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囮の女性-1 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

埋められた遺体が発見されたことを受けて、県警は大がかりな証拠収集を始めた。焼け落ちた館からは十人程の焼死体が見つかり、屋敷には数人の焼死体があった。
カルロスは、その様子を見ながら首をひねって言った。
「カズガアワナイ!」
前日、熱感知センサーで捕らえた人の数と、屋敷内で見つかった焼死体の数が合わないというのだ。
「逃げたのかしら?でも、周囲は我々が取り巻いていたし、道路封鎖もしていたのよ。どうやって逃げたというの?」
剣崎はカルロスに訊ねる。
「ワカラナイ・・デモ・・ヘンデス。」
「まあ、後は、所轄に任せましょう。逃げたとしても、すぐに捕まるわ。それに、いずれ、覚王寺との関連も判るでしょう。」
剣崎はそう言うと、所轄の刑事部長に簡単に挨拶して、現場を後にした。
「片淵亜里沙の方はどうなってる?」
車に戻りながら、剣崎は生方に訊く。
「さきほど、矢澤刑事に連絡しました。病院から抜け出したようで、すぐに追跡するよう伝えました。名古屋から、東へ向かっています。」
「意識が回復したってこと?」
「そのようです。」
生方からの連絡を聞いて、剣崎は不思議に思った。あれだけ周到に準備し、証拠隠滅を図った組織が、片淵亜里沙を殺さず逃がしたというのは腑に落ちなかった。黒服の男達の会話では、意識は戻らないだろうと言っていた。という事は、確実に殺したつもりだったはず。
剣崎は、トレーラーに戻る。
「剣崎さん、大丈夫なんですか?」
トレーラーのモニターで一部始終を見ていたレイが心配して訊いた。
よく見ると、剣崎は腕に怪我をしていた。爆風で飛ばされた時、怪我をしたようだった。
「ありがとう。大丈夫よ、これくらい。それより、レイさん、どうする?途中、橋川で降ろしてもいいけど・。」
剣崎は、着替えながらレイに訊く。
「いいえ、私も行きます。片淵亜里沙さんは、本当に、あの部屋の男を殺したんでしょうか?それに、どうして逃げているんでしょう。なんだか、嫌な予感がするんです。」
レイの言葉を聞きながら、剣崎も同じような事を考えていた。
剣崎の指示で、亜美は、片淵亜里沙の衣服に、小さなGPS発信機を取り付けていた。証人保護のプログラムの一つと聞き、亜美は何の疑問も持っていなかった。生方は、その信号をキャッチして、一樹たちに、行き先を連絡していた。
昨夜のうちに、アントニオがトレーラーを名古屋に回してきていた。
「逃げ出したという事はやはり、彼女が男を殺したということなのかしら?」
追跡の車中で、亜美が一樹に訊く。
「そういう事になるな。だが、信楽じゃなく、浜松というのが判らない。」
「別のアジトがあるんじゃない?」
「そうかも知れないが・・。」
東名高速を東へトレーラーは走る。浜松インターチェンジを降りると、湖岸沿いをさらに東へ向かう。
「船を使って、沖へ向かうようです。」
生方から連絡が入った。片淵亜里沙に取り付けたGPSの信号が、浜名湖上を動いているようだった。一樹たちは、トレーラーの窓越しに、湖を見る。何隻かの漁船、プレジャーボートが動いている。手元のモニターと船の動きを見比べるが、容易には判別できない。
「大丈夫。我々も船を使いましょう。」
運転席から、アントニオが陽気な声で言う。一番近い港にトレーラーを入れると、アントニオがどこかへ連絡している。港近くにあるマリーナの係員が慌てて現れて、アントニオと何か会話をしている。
「さあ、行きましょう。」
アントニオは係員からプレジャーボートのキーを受け取ると、軽くスキップしながら、船へ向かった。
用意されていたのは、マリーナで最も大きなクルージング船だった。一樹と亜美は少し驚き、乗り込むのを躊躇った。
「大丈夫、大丈夫。政府からの指示だという事になっているから。急ぎましょう。今なら、まだ追いつける。」
おそらく、生方が手を回したのだろう。
大型のクルーザーは岸を離れる。アントニオが、タブレットを取り出してGPS信号を探して、その方角に船を向ける。
「やっぱり、大きい船は良いねえ!」
アントニオは速度を上げた。タブレットに映し出されたGPS信号に徐々に近づいているのが判る。視線を向けると、小型のモーターボートが浜名湖大橋をくぐろうとしているところだった。
「あれだね。」
アントニオは獲物を補足したような表情に変わり、さらに速度を上げる。
「追いかけてくる船がある。」
モーターボートの中で、怪しげな会話が始まった。
その声に、片淵亜里沙が振り返る。大型のクルーザーが迫ってきている。
「警察か?」
そう言われて、片淵亜里沙は手元の双眼鏡で様子を探る。
「外人が操縦しているみたい。警察とは思えないけど・・。」
「だが、こっちを追いかけているのは確かだ。」
小型のモーターボートには、片淵亜里沙と、医者になりすました男が乗っていた。
「どこか、小さな港に着けて。追いかけてきているのかどうか試しましょう。」
小型モーターボートは、浜名湖大橋を過ぎたところで、反転し、橋のたもとにある小さな漁港に向かった。
「気付かれたようだね。」
相変わらず、アントニオは陽気に言った。
「仕方ないから、このまま、沖へ出るよ。・・大丈夫、大丈夫。奴らの居場所は判ってるんだから、慌てなくてもいいさ。」
アントニオはそう言うと、小型モーターボートを横目に、そのまま大型クルーザーを沖へ向けて進めた。

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