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駒ヶ根の老女-1 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「判ったわ。・・・名古屋の行動については、県警と生方、カルロスで調べて。矢沢刑事と紀藤刑事は、一度、長野へ行って、事件をもう一度調べてみてちょうだい。彼女の行動の背後に何か気になる情報があればすぐに報告してください。」
会議が終わるとすぐに、一樹と亜美を乗せたトレーラーは長野に向かった。
『到着までに、長野事件の詳細を送っておきます。』
生方はそう言って二人を見送った。
一樹と亜美を乗せたトレーラーが中央自動車道駒ケ根インターに到着したのは、午後になってからだった。長野県警駒ヶ根署に到着すると、すぐに、現地の警察車両を借りて、殺人事件現場に向かった。
一人暮らしで身寄りがなく、すでに家屋は解体され更地になってしまっていた。
一樹と亜美は、生方から送られてきた当時の調書と写真を、タブレットに表示させながら、現場に立った。周囲の風景はほとんど変わっていなかった。
「彼女が目撃されているのは、近くのバス停だったな。」
一樹はそう言うと、最寄りのバス停に向かい、その周囲の家を回って、目撃者を探した。平日の昼間、在宅者は全くなく、二人はバス停に戻った。
「このバス停、駅までの1本の路線しかないようだな。」
時刻表を見ながら一樹が言った。
そこへ路線バスがやってきた。二人はバスに乗り込む。
「あの、この女性の目撃者を探しているんですが、御存じありませんか?」
亜美が、乗車ドアの階段に上がって尋ねると、運転手が驚いた表情を浮かべた。
「あ・・ああ、その子なら、見たことがある。」
運転手の話では、神戸由紀子は、二度乗車してきて、駅の二つほど手前にある「センター前」という停留所で降りたという事だった。
二人はそのままバスに乗り、「センター前」で降車した。「センター前」というのは、おそらく、駅前にあった複合店舗施設「ショッピングセンター」を示しているのだろう。今ではすっかり寂れていて、シャッターが下りたままの店舗も多い。とりあえず、神戸由紀子がここを利用していた可能性を考え、開いている店舗を片っ端から当たってみた。しかし、有力な情報を得ることはできなかった。
「ここには来ていないのか?」
と一樹が諦めかけた時、亜美が通路の端の方で手を振っている。
「この方が一度目撃したそうよ。」
亜美がそう紹介したのは、薬局の店主だった。黒い縁取りの眼鏡に白髪、相当高齢に見える店主は、亜美が見せた写真を指さしながら言った。
「この娘なら、向かいのビルに入っていくところを見かけたよ。」
長野県警の調書にはそういう目撃証言はなかった。
「間違いありませんか?」と一樹。
「ああ・・着ている服が・・少し派手だったのと・・何か切羽詰まった表情だったのを覚えている。」
店主の案内で、その雑居ビルに向かう。入口に、店舗や事務所の案内板があった。
「そいつは、随分古いままだ。今ではほとんど空いている。・・そうだ、あの頃、ここらじゃ見かけない男が出入りしていたようだな。いや、見たわけじゃないが、少し、怪しい奴だったとも、いわゆる、チンピラって奴だろうがな。空いている所を勝手に使っていたのかもしれない。その娘と関係あるかどうか知らんが・・」
店主はそう言って、薬局へ戻って行った。一樹と亜美は雑居ビルの階段を昇って行った。階段は、一つだけで四階まで続いているようだった。その両側にドアがあり、看板らしきものがある所もあれば、ないところもあった。最上階まで上がって、一つ一つドアをノックする。四階の二部屋は、会計事務所と商社の支所として使用されていた。三階は両方とも空き部屋だった。その一つはドアに施錠されていない。二人はそっと室内に入ってみた。室内には、以前の使用者が残していったらしい、机や椅子やラックが少しあった。
「これ・・」
亜美が室内のトイレ脇にある流し台を見て言った。そこには、カップラーメンや弁当などのゴミ屑が放置されていて、たばこの吸い殻も入っていた。
「ここをその怪しい男が使っていたのは間違いなさそうだな・・。」
一樹はそう言うと、ポケットからビニール袋を取り出し、吸い殻を幾つか拾い上げた。
「他には何か・・・。」
辺りを見回すと、レシートが数枚落ちている。弁当やたばこ、飲料などを買ったようだった。駒ヶ根駅前のコンビニ店のもので、日付を見ると、駒ケ根の殺人事件が起きた前日だった。すぐに、そのコンビニ店へ向かう。しかし、当時働いていたアルバイトは居らず、これといった情報は得られなかった。
二人は、駅前の喫茶店に入った。
「長野県警の調書にはそういう男の存在を示すものはなかったみたいだけど。」
亜美がコーヒーを飲みながら、言う。
「犯人を特定するためだけの捜査をしたんだろう。容疑者が判れば良い程度の扱いだったんだ。結局、神戸亜希子には辿り着かなかったんだが。」
一樹は少し呆れ顔で言った。
「ここに居た男と神戸亜希子に関係があったと考えた場合、どういう間柄なんだろうな?」
一樹もコーヒーを飲みながら言った。
「東京に居た時からの関係だと仮定すると、神戸亜希子を追いかけてきたということになるけど。」と亜美が言う。
「追いかけてきた・・か・・、それなら、そいつが、名古屋にも居た可能性は考えられるな・・・。しかし、どんな奴なのか・・・。」
一樹はぼんやりと喫茶店の窓の外を眺めていた。そして、ふと思いついたように席を立ち、喫茶店の外へ出て行った。亜美は慌てて会計を済ませて店の外へ出た。一樹は、先ほどの雑居ビルの前に立って、向かい側の建物に視線を遣り、何かを探しているようだった。

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