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火葬の女性-3 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

三人は、その場ですぐに滋賀県警に連絡し、殺人事件の現場と被害者について報告し、詳細の鑑識を依頼して、トレーラーに戻った。
「近くに覚王寺善明が所有している別荘があります。」
戻ってきた剣崎たちに、生方が報告した。
「俺と亜美で行ってきます。」
一樹がそう言うと、剣崎が「カルロスも連れて行きなさい」と言い、三人で覚王寺善明の別荘に向かう事にした。
先ほどの廃工場とは反対側の山間に別荘はあった。地図を見ると、山一つ全てが、覚王寺善明の持ち物だという事が判る。
山道を進むと、入口には大きな門が設けてあり、高い金網で周囲を拒絶しているようだった。更に、金網の上には幾つもの監視カメラがあった。
門の前に立ち、隙間から中の様子を探る。一本道が山の方へ向かって伸びている。その先に、屋敷があるのが見えた。
一樹がインターホンを押す。返答はない。
「どうするかな?」
捜査令状がなければ、中に入ることはできない。カルロスが車に戻り、トランクを開く。いつの間に用意したのか、ドローンを取り出してきた。
「これで中の様子を見ましょう。」
カルロスは、すぐにドローンを飛ばす。手元のモニターには、映像が映る。門を越え、一本道に沿って進む。しばらく行くと、白い屋敷が映った。カルロスはドローンを器用に操り、屋敷の上空から周囲を映す。人影はない。屋敷の隣にガレージがあった。近づいていくと、そこには黒塗りの高級車が何台も停めてある。そこから離れ、少し上空にドローンが上がっていくと、山林の中に、もう一つ建物が見えた。
「あの建物を見てみよう。」
一樹が言うと、カルロスが素早く操作してドローンを向ける。横に長い学校のような建物だった。近づいていくと、部屋の中に数人の人影が見えた。若い女性のようだったが、そのうちの一人がドローンを指さしているのが見え、一斉に部屋のカーテンが閉められた。そして、入口辺りから黒服の男が姿を見せる。上空を見上げ、ドローンに気付くと、ピストルを取り出して発砲し始めた。
「まともな奴らじゃなさそうだ。もう良いぞ。」
一樹が言うと、カルロスはドローンを空高く上昇させ、離れた。
「俺たちも退散しよう。」
一樹たちは車に乗り込み、その場を離れた。カルロスは、ドローンを自分たちの進行方向とは逆へ向け飛ばしている。黒服の男達は、ドローンを追っていったようだった。
「もういいでしょう。」
カルロスはそう言うと、コントローラーの自爆スイッチを押した。と、同時に、遥か後方で爆発音が響いた。
「映像は、生方にも届いています。きっと、今、解析しているはず。戻れば何か判るでしょう。」
カルロスは少し自慢げに言った。
剣崎たちのいるトレーラーに戻ると、カルロスが言った通り、生方が映像の解析を進めていた。
「熱検知システムで解析したところ、屋敷は無人でしたが、例の建物には、2階に10人、1階に10人の人がいることが判りました。出てきた男達から推察すると、2階にいるのは女性、1階は男性と考えられます。それと、ガレージにあった車両ですが、ナンバーからMMコーポレーション所有と判明しました。」
「やはり、そうか・・。」と一樹。
「ナンバーをもとに、駒ヶ根や松本、名古屋の監視カメラでその車両がヒットしないか検索中です。少し時間がかかるかもしれませんが、同じ車両がいれば、一連の殺人事件とMMコーポレーションの関係がより確実になると思います。」
生方からの説明を聞き、剣崎も納得した様子だった。
「奴ら、拳銃を所持していました。銃刀法違反で検挙できます。あいつらを捕まえて全貌を聞きだしましょう。」
一樹が提案する。
「いえ、まだ時期尚早です。おそらく、一連の殺人事件は、覚王寺善明が取り仕切っている悪事を明白にするために行われたもの。EXCUTIONERは、それを明らかにするために私たちに映像を送りつけてきたに違いない。だが、覚王寺善明は、元、国家公安委員長を務めた人物なのよ。如何に確実な証拠を突きつけたところで、もみ消すことができるほどの力を持っている。EXCUTIONERも、その事が判っているはず。」
「しかし・・」と一樹。
「それに、まだ、その悪事の正体が判っていない。何をしているのか・・そこが鍵になるはず。」
剣崎は、厳しい表情を浮かべて答えた。
「EXCUTIONERはその証拠を持っているんでしょうか?」
と、亜美が訊く。
「もし、証拠を持っているなら、こんなふうに殺人を犯して、映像を公開するなんて、回りくどいやり方をしなくても良かったんじゃないでしょうか。」
亜美が続けて言うと、一樹が答える。
「確証がない、あるいは、状況証拠だけを持っているという事なんだろう?調べようにも調べられないってとこだろう。」
「ということは、EXCUITONERは、警察内部にいる人間ってことかしら?」
と、剣崎が一樹に訊く。
「警察内部?・・そうか、ある程度捜査は進んだが圧力がかかったという事か。じゃあ、今回もどこかで圧力がかかって終了という事になるんでしょうか?」
一樹が剣崎に訊き返す。
「圧力・・ね。どうでしょう。今のところは大丈夫。」
「大丈夫って・・。」と一樹。
「私、上層部に、正直に報告していませんから。殺人事件の捜査中で、ほとんど進展はありませんと報告しただけ。だけど、駒ヶ根や松本、そして、信楽の殺人事件現場は特定したわけだから、そろそろ、敵も気づくかもしれないわね。」
剣崎は、少し楽しそうに話した。

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