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水槽の女性-15 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「ちょっと話を聞きたいんだが・・。」
一樹は、部屋の中に入ると、ドアの外にカルロスを待機させた。
「この店に、サチという女性がいただろう。」
一樹は結に訊いた。結は小さく頷いた。
「サチさんの事を教えてほしいんだ。知っている事を話してくれれば、警察には引き渡さない。」
一樹の言葉に、結は亜美を見た。
「ごめんなさい。私も刑事なの。店の状況を知りたくて潜入したのよ。」
亜美は正直に話した。それを聞いて、結は急につっかえ棒が取れたかのような表情を浮かべ、ぽろぽろと泣き出してしまった。
「どうしたの?」
「ごめんなさい・・・サチさんの事、心配していたの。急に店に来なくなって、心配していたんだけど、ママに訊いても、忘れた方が身のためだと言われたし・・サチさんのアパートに行ってみたら、部屋の中が荒らされていて・・・きっと、殺されたんじゃないかって・・自分もいずれそうなるかもと思っていたの・・。」
どうやら、店のママに脅され、何か悪事に手を染めているようだった。そして、そのバックに良からぬ連中が潜んでいるのだという事が理解できた。ただ、あの「映像」はそういう連中の仕業とは思えなかった。
「場所を変えて話を聞こう。」
一樹はカルロスに言って、すぐに車を用意した。そして、警察が一通り引き上げた頃を見計らって、部屋を出て、誰にも気づかれないよう、結を車に乗せ、例の「トレーラー」へ向かった。
「まあ、紀藤さん、なかなか素敵なドレスだわ。」
トレーラーで出迎えた剣崎が皮肉たっぷりに言った。
「きっと、剣崎さんの方がお似合いですよ。」
亜美は言い返したが、確かに、剣崎の容姿なら、高価なイブニングドレスがモデル並みに似合うだろうと感じて悔しそうな表情をするしかなかった。
「こちら、あの店で働いていた結さん。サチさんの事を知っているようです。」
一樹が言うと、剣崎が「そう」と言って、席に着いた。円卓を囲むようにして、剣崎、一樹、亜美、カルロス、生方が座り、結は亜美の横に座った。
「まず、この映像を見てもらいましょう。」
剣崎が言うと、モニターに、サチ、神戸由紀子が殺害される冒頭の映像が流れた。
「彼女がサチさんに間違いない?」
剣崎の問いに、結が頷きながら訊いた。
「ええ・・随分、痩せたみたいですが・・サチさんです。・・あの、彼女、殺されたんですか?」
「ええ、この後、見るに堪えない、惨い殺され方をしています。映像を止めて。」
映像はまだ、冒頭、僅かなところで止められた。
「やっぱり・・・。」
結はそう言いながら、ガタガタと震え始めた。
「やっぱりとはどういうこと?」
剣崎が厳しい口調で訊く。
「彼女・・あの店ではナンバーワンのキャバ嬢だったんです。お金をたくさん使ってくれるお殿様を・・上客の事をお殿様と呼んでいたんですが・・たくさん持っていました。でも、そこに目を付けたママが、、VIP専用の秘密クラブを作って、サチさんの客をそこに案内し始めたんです。」
「それって、いわゆる売春目的の高級コールガールのクラブという事かしら。」
剣崎はこともなげに訊いた。
「ええ・・そうです。そこは、私たちの様なキャバ嬢じゃなくて、セレブな奥様達がお小遣い稼ぎのためにする秘密のお仕事でした。」
「薬も?」と剣崎。
「ええ、多分。サチさんから一度聞いたことがあります。」
一樹は想像通りの展開だと感じながら、結の話を聞いていた。
「初めのうちは、ママの目論見通り、上手くいっていたようでした。でも・・あるお客さんが・・・。」
「何かあったの?」と亜美。
「そのクラブの事は、お互いのために絶対秘密という約束だったんですが、酔った勢いで話してしまったお客さんが居たんです。私たちも、それまではそんな秘密のクラブがあるとは知らなかったんですが・・サチさんは火のように怒って、そのお客さんを店の奥に連れて行きました。」
「それで?」と剣崎。
「数日して、新聞で見たんです。その方の会社が火事になって、その方が亡くなられたって・・事故という事でしたが・・きっとあれは殺されたんだろうと思います。そう思うと、秘密を知った私たちもいつかそういう目に遭うんじゃないかって思うようになって・・・それに、どこからか、あの店に行くと、殺されるっていう噂が立って・・」
「それで客が少なかったのね。・・・。」
亜美はようやく納得したようだった。
話を聞いていた生方が、急に立ち上がり、隣の作業室へ行った。そしてすぐに戻ってくると、モニターに一人の男の顔写真を映し出した。
「その火事にあって亡くなった方というのは、この人ですか?」
生方が、結に訊いた。
「ええ・・そうです・・でも、なぜ?」
「この方は、あの映像・・サチさんが殺された現場になった工場を所有していた安藤氏です。火事を起こし、会社が倒産し、工場は取り壊されました。そこの地下でサチさんは殺されたんです。」
生方が事前に集めた情報から、推理をし始める。
「秘密のクラブの事を口にしたために殺された安藤氏、そしてその工場跡で殺されたサチさん、ならば、エメロードのママとそのバックに居る連中の仕業と考えても良いのではないでしょうか。」
生方の推理に、一樹が反論する。
「そんな単純なものじゃないだろう。だいたい、そういう事なら、全て秘密裡にするべきだろう。わざわざ、神戸由紀子の殺害をネットに乗せる理由がない。」
「そうね。EXECUTIONERというサイトには違和感がある。」
と剣崎も同調した。

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