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火葬の女性-8 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「あの子も・・殺されるのかしら・・」
亜美は、何とかして止めることはできないかと考えていた。
「すぐに、殺されはしないでしょう。まずは、黒服の男に注視よ。」
剣崎はそう言って、亜美を納得させた。
しばらくすると、黒服の男達が大きなスーツケースを押しながら、エレベーターを降りて来た。
「レイさん、お願い!」
剣崎が言うと、レイは、男たちの方に意識を向け、目を閉じた。
「駄目です・・もう・・。」
レイが申し訳なさそうに言う。
「仕方ないわ・・じゃあ、私が・・。」
剣崎はそう言うと、車へ向かっている男達へ近づき、車の陰から飛び出した。当然、男達とぶつかってしまう。
「あら、ごめんなさい!」
ぶつかった拍子に、男たちが押していたスーツケースが倒れる。剣崎は、それを起こそうと手を掛けた。ビリビリという感覚で映像が脳裏に浮かぶ。
床に倒れている全裸の女性、首筋には絞められた跡がはっきりと残っている。部屋の隅に男が蹲っている。スーツケースを開き、大きなビニール袋に女性の遺体を包んで、詰め込んでいる。つい先ほどの光景に違いなかった。
「気をつけろ!」
黒服の男が、剣崎に怒鳴る。そして、スーツケースを引き寄せ、慌てた様子で車に運んでいく。
剣崎は何事も無かったかのように、エレベーターの方へ戻ってくる。
「間違いない。あの中には女性の遺体が入っているわ。」
剣崎は、エレベーターの陰に身を潜めていた一樹たちに小声で伝えた。
「生方!マンションのセキュリティを解除しなさい!」
剣崎が、無線マイクで生方に命令する。
『無茶ですよ!』
「あら、できないの?」
『いえ・・できますが・・これは犯罪ですよ?』
「人命救助よ。これ以上、死体を作りたくないわ。さあ、急いで。」
1分ほどで、生方から「解除できました。ただし、30秒ほどですから、急いで下さい。」と連絡が来た。
「私たちは、黒服の男を追うわ。おそらく、館へ戻るはず。あなたたちは、すぐにマンションの部屋へ向かいなさい。」
一樹と亜美がエレベーターに乗り15階に向かう。
静かに廊下を進む。高級マンションは、まるで住人がいないかのように静寂に包まれている。1501号室は、角部屋で一番奥だった。
ドアの脇にあるインターホンを押す。カメラの前には亜美が立っている。
「誰ですか?」
応答したのは女性の声だった。おそらく、片淵亜里沙だと思われた。
「片淵さんね。警察です!助けに来ました!開けてください。」
亜美は反射的に返答する。インターホンの向こう側でガタガタと音がする。
「1501号室のドアロックは解除出来ますか?」
一樹は、ドアを見て、電子ロックだと判断し、咄嗟に、生方に無線で連絡した。
「了解!」
直ぐに、電子ロックが回転する音がした。
「亜美、離れてろ!」
一樹はそう言って、ドアを引く。ロックが解除されていてドアが開いた。一樹はそのまま、玄関から中へ突入した。続いて、亜美も入っていく。
部屋の中は薄暗い。リビングの中央に、人が倒れている。嫌な予感がした。部屋の持ち主が先ほどのやり取りを聞いて、片淵亜里沙を刺殺したのではないか。
亜美が駆け寄る。一樹は、室内灯のスイッチを探し、照明をつける。
倒れていたのは、確かに、片淵亜里沙だった。出血はしていない様子だった。何かで殴られたのか、気を失っているようだった。
一樹が部屋の中を見回す。部屋の持ち主であるNY物産の関係者、もしくはメールの発信者、藤原が潜んでいるはずだった。リビングに姿はない。キッチン、寝室、ゆっくりと一樹が探っていく。バスルームの前に立つ。シャワーが流れる音がしている。一樹がゆっくりとバスルームのドアを開く。そこには、首筋から血を流して倒れている男性の姿があった。そして、その男の手元には、大型のナイフが握られていた。すでに絶命しているようだった。
救急隊が到着する頃には、一樹が、マンションのコンシェルジュに一連の事情を説明していた。コンシェルジュは戸惑いを隠せない様子で、管理会社へ連絡をする。
地元警察の刑事や鑑識が到着した時には、辺りには、やじ馬が集まり始めていた。
亜美は救急車に乗り、片淵亜里沙とともに病院へ向かった。
一樹は、マンションに残り、地元の刑事や鑑識の捜査を見守っていた。
「この部屋は、NY物産所有となっていますが、当のNY物産はペーパーカンパニーでした。連絡を取っていますが、おそらく無理でしょう。室内を捜索していますが、死んでいた人物を特定できるものは、見つかりません。ここで生活していたわけではなさそうです。借りていたか、あるいは、密会の場所だったか・・。」
「出来るだけ多くの指紋や髪の毛などを採取してください。何人もの人間が使っていた可能性があります。血液反応も調べておいてください。」
「承知しました。」
地元の刑事は、少し迷惑そうに返答して、捜査に戻って行った。
一樹は、マンションの玄関を出た。パトカーや救急車が来た事で、近所の住人たちが集まり人垣を作っていた。新聞社の記者らしい姿も見えた。
一樹は、暫く、集まった人たちをスマホのカメラに収めていた。EXCUTIONERが様子を見に来ているかもしれないと考えたからだった。注意深く、周囲を見ていた時、ふと、パトカーの向こうに視線が止まった。宵闇の中、ぼんやりではあるが見覚えのある姿があった。
「まさか・・奴が?」
視線の先には、黄色い髪の男がいる。マスクにサングラスで顔は判別できない。だが、黄色い頭髪の形は紛れもなく、水野裕也だった。こちらに気付いたのか、すぐに姿を消した。
一樹は、手元のスマホの画面に写した写真を開く。残念ながら、写真には、後ろの街路灯の光が強く、逆光状態でぼんやりとした写真しかなかった。

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