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黄色い髪の男-6 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「このMMコーポレーションっていうのは、どういう会社かご存知ですか?」
一樹が家主に訊く。
「ふーん・・MMコーポレーションねえ。」
家主は記憶を辿っている。
「確か、契約には、名古屋のなんとかいう、代理人というのが来たはずだ。MMコーポレーションの会社の人とは会ったことはないな。」
家主はそう言うと、契約書の入っていた袋から、古い名刺を取り出した。
「ああ、こいつだ。安藤って言ったかな。」
みせてくれた名刺には、NY物産・企画部長・安藤正二と書かれていた。
「これって!」と、亜美が驚いて言った。
「ああ、あの、安藤氏だな。15年前にはNY物産の部長だったようだな。・・あの、NY物産という会社がどういう会社かご存知ですか?」
一樹は亜美に答えながら、家主に訊いた。
「いや、知らん。代理人といって現れて、向こう5年分の家賃と敷金・礼金を現金で置いていったんだよ。こっちは、即金で大きな収入だったし、5年という長期だったから、詳しくは聞かなかったよ。」
「使っていたんでしょうか?」と亜美。
「時々、倉庫を覗きに行ったが、机と椅子、それに小さな工作機械が置かれていたが、働いている人を見た事はなかったな。5年の契約が終わった後も、5年分、お金が振り込まれていて、その後は1年毎に振り込まれて、3年ほど前に、突然、解約するという通知があった。」
「振込の名義は?」と一樹。
「NY物産だった。解約通知もそこから送られてきた。」
「じゃあ、3年前までは使っていたということですね。」
と、念を押すように一樹が訊く。
「まあ、形の上ではそうだが、実際にはあまり使っていなかったんじゃないかな。そう言えば、一度だけ、名古屋ナンバーの黒塗りの高級車が、倉庫の前に停まっていたのを見た。」
「それはいつ頃ですか?」と亜美。
「そうだなあ。解約する少し前だったような気もするが、はっきりとは覚えていないが、・・そうそう、女の子たちも居たようだったな・・。あれは、まともな商売をしている輩じゃない。反社会なんとかって呼ばれている輩だろう。」
家主は、今になって、貸した事を後悔しているようだった。
「女の子たちははどんな様子でしたか?」
と、亜美が訊く。
「どんなって言われても、皆、二十歳前後くらいかな・・連れて来られたってとこじゃないか?一緒に居た男達は、強面だったし、皆、首筋に入れ墨をしていた。同じ形だった様な気がする。遠目だったから何かは判らなかったが・・。」
「ここで何をしていたかは?」と一樹。
「さあ、倉庫の中から出てきたところを見かけただけだし、どこかへ連れて行かれるという感じだったかな。」
「3年も前の事をよく覚えていましたね。」
と、一樹は、家主の記憶を確認するように訊いた。
「ああ、女の子たちが私の娘と同じ年頃だったからな。良からぬ輩に引っかかってしまって、この先、どんな人生を送るのかと思うと、ちょっとかわいそうに思えたんでね。」
「その日以外で、そういうことはなかったんでしょうか?」と亜美が訊く。
「覚えているのはそれ1回だけだったように思うが・・。」
「あの、倉庫は3つありますが、ほかのところは誰か使っていたんでしょうか?」
亜美が訊くと、家主は一瞬困った表情を見せた。
「いや・・皆、今は空いている。」
「今は?」
「ああ、取り壊す予定だから、出て行ってもらったんだ。もう良いかな。」
家主はそれ以上探られたくない様子だった。おそらく、取り壊しに当たって、借主と揉めたのだろう。
一通り、家主から話を聞き終えたところで、剣崎から連絡が入った。
「すぐに名古屋に戻れってさ。」
一樹はやや不満そうだったが、これ以上ここに居ても、EXCUTIONERの手がかりは掴めそうもなかった。
一樹と亜美がトレーラーに戻ると、アントニオが迎えてくれた。
「名古屋に着くまで、ゆっくり体を休めてください。」
アントニオに言われるまでもなく、一樹と亜美は随分疲れていて、トレーラーハウスのソファーに横たわって体を休めた。
車は中央自動車道を名古屋へ向けて走り始めた。亜美はソファーに座りぼんやりと外の景色を眺めていた。だが、頭の中は、一連の事件の事でいっぱいだった。
「ねえ、一樹。ちょっと不思議なんだけど・・事件を調べれば調べるほど、被害者の闇というか・・怪しい事が増えていくのは何故かしら?」
「ああ、そうだな。殺人事件を調べているはずなんだが・・。」
一樹も同感だった。一樹は、これが、EXCUTIONERの狙いではないかと感じ始めていた。一樹はスマホを取り出し、これまでに撮った写真を眺めていた。
名古屋の廃工場、駒ヶ根の武田敏の自宅跡、駒ヶ根駅前の廃ビル、松本駅裏の廃ビル、郊外の倉庫、いずれも、EXCUTIONERが関与した事件現場だったが、それは、同時に、一連の被害者が結託して何かをやっていた場所でもあった。人目に付きにくい場所で、一体何が行われていたというのか。風俗店、覚醒剤、秘密クラブ、いずれにしても、組織立って何かがされていたことには間違いなかった。
ふと、倉庫に残されたメモの写真に行き当たった。
「なあ、このメモ、最後のMM・SGってのは一体なんだろう?」
「それって、まだ発覚してない殺人事件の被害者ってことなんでしょう?さっき、そう言ってなかったっけ?」
「ああ、そうなんだが・・MMっていう人物が誰なのか・・SGっていうのはどこなのか、何か手掛かりはないのかな?」
二人はかなり疲れていて、深く考える事が出来なかった。
窓の外には暗闇が広がっていた。二人は少し眠ることにした。

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