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黄色い髪の男-2 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

水野裕也の遺体発見現場の廃ビルに着くと、すでに警官が二人待機していた。剣崎たちが車から降りると、さっと、現場に案内する。遺体発見からずいぶん時間が過ぎていて、あらかた片付いてしまっていて、部屋の隅には壊れた机や椅子などが積み上がっていた。
「遺体はどこに?」
剣崎が訊くと、警官の一人が、部屋の隅を指さして話した。
「部屋に入った時は、薄暗くてすぐには遺体があるとは思えませんでした。遺体の周囲には机や椅子が積み上がっていて、壁のようになっていたので、そこの奥に何かあるような気がして覗いたら、段ボールが積んでありました。何か、布団のような感じだったので、持ち上げたところ、ミイラ化した遺体を発見しました。遺体搬出のため、周囲の机や椅子は撤去してしまいました。」
周囲から見つからないよう、隠れ家の様にしていたのか、段ボールは寒さ避けのためか、布団代わりに使っていたのか、やはり、自然死なのだろうか、と警官の話を聞きながら、一樹は考えていた。
「通報した住民は?」と剣崎。
「それが・・、匿名で廃ビルに遺体があるようだと告げただけでした。初めは悪戯ではないかと考えましたが、一応、調査だけはした方が良いだろうと、駅前派出所から我々が出向いたというところです。」
と、もう一人の警官が答える。
「良く、こんな部屋まで調べたな。」
と、一樹が言うと、先ほどの警官が答える。
「ほかの部屋は、ほとんど空っぽでしたから、手間はかかりませんでした。この地下室だけ机や椅子、ゴミが散乱していて、遺体があるとすれば、ここしかないと考え、丹念に調べました。」
「ほかに何か気になるような事はありませんでしたか?」
と、亜美が訊いた。
警官の二人は、顔を見合わせる。そして、先に遺体の場所を説明した警官が口を開いた。
「実は、この部屋には、鍵が掛かっていたんです。」
「鍵?」と、亜美。
「ええ、それで、ドアノブを壊して、中に入りました。あの遺体は自ら部屋の鍵をかけ、衰弱死したのだろうと考えました。」
「やはり、自殺かしら?」と、亜美。
「判りました。暫く、部屋の状態を確認します。もう、結構です。」
剣崎がやや冷たく警官に向かって言った。警官たちは少し機嫌を悪くして、現場を離れた。
警官たちが去った後、レイが部屋に入ってきた。
「じゃあ、レイさん、お願い。」
剣崎が言うと、レイは遺体があったと思われる場所に立ち、目を閉じ、水野裕也が残した、かすかな思念波を捉えようとした。5分ほどの時間が流れた。
「駄目です。・・何も感じません。」
レイはすまなそうな顔で言う。
「やはり、自殺という事かしら?」
と、レイを労りながら、剣崎が言った。
ふと、足元に小さな紐状の物が落ちているのを見つけた。
「何かしら?」
と、呟きながら剣崎が拾い上げた時、剣崎の脳裏に、いきなり、男の映像が浮かんだ。剣崎は驚いて、紐状のものを落としてしまった。
「どうしたんですか?」と、亜美が訊く。
剣崎は何も答えず、足元に落ちている紐状のものをゆっくりと拾い上げ、今度は慎重にサイコメトリーした。
黄色い髪の男が、手首と足首を結束ヒモで縛られて、横たわっている。既に、死んでいる様子だった。ヒモで縛られた箇所には血が滲み紫色に変色している。口元にも、猿轡がされていて、声は出せない様子だった。
「水野裕也が、殺されたのは間違いないわ。ここではなく別の場所で。そして、遺体がここへ運び込まれた。」
剣崎はそう言うと、サイコメトリーで見た様子を一樹たちに話した。
「水野裕也も、EXCUTIONER(死刑執行人)に殺されたのか・・。」
剣崎たちは、遺体発見の現場を離れ、トレーラーハウスへ戻った。
「生方、水野裕也の動きを正確に説明して!」
剣崎は、生方に命令した。
「最初の発見映像は、駒ケ根の事件の前日。そして、矢澤刑事たちが調べた事から、事件の翌日の早朝に、駅前のコンビニに立ちより、駅から松本へ向けて電車に乗る所が駅員に目撃されていました。そして、その日の午後2時には松本駅前で監視カメラで捉えられています。」
「一応、時間軸はあっているようね。」と、剣崎。
「じゃあ、2時以降に殺されてここへ?何だか、殺されるためにここへ来たみたい。どういうことなのかしら?」
亜美は混乱しているようだった。
「全て、EXCUTIONER(死刑執行人)の指示に従っていたんじゃないか?武田敏を殺害したという報告のために、松本へ来た。そして、殺された。・・だが、そいつがどこの誰なのか、全くわからない。」
一樹が言うと、亜美が一樹に訊く。
「どうして、水野裕也が殺されたの?自分の手下だったんじゃないの?指示通り、武田敏を殺害したのなら、殺される理由がないでしょう?」
「いや、そうじゃないだろう。元々、水野裕也には殺される理由があった。それを見逃す代わりに、武田敏を殺せと命じたとは言えないか?そして、成功し、用なしになったから結局殺された。」
「じゃあ、水野裕也が殺されるような理由って何?恨み?大罪?神戸由紀子のヒモで、風俗店のボーイだったんでしょ?」
亜美は食い下がるように言う。確かに、明らかな理由が見つからない。
「でも、あの映像発見から、すでに3人の殺害事件が繋がったのは事実。必ず、手掛かりはあるはずよ。二人はもう少し、ここに残って捜査を続けてください。」
剣崎はそう言うと、レイを連れてトレーラーを降り、迎えに来ていた黒いバンに乗って、名古屋方面へ戻って行った。

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