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黄色い髪の男-5 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

二人は、運送会社の社長に案内されて、電話の主が指定したという場所へ向かった。そこは、郊外の古い倉庫だった。随分使っていなかったのか、倉庫の前には雑草が伸び、倉庫前の駐車場さえ判らないほどだった。
「いやあ、こんなになってるのか・・配送を頼まれた時は綺麗なものでしたが。」
社長は、そう言って、入口を探した。何とか雑草を掻き分けて、倉庫に辿り着く。
倉庫は3つ並んでいて、どれも大きなシャッターがあり、開くと、中に大型トラックも入れるような作りになっている。脇にある、出入口のドアには厳重にくさり鍵がつけてあった。
「段ボールは、このシャッターの前に置かれていました。」
「その時、この倉庫に人はいなかったんですか?」
「ええ、今と同様、シャッターは下りていました。人影はありませんでした。」
「何か気になったことは?」
「いえ、特に。」
運送会社の社長とはここで別れた。
二人は、何か、事件に繋がる手掛かりはないかと、倉庫の周囲を見て回った。倉庫の裏側へ回ると、一カ所、窓が割れていて、中が覗ける場所があった。その隙間から、懐中電灯で中を照らす。埃だらけの机や椅子、何かの工作機械などが置かれているのが判る。
「何か御用ですか?」
不意に後ろから声をかけられた。驚いて振り返ると、初老の男が立っていた。警察手帳を見せると、怪訝な顔をした。この倉庫の大家のようだった。
「殺人事件に関係している可能性がある場所なんです。」
亜美が言うと、初老の男は、面倒そうな顔を見せたが、「中を見るなら鍵を持ってきます」といって、一旦、自宅へ戻って行った。
暫くして、鍵を持って現れた。
「もう、3年近く使われていないんで、近々、取り壊してしまおうとおもっていたんですよ。更地で売却した方が面倒もなくて・・。」
そう言いながら、鍵を開けた。もあっとした空気がドアから吐き出されるように出てきて、何か異様な匂いもしている。
一樹が、部屋の隅に置かれた机を見ると、周囲に比べて少し埃のたまり具合が少ないのが気になった。引き出しを開けてみる。そこには、空になったコンビニ弁当の容器が二つあった。印字が薄くなっていて判別しにくいが、何とか、駒ケ根という文字が読めた。
「水野裕也が、ここに来たのは間違いなさそうだ。弁当二つ。駒ケ根で買ったものに間違いない。」
周囲を調べると、工作機械の隅にあった鉄パイプに、血痕らしき跡を見つけた。
「水野裕也はここに隠れていた。そして、誰かに襲われ、手足を縛られた状態で段ボールに入れられて、廃ビルまで運ばれ、そこで死亡した、というところか。」
筋は通る。水野裕也は誰かに指示されて、武田敏を殺し、松本に来て身を隠していた。そこに殺人を指示した人物が現れ、水野裕也を殺したというところだろう。
「一応、鑑識を呼んで、何か、手掛かりになるものを見つけてもらうか・・。」
一樹はそう言って、亜美を見る。
亜美は、壁をじっと見ている。
「どうした?」と一樹が訊くと、亜美が壁を指さした。
壁には、『EXCUTIONER』の文字が書かれていた。そして、その壁の隙間に、小さな紙片が挟まっていた。一樹が慎重に壁の隙間からその紙片を引き抜く。
その紙片を開くと、『TT・KG/MY・MM/AS・NG/KY・NG/MM・SG』と書かれていた。
「これはなんだ?」
一樹が頭を掻きながら見つめる。亜美も、覗き込む。暫く二人は考え込み、ほぼ、同時に意味が分かった。
「これって・・。」
「ああ、そうだ。TTは武田敏、MYは水野裕也、ASは安藤正二、KYは神戸由紀子、そして、KGはおそらく駒ヶ根、MMは松本、NGは名古屋・・という事だろう。一連の殺人は全て、『EXCUTIONER』がやったという事を暗示しているんだろう。」
「じゃあ、最後のMM・SGは?」
「きっと、まだやっていない・・いや、そうじゃないな。俺たちが気付いていない殺人事件があるという事だろう。」
「でも、なぜこんなメモを残したのかしら?」
「連続殺人だという事を示すだけでなく、『EXCUTIONER』からの何かのメッセージなんだろうが・・どういうことなのか。」
「安藤氏は自殺かもという見立てだったけど、殺害されたというなら、やはり、何か悪事に加担していたという事なのかしら?」
「おそらくそういうことだろう。」
このことはすぐに剣崎にも報告された。見つけたメモも画像に撮って、生方へ送信された。暫くすると、長野県警から鑑識が駆けつけ、倉庫内を調べ始める。見つけたメモも、鑑識に渡された。
二人は現場を離れ、周囲を見て回った。
ここにEXCUTIONERが出入りしたのは間違いない。だが、倉庫のある場所は住宅地からは離れている。もちろん、監視カメラなどはなかった。そういう場所と判って、ここを使ったに違いなかった。
一樹はふと思いついた事があり、亜美とともに、現場に戻った。
「矢澤刑事、駄目ですね。指紋も遺留品も一切見つかりません。あの鉄パイプと紙片だけですね。意図的に残していった感じがしますね。」
県警の鑑識課長が、矢澤刑事を見つけてそう言った。
「一応、鉄パイプと紙片は持ち帰り、もう少し詳細に分析してみます。」
鑑識課長はそう言うと、現場の課員に撤収の指示を出した。
一樹は、現場検証に立ち会っていた家主に声をかける。
「あの倉庫、以前は誰が使っていたんですか?」
「以前か?家に戻れば帳簿があるから判ると思うが。」
一樹たちは、家主とともに、自宅へ向かった。
家主は、書庫の中に籠って古い帳簿を探し始めた。
「ああ、これだ。」
そう言って、家主が見せたのは、15年ほど前の契約書だった。
借主の欄には、『MMコーポレーション』と書かれていた。あの廃ビルの持ち主と同じ名前だった。

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