
ここは、ライフエリアの中央、ライフツリーの立ち並ぶ真ん中の広場であり、コムブロックと呼んでいた。一族のほとんどは、日中は、そこに集まり過ごしている。
キラは、グラディウスを背中のバッグの脇のホルダーに収めると、さっと走り出す。
コムブロックから螺旋階段へ続く通路には、同じように狩猟に出かける若者たちが次々に集まっていて、家族たちが見送りに来ている。ここで若者たちは列をなし、ライフエリアから地上へ続く階段を昇っていく。
皆、同じようにエメラルドグリーンのボディスーツを着て、手にはグラディウスを持っていた。そして、背中には大きなバッグを背負っていた。

これから、彼らは地上に出て、食料を調達するのだった。夏と冬は、人間が耐えられる気候ではない。
1年間のわずかのこの時期に、食糧となりそうなものをいかに多く収集できるかが、ここに住む全ての人の命を握っていた。
キラたちが出かけたのは、マイナス60℃以下まで凍りつく深い冬の期間が終わり、厚い氷が解け、地上温度が10℃程まで上昇したころだった。現代で言えば、春の季節なのだろう。

地上までは100m。
もともと、このジオフロントを作った頃の科学者たちは、彗星落下以降、地表で人類が生きられるとは考えていなかった。地球環境が大きく変わり、人類が地表で生きられる保証はないと判断され、地上に出ることは想定されていなかった。そのために、地表につながる通路は、緊急用であり、利便性などは考えられていない。
細長い螺旋状の長い階段が遥か天井高くに続く。
毎年、こうして狩猟や採集に出かける若者たちのうち、何人かは命を落とす。それでも、そうせざるを得ない。皆、長い階段を無言で昇っていく。

出口は何層もの厚い扉で仕切られている。隕石落下による衝撃と、その後の気候変動を予測した、科学者たちによって作られたものであった。面倒な扉の開閉を何度も繰り返し、キラがようやく地上に通じる最後のチャンバーに着いたのは、ツリーをでて1時間近くたっていた。

朝日がようやく昇った時間で外気はようやく10℃程まで上昇していた。この時間なら、まだ、害となる昆虫や爬虫類は活発には動き回っていない。
共に地上に出た若者たちは、数人のグループに分かれて、狩猟と採集を行う。
50人ほど居ただろうか。それぞれ、出口からちょっと顔をのぞかせると周囲を探り、安全を確かめると草むらに身を隠しながら慎重に出かけて行く。
キラも、同じツリーの仲間3人と行動を共にした。


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