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3‐14 豊かな森 [AC30 第3部オーシャンフロント]

「タワーの北側の山はどうなっているのですか?何か生き物が住んでいるのですか?」
キラが訊くと、「では、ご覧いただきましょう。」とステラが言う。
部屋の前の風景が変わり始める。「白い部屋」が北側に向かって動き始めたのだった。
間近なところに山が見えた。
「彗星衝突前の原始の森です。主がかつて大陸にあった樹木や草木をここへ移し、種を保存したのです。700年の時を経て、素晴らしい森となりました。この森には、かつて地球上にいた生物も生きています。」
ジオフロントの地表は、強大な虫たちに席巻されていて、樹木や草木もまるで違っている。目の前には太い幹を持った針葉樹や広葉樹が育ち、木々の間を飛ぶ生き物も見える。
「あれは、鳥という生き物です。美しい声で鳴きます。人間に危害を加える事はないそうです。他にも、人間と変わらないくらいの大きさの動物も多数いるそうです。中には、人間を襲うような危険な生き物もいて、ドロス達が時々襲われるのだと主から聞いております。しかし、そういう彼らが森で暮らすことで、それぞれの数が抑制され、森は循環し、再生して行くのだそうです。古代の地球は豊かだったのですよ。」
ステラは、この原始の森に魅了されているように、うっとりとした表情で、森の様子を語った。
「雨の降る季節はとても美しいのです。白い霧に覆われた森、山肌を流れ落ちる水、水は集まり、川となり、このタワーの近くまで流れてきます。何か、神秘的な美しさを感じる事が出来ます。」
キラは、はっと気づいた。オーシャンフロントは、最も快適な環境を求めて、広い大洋を移動するはずである。ジオフロントのように、酷暑や極寒の季節はない。雨季さえも避けることはできるはずだった。雨季があるという事は、この森を維持する事がどれほど難しい事かを示している事になる完全な世界を作れているわけではないことか、ならば、オーシャンフロントにはまだ他にも弱点があるはずだと考えた。
「雨が降る期間はどれくらいなのですか?」
「1ヶ月ほどです。毎日、毎日、たくさんの雨が降ります。」
ステラはそう言いながら、窓の外を見る。まるで、今も雨が降っているような、そんな表情だった。
「雨に触れたことはあるのですか?」
キラが尋ねると、ステラは淋しそうな顔になった。
「タワーから外へ出る事は許されていません。私のようなパトリは外気に触れる事は許されないのです。」
「どうしてですか?あれほど豊かな森があり、田園も広がり、空気も美味しいのに・・・。」
「外の空気に触れると、病に罹るのです。」
「私は外から入りました。大丈夫なのですか?」
ステラは少し考えて応えた。
「清浄の道をお通りになったでしょう?」
「清浄の道?」
「タワーに入る前、白く長い通路があったはずです。あれは、外気に含まれる有害なものを除去し、清浄にする場所なのです。ノビレスの女性たちがあなたをご案内したはずです。彼女たちは、あなたが持ち込んだ有害なものがどれほどのものかを試すために付き添いました。」
キラは、通路が動いたとき、隣にいた女性の腕を掴んだことを思いだした。
「あの時、隣の女性の腕を掴みました。」
「そうですか・・・。」
ステラは少し悲しい表情を見せた。
「まさか・・。」
「彼女はおそらくもう処分されているでしょう。あなたが掴んだ腕は切り落とされたはずです。」
「そんな・・。」
「オーシャンフロントには、陸地からの虫が飛んでくることがあるそうです。PCXがすぐに虫は焼き殺しますが、中にはドロスの住居近くに達する事もあります。そういう場合は、一帯をすべて焼き払うのです。」
「ドロスの人たちも全て?」
「もちろんです。オーシャンフロントのためです。虫が入り込めば、豊かな森も失われかねません。」
ならば、なぜ、ジオフロントを襲ったのか、完全なる世界に、ジオフロントは不要なもののはずだった。陸地に近づく事は虫の害にあるリスクが高くなる。敢えて、リスクを冒してまでどうしてジオフロントを襲ったのか、キラは大きな疑問を抱えたのだった。

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