SSブログ

序2 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

翌朝、レイは橋川署に居た。一樹は署長に呼ばれ、亜美とともに署長室に行った。
「レイさん、どうしたんだ?」
「まあ、座れ。」
紀藤署長はソファに二人を座らせた。
「じゃあ、レイさん、話してください。」
紀藤署長はそう言うと、署長の席に座った。
「女性の思念波を捉えたんです。」
レイの言葉を聞いて、亜美は嫌な予感がした。レイはようやく、平穏な日々を送れるようになったところだった。それに、経営している病院もようやく信用を回復したところだった。このまま、シンクロの能力を使わずに済むことが、レイにとって幸せだということは亜美が一番わかっていた。
「どんな・・いや・・何か事件が・・起きているという事か?」
一樹が訊いた。
「いえ・・それが・・はっきりとしないんです。」
レイが答える。
「これまでの思念波とはどこか違うんです。・・色が・・思念波に色がないんです。悲しみや苦しみ、恨みなど、感情を色で感じるのが思念波のはずなんです。でも、今回感じた思念波には色がないの。それに、単調・・いえ・・どこか抑制されたような大きく揺れる波のようなものではなくて・・信号の様なものなんです。」
レイの話を一樹は理解できない様な顔をしている。
「じゃあ・・勘違いということもあるんじゃ・・。」
一樹が改めて訊いた。
「最初はそう思ったのだけど・・母も同じように感じたの。・・信号のような違和感はあるのだけど・・でも、女性が苦しんでいるのは間違いない・・・だから、こうして相談に来たんです。」
「うーん。」
一樹は天井を見上げた。レイの力は充分すぎるほど知っている。だが、どこか、事件でない事を願っている自分が居て、レイの言葉を素直に受け入れたくなかった。
「今日も感じるのかしら?」
話を聞いていた亜美が訊いた。
「わからないけど・・」
レイが答える。
「じゃあ・・今夜、レイさんと一緒に居て、確かめましょう。」
亜美の言葉を聞いて、一樹は紀藤署長を見た。署長も「仕方ないだろう」という表情を浮かべている。
「わかった。じゃあ、今夜、確認しよう。」

夜、夕食を摂った後、一樹と亜美はレイの自宅に行った。9時30分を過ぎている。1階のリビングのソファには、レイと母ルイ、そして、一樹と亜美、紀藤署長も同席した。レイはルイと向かい合い、手を繋いだ。こうする事で、思念波をキャッチする力を少しでも高めようと考えたのだった。10時になった。レイとルイは目を閉じる。それを一樹、亜美、紀藤署長が見守る。
「ああ・・」
小さく呻いたのは、レイだった。ルイも「うう・・」と呻くような声を出す。
「苦しそうに・・・熱い・・熱い・・・。」
レイが声を上げる。ルイはもう耐えられないという表情を浮かべている。
「矢澤!亜美!二人を止めるんだ!」
紀藤署長が叫ぶ。一樹と亜美が二人の手を掴んで、引き離そうとした。その瞬間、一樹も亜美も、二人がキャッチした思念波にシンクロし、熱湯に浸かった女性の姿が見えた。
「うわあ!」
一樹が驚き、力任せにレイとルイを引き離すと、レイもルイもその場に倒れ込んでしまった。一樹はソファに座り込んで、しばらく、茫然としている。横に居た亜美も同じ体験をしたのだろう。一樹同様、ぼんやりとしたままだった。
「なに?あれ・・。」
暫くして、ようやく、亜美が口を開いた。
「ああ・・きっと、思念波を発している女性だろうな・・。」
それを見ていた紀藤署長が一樹に訊いた。
「何を感じた?」
「女性が拷問にあっているようです・・熱湯に浸けられて・・息絶えている様な・・惨い光景でした。」
一樹が答えると、レイとルイが目を覚ましたようだった。
「間違いない。どこかで女性が事件に巻き込まれているようだ。」
紀藤署長は、ルイの様子を気にかけながら言った。
「思念波の出所・・女性の監禁されている場所を見つけなければ・・。」
一樹は眉間に皺を寄せて行った。
「女性の居場所がわかるもの・・何か、感じたことはなかったか?」
一樹が亜美に訊いた。
「暗い・・地下室みたいなところかしら・・。」と亜美が答える。
それを聞いて、レイも続けた。
「それほど遠くはないようです。・・大きな建物の地下、古くて、少し油臭い・・工場でしょう。」
「方角は判らないか?」
一樹が訊くとレイは目を閉じて、思念波の残像を追った。レイは目を閉じたまま、手を伸ばし、思念波を最も強く感じた方向を探る。母ルイも同じような動作をした。そして、二人が同じ方向を示した。
「ここから、南西の方角か・・・港地区・・工場や倉庫が密集しているところあたりか?」
だがそれだけの情報ではとても探り当てられるものではないのは、レイも判っていた。
「もっと近くに行けば判るんじゃないかと思います。」


nice!(2)  コメント(0) 

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント