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水槽の女性-11 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「待てよ・・大金を手に入れて整形手術をうけたという事は・・過去に何か犯罪を起こしているのを隠そうとしているとも考えられる。それなら、正規の美容整形ではなく、非合法で、別人に仕立て上げる・・いわば、裏社会専門の美容外科という事も考えられるな・・。」
一樹は、すぐに剣崎に連絡した。
「判りました。すぐにリストアップして送ります。」
剣崎は予測していたような返答だった。
「カルロスも合流させてください。」
一樹が言うと、「そうですね。その方が良いでしょう。」と返答があった。
カルロスが合流した頃には、一樹の手元に、美容外科のリストが届いていた。栄周辺には該当するところはなく、一つは、名古屋駅の西側だった。一樹、亜美、カルロスの三人は、すぐに向かった。
「この辺りのようだが・・。」
パーキングに車を入れ、リストにある住所を探した。栄周辺とは違う、もっと古そうな雑居ビルがいくつもある。ビル名を示す看板さえ取れてしまって、廃墟のように見えるものさえあった。
「ここじゃないかしら?」
亜美が、ビルを見上げながら言った。入口には、特にそれと判る看板は出ていなかったが、郵便ポストに、リストに載っている名前「海東医院」が出ていた。ビルは五階建てで、一階部分は以前に何かの店舗があったのだろうが、今はシャッターが下りたままだった。暗い階段を昇り、三階のフロアに着くと、長い廊下の先に、ドアが一つあった。小さなライトが一つ、ドアには「海東医院」とあった。
ドアを開けると、小さな椅子が二つ置かれていて、カウンターがあった。とても病院の造りではない。
「すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」
亜美が声を掛ける。女性の方が相手も油断するのではないかと考えたからだった。カルロスと一樹はドアの外で様子を伺っていた。すぐに、奥から白衣の女性が現れた。年齢は五十代半ばというところか、頭髪のところどころに白髪も見える。黒縁メガネから除く瞳は警戒心をあらわにしているのが判った。
その女医は何も言わず、亜美の顔を何か調べるように見ている。
「どんな顔にするの?」
一通り、亜美の顔を調べ終わったのか、ようやく口を開いた。予期せぬ答えに、亜美は戸惑った。黙っていると、その女医は続けた。
「三百万。キャッシュで。」
「三百万?」
「おや、聞いてなかったの?あんたの顔なら、それくらいで何とかできそうだからね。」
「いえ・・そうじゃなくて・・。」と亜美が言い掛けると、
「誰の紹介?」と更にその女医が訊く。
ここらが限界だと判断して、一樹が中に入った。
「警察です。少し話を伺いたくて。」
警察手帳を見せながら一樹が言うと、女医の顔が引きつった。非合法の医療行為をしているのは明らかだった。女医はすぐに奥の部屋へ駈け込んでいく。
「おい、待て!」
一樹も中へ飛び込む。診察室らしきところには、看護師が二人いたが、突然の事で立ちすくんでいた。その奥は手術室、そこから、一旦廊下に出た。両脇には、術後に過ごすための病室があった。女医は、狭い廊下を走り抜け、ビルの一番奥の部屋に飛び込んだ。
「おい、待て!訊きたいことがあるだけだ!」
そう言って部屋の中に入ると、すぐに暴力団構成員だと判る風体の男が二人立っていた。両腕には入れ墨が入っている。二人とも巨漢だ。こういう事態を想定して、女医の用心棒が置かれていたのだろう。
「訊きたい事?こっちはねえんだ。痛い目に遭わないうちに帰った方が良いぞ。」
一人の男が凄みながら一樹に近づいている。当の女医は男たちの後ろに隠れている。さすがに一樹は後ずさりする。ドアの外まで来た時、迫ってきた男が、うめき声をあげて蹲った。その男を遥かに凌ぐ巨体のカルロスが、右手で男の肩を掴んでいる。掴んでいるというより握りつぶしていると言った方が良いかもしれない。はっきりと右手の指が男の方に食い込んでいるのが判る。
「この野郎!」
もう一人の男は手にパイプを持って、カルロスに殴り掛かろうとした。カルロスは、振り下ろされたパイプを左手でいとも容易くに掴む。男がパイプを引こうとしてもピクリとも動かない。慌てた様子の男の股間を、カルロスは右足で蹴り上げた。男は、その場にのたうち回った。カルロスの右手はまだ、もう一人の男の肩を握ったままだった。見ると、その男は余りの痛みですでに失神していた。カルロスの身体能力は一樹の想像を遥かに凌ぐものだった。
「こんな手荒な真似をしたくなかったんだが・・。」
一樹はそういうと、一部始終を見て、部屋の隅で震えている女医に近づいた。
「この女性の事を訊きに来ただけなんだが。」
一樹が言うと、女医はまだ震えながらも、一樹の差し出した女性の画像を見た。
「見覚えはない?」
亜美が女医に訊く。
「サチ・・ここで手術したわ。」
「本名は?それと手術前の写真は?」
一樹が訊く。女医は、先ほど駆け抜けてきた診察室を指さして「あそこにカルテがあるわ。」と言った。亜美が女医とともに、診察室に行き、カルテを見つけた。
「本名、神戸由紀子。年齢三十三歳。・・それ以外の情報は無し・・か。」
カルテには、それしか記載されていなかった。だが、施術までの写真は残されていた。一樹はすぐに剣崎に報告した。
『判りました。その写真をすぐに送信して。データベースと照合します。』
電話を切ると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「手回しが良いな。もう現れたようだな。」
一樹からの連絡を受けて、剣崎がすぐに愛知県警に手配したのだろう。非合法の医療行為をしていた罪で検挙されるのは間違いない。

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