SSブログ

黄色い髪の男-4 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

一樹と亜美が、松本駅の係員室で待っていると、鉄道警察隊の担当官が現れた。一樹が、捜査している事件のあらましを話すと、担当官は、厳しい顔を見せた。
「そんな昔の事を覚えている駅員が見つかりますかね?」
「いや、水野裕也は黄色い髪で目立つはずです。殺人事件を起こした直後で、挙動不審になっていたかもしれない。些細な事でも良いんです。手掛かりになれば。」
一樹が、何とか説得して協力を求めた。
「判りました。情報を集めてみましょう。」
担当官はそう言うと、駅員とともに、当日の日誌などを探し出し、勤務していた駅員から情報を集め始めた。
「亜美、俺たちは、駅周辺のコンビニや店舗を回ろう。当日だけでなく、その前後とか、深夜や早朝に怪しい人物を目撃しなかったか聞いて回るんだ。」
一樹と亜美は駅を出て周辺にもう一度聞き込みを始めた。
二日ほど経って、鉄道警察隊の担当官から連絡が来て、その日の列車の車掌を連れて来た。ぼんやりと「黄色い頭髪の男」の事を覚えていたというのだ。その男は、3両目の客車の最後尾の席に座っていた。サングラスとマスクで顔は判らなかったが、黄色い頭髪だけは覚えていた。
「誰かと一緒だったのでは?」と一樹が訊く。
「いえ・・駒ヶ根から乗車して、松本まで独りだったと思います。」と、車掌。
「しかし、ずいぶん以前の事なのに、よく覚えていましたね。」
と、一樹が訊くと、その車掌は少しばつの悪い顔を見せた。
「実は、その人とちょっとトラブルがありまして・・。」
「何があったんですか?」
「いえ・・それは・・。」
車掌は話すのを少し躊躇っている。
それを見た、鉄道警察隊の担当官が、車掌に正直に話すように促す。
「他のお客様から、ちょっとしたクレームがあったんです。車内に不気味な男がいると・・私は、咄嗟にその黄色い頭髪の方だと思い、声をかけたんですが・・実は、全く別のお客様のことだったのです。軽率に見た目だけで決めつけてしまって・・車掌として恥ずかしいことをしたと今でも心に残っているんです。」
「それで覚えていたというわけですか・・ちなみに、不気味な客というのは?」
と、一樹が訊く。
「ええ、大きな籠を大事に抱えて、近くの客を睨みつけていらっしゃる方が隣の車両に居られました。不気味だったのは、何かその籠から聞こえてくる唸り声のような音だったんです。聞いてみると、飼い猫を連れておられたんです。周りに迷惑になるのではと本人は気を使って周囲を見ていたようですが・・それが、睨み付けているように見えただけでした。」
「ほかに、何か気付いたことはありませんか?」と亜美。
「窓のところに、コンビニ弁当を二つ置いていました。しかし、手を付けていない様子で、そのまま、降車の際に持って行ったはずです。席には何も残っていませんでしたから・・。」
「切符は?」と一樹。
「松本まででした。」
車掌の話は信用できるものだと、一樹も亜美も確認した。やはり、一人で松本に到着したのは間違いない。では、松本駅の周辺で誰かと会ったという事になる。監視カメラで確認できたのは一人で街中に消えていくところだけだった。廃ビル周辺での目撃情報はなかった。
「松本駅に着いてから、一体どこへ行ったんだろう?」
松本市内で誰かと会い、殺され、あの廃ビルに運ばれたに違いないが、廃ビルへ出入りした者の目撃情報は拾えなかった。
「大きなカバンか箱に入れられて、廃ビルへ運ばれたはずなんだが・・。」
一樹は独り言をつぶやいている。
目の前の商店街の入り口に、軽トラックが止まっていた。後部に積まれた段ボール箱を男二人で重そうに運び降ろしている。何とか台車に乗せると、商店街に入っていく。何気なく、段ボールを目で追っていくと、店主らしき男が配送票にサインをして、何か奥を指さした。すると、男二人が再び重そうに中に運び入れた。暫くすると、配送の男二人が汗をぬぐいながら、店から出て来て軽く頭を下げて、軽トラックに戻ってきた。
「そうか・・殺した犯人が自分で遺体を運ぶとは限らない。もし、EXCUTIONER(死刑執行人)が複数人の組織だとしたら、殺して遺体を箱に詰める者と、遺体を遺棄した者とに分担していれば、廃ビルの出入は、配送業者の類かもしれない。それだと、周囲に不審に思われることなく、遺体を運ぶことができる。運んでいる業者も、まさか遺体だとは思っていないから、周囲に怪しまれるなんてことはないだろう。確か、遺体の上には段ボールがかぶせてあったはず。遺体はその段ボールに詰めて運ばれたんじゃないか?」
一樹は、頭の中で組み立てた考えをそのまま口にした。
「じゃあ、配送業者を当たってみましょう。」
一樹の独り言を聞いていた亜美が、応えるように言い、すぐに、地元の配送業者に当たり始めた。数時間で、廃ビルに段ボールを運んだ業者は、個人で営業をしている平木運送と判明した。
「ええ、大きな段ボール箱で、中身は書類だと聞いて、届けました。」
平木運送の社長、といっても社員は二人ほどの小さな会社の社長で、軽貨物を使って、自ら配達もしている人物だった。
社長はそう言って、その日の配達伝票の記録を探し出してきた。届け先は確かに、あの廃ビルの名前だった。
「受け渡しは?」と一樹が訊く。
「それが・・指定の場所に段ボールを取りに行って、そのビルの入り口に運ぶだけで良いって言われて。ええ、全て、電話でした。男の声だったと思います。代金は、段ボールに貼り付けた封筒にちゃんと入っていましたし、そういう注文はよくある事なので、特に、不審には感じませんでした。ちょっと重かったので、アルバイトと二人で運びました。」
「じゃあ、送り主も受け取り主の顔は見ていないんですね。」
「はい。伝票もこちらで聞き取って書いたものですし、名前は山田と名乗っていましたが、本名かどうかは判りませんね。」
一樹と亜美は伝票を確認した。それは、水野裕也が松本駅の監視カメラで確認された翌日だった。

nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント