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水槽の女性-18 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

翌朝、すぐに剣崎に呼び出された。
「これまでの捜査を整理し、これからの捜査方針を決めます。」
剣崎は、厳しい表情を浮かべ、生方に指示して、これまでの経緯を確認させた。
「殺害されたのは、神戸由紀子。エメロードのキャバ嬢で、店のママと結託し、秘密クラブに男を誘いこんでいた。殺害された現場は、その客の一人、安藤氏の所有していた工場の地下室。特殊な薬品で遺体は損壊され、身元特定は、残っていた義歯のみ。現状では、秘密クラブに関するトラブルから殺害されたと考えられるが、エメロードのママの関与は低いと推察される。ただし、裏社会による可能性は否定されない。」
「まあ、そんなところでしょう。どう?」
生方の説明の後、剣崎が訊く。
「秘密クラブのトラブルが原因というなら、エメロードのママが最重要人物になるはずですが、なぜ可能性が低いと?」と一樹。
「県警の取り調べで、彼女自身も命の危険を感じていたということだったわ。神戸由紀子が行方不明になった後、秘密クラブに関与していたボウイたちも、次は我が身と考えていたようなの。」
「自分たちの秘密を守るために神戸由紀子を殺害したというわけではないという結論ですか?しかし、それなら、秘密クラブの本当の仕掛人がどこかにいるという事じゃないんですか?」
「どうも、秘密クラブを作ったのは、神戸由紀子自身の様なの。エメロードのママの供述だから、どこまで信用できるか判らないけれど、裏社会ではそういう場合、上納金を納める約束があるのを、神戸由紀子は無視した、だから、あの辺りを仕切っている組に狙われたというところが、県警の筋読みらしいけれど、」
「じゃあ、そこへのガサ入れは?」と一樹。
「無理。殺人を示すものは、あの動画と義歯一つ。暴力団の関与を示す証拠は何もでていないでしょう。」
「確かに・・・それに、あの殺し方は、そこらの暴力団じゃない・・ネットで動画配信するのも、あまり考えられない。もっと・・知的な奴のはずだ。県警としても、動けないってところか・・・」
そう言うと一樹は天井を見上げた。
「まあ、そんなところかしら。他には?」
「あの廃工場は客の安藤氏の持ち物だったようですが、その関係者の線はどうでしょう?」と一樹。
「火災の後、競売にかけられているけど、まだ、買い手はついていないようね。現在は、裁判所の管理下にあるようね。関係者といっても、確か、奥さんだけだったはず。社員や取引先まで広げれば対象は少なくないけど、神戸由紀子の存在を知っていたとは考えられない。」
「安藤氏の奥さんか・・・確かに、一番恨んでいるのは確かだが・・・。」
「ほかには?」
「神戸由紀子は整形し別人になっていたわけですが、あの整形外科に神戸由紀子を紹介したのは誰なんでしょう?」と亜美が訊いた。
「そこは重要かしら?」と剣崎。
「誰かの紹介なしには手術は出来ないようでした。彼女の過去を知っている人物がいたはずですし、裏社会にも通じている重要な人物ではないかと思うんですが。」と亜美。
「なるほど、秘密クラブを作った本当のボスとも考えられるということかしら。」
それを聞いて、生方が答えた。
「神戸由紀子が行方不明になって、すぐに秘密クラブは閉めたようです。店のママの証言ですが、証拠は全て廃棄したようです。今のところ、ママの証言だけで実態解明は出来ていない。まあ、県警としては、風営法違反の範囲で捜査しているようですから。」
「殺人事件との関連での捜査はしないという事か・・。」と一樹。
「こちらの捜査に対して、一応、協力の姿勢はあるようですが、何か、反応が鈍いんです。・・まあ、特殊捜査班自体、組織の中では実験的なものなのでしょうから、様子を伺っているというところじゃないでしょうか。」
生方が愚痴めいた事を口にしたところで、一樹が言った。
「おそらく、これまでの捜査から、秘密クラブと神戸由紀子の殺害の関連性は否定できないでしょう。影のボスの存在も考えられる。身を守るために神戸由紀子を殺した、あるいは見せしめのために殺したという線は濃いでしょう・・ですが、・・もっと別の可能性についても考えてみてはどうでしょうか?」
「別の可能性?」と剣崎。
「例えば、単純な快楽殺人・・変質者による猟奇的な快楽殺人という事です。」
そして、一樹は昨夜、亜美と話し合ったことについても報告した。
「そうね・・そういう可能性も否定できないわね。もし、これが単なる快楽殺人だとすると、捜査手法がガラッと変わることになるわね。偶然性、突発的に、神戸由紀子がターゲットにされただけということね?」
剣崎はそう言うと、腕組みをしたまま、少し沈黙した。
おそらく、剣崎の頭の中でこれまでの情報パズルを組み替えているのだろう。しきりにモニター画面のあちこちに視線が飛ぶ。一樹や亜美、生方が、剣崎の様子を伺っている。
「矢澤刑事が言ったように、これが単なる快楽殺人だと仮定しても、やはり、殺された神戸由紀子の行動が事件の鍵になることは間違いないわね。そして、その行動に、今回の犯人との接点があるはず。神戸由紀子の殺害までの行動とその周囲に猟奇的な犯人に近い人物がいなかったか、もう一度捜査しましょう。」
剣崎の結論を皆、了解した。
「あの・・」と亜美が口を開く。「何?」と剣崎。
「長野の事件も調べてみた方が良いんじゃないでしょうか?」
「長野の老女殺害事件?」
「はい。別の可能性の一つとして、あの事件は、単なる強盗殺人ではなく、神戸由紀子が誰かに頼まれて、老女を殺したという見方です。もし、そうなら、神戸由紀子は、殺人を請け負っている組織の一員となります。長野の殺人事件も、安藤氏の事件も、そういう組織が・・そう、例の死刑執行人というのが何よりの証拠。そこが全てを仕組んだのではないかと考えてみてもいいんじゃないかと思うんです。」
と、亜美が続けた。
「なかなか、大胆な推理ね。神戸由紀子は、その組織を裏切ったか、しくじったことで、組織によって処刑された・・とも言えるわね。」

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