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火葬の女性-2 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

信楽に着くと、連絡を受けていた滋賀県警の警官が二人、駅前で待っていて、剣崎たちのトレーラー2台を駅の近くの空き地へ誘導する。仰々しい登場に、警官たちは少し呆れている。
一樹と亜美、剣崎、そしてレイは、すぐに、車両を1台借り、生方がセレクトした場所へ向かう事にした。
閉鎖された陶器工場を一つ一つ回り、映像から感じた思念波の残存を探す。街中にはこれといった場所は無いようだった。
「少し、郊外に行ってみましょう。」
剣崎が言うと、生方から、数カ所の地図が送られてきた。
その一つは、随分山あいにあった。
「ここが怪しいわね。」と剣崎が言うと、すぐにそこへ向かった。
入口には、錆びてしまったままの鎖が張られていて、工場の前には雑草が生い茂っている。だが、工場の入口のドアがはっきりと確認できた。
「ここのようです。かすかですが、あの思念波を感じました。」
レイは、車の後部座席で、背を丸めた格好で小さく呟く。
余りに残酷な死に際だったためか、思念波にシンクロする事で、レイは精神的にすっかり参ってしまっていた。
「行きましょう。レイさんはここに居て。」
剣崎はそう言うと、一樹と亜美とともに工場の中へ入った。ドアを開けると、あちこちに作り掛けの陶器が散乱していて、埃も積もっている。かなり長期間使われていなかったようだった。
奥へ向かうと、大型の電気炉が2基並んでいる。一樹が配線の具合を調べてみる。
「電気は通じているようですね。」
一樹はそう言うと、電気炉に繋がるヒューズスイッチを押す。電気炉のモニターのランプが点灯した。
剣崎がゆっくりと電気炉のドアを開く。一つは空っぽの状態だった。もう一つの電気炉のドアに手をかけた時、剣崎は強い思念波を感じて、手を離した。サイコメトリーするまでもなく、この電気炉で殺人が行われたのは確実だった。
剣崎は、サイコメトリーしながら、慎重に電気炉のドアの取っ手を握る。
黒い皮手袋、手足を縛られた全裸の女性、その時の映像が浮かんでくる。
ドアを開くと、そこには、小さな黒い塊が残っていた。おそらく燃え尽きずに残った何かだろう。手袋をして一樹が慎重にそれを拾い上げる。
「これは何だろう?」
全裸の女性が高温にさらされて燃え尽きたはず。炉の温度が1300℃までの高温になっていれば、骨すら粉上になるに違いない。
小さな黒い塊を、机の上に慎重に置く。周囲にまとわりついているのは、炭状のものだった。それをゆっくりとはがすと、バッジが現れた。高温に置かれたため、黒く焦げ付き、表面の色はすっかりなくなっているが、形状ははっきりと判る。
剣崎は、そっと手を伸ばし、バッジに触れる。黒服の男達、広い庭、遠目で老齢の男性が見える。何かの集まりのようだった。
一樹と亜美は、廃工場の中になにかヒントになるものが残っていないかを調べた。事務所には、机と椅子が、稼働していた時のまま残っていた。書類なども書庫に残されていた。おそらく、ここの社長が使っていたと思われる大きな机の上には、裁判所や金融機関からの督促状などが散乱していた。明らかに倒産したのだと判る。
「生方さん、この工場の持ち主は判りますか?」
一樹が、無線で生方に問いかける。
『前之園陶業という会社だったようですね。3年前に倒産しています。倒産した直後に、社長は、行方不明となっています。』
と、生方から返答があった。
「前之園・・下の名は?」
『ええと・・前之園美佳・・女性だったようですね。』
生方の答えに、一樹はすぐにスマホの画像を確認した。
「MM・SG・・そうか、前之園美佳・信楽ということか・・。間違いありません。ここが、あの映像の現場です。殺されたのは、前之園美佳、ここの社長。」
「そのようね。」
剣崎は一樹の言葉に頷きながら、机の上に置いたバッジからさらに何か手掛かりはないかとサイコメトリーを続けていた。
「この高齢の男性・・どこかで見た事があるのだけど・・。」
見える映像は断片的で、人物を特定するようなものが見つからない。
亜美は、机の引き出しを探っていた。事務職が使っていた机には、殆んど物がなかった。倒産の際に、私物は皆持ち帰ってしまったのだろう。次に、書庫の中を探る。ふと、立派な装丁の本が数冊並んでいるのが目に入る。陶業関係の本ではないようだった。取り出してみると、政治に関する本のようだった。
「国を守るために為すべきこと・・国政に打って出る・・国民の命を守る政治・・みんなご立派な題名ね。ええっと、著者は、覚王寺善明・・ふーん、こんな趣味があったのかしら?まあ、サインまで入っている・・。」
亜美が、ひとしきり独り言のように呟いた時、剣崎が叫んだ。
「今、なんて言った?」
亜美は驚いて、「いえ・・独り言です。」と答えると、剣崎は亜美のところに駆け寄ってきた。そして、亜美が手にしていた本を取り上げる。
「覚王寺善明・・あの男は、前の国家公安委員長だった代議士、覚王寺善明。間違いないわ。」
剣崎がサイコメトリーしていた映像で見えた老齢の男性の正体が判った。
「じゃあ、この一連の事件に、覚王寺善明が関わっているということですか?」
一樹が訊く。
「どういう繋がりか判らないけれど、少なくとも、殺された前之園美佳と関係があったのは明らかだわ。生方、覚王寺善明について調べて!」
生方は、突然、「覚王寺善明」の名が出た事に驚いた。
『あの・・どういうことですか?』
「いいから、すぐに調べてみて』 
剣崎は、少し苛立っていた。一連の殺人事件とそこに感じる悪事の組織、そして、元国家公安委員長の関係、剣崎だけでなく、一樹も大よそのシナリオが見えてきたようだった。

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