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火葬の女性-10 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

黒服の男を追跡していた剣崎たちは、深夜には、信楽の屋敷近くに戻っていた。黒服の男達のところには、紛れもなく女性の遺体がある。すぐに逮捕して、スーツケースを調べ、殺人の容疑で検挙する事は可能だったが、その間に、悪事の証拠を始末する可能性がある。剣崎は一旦男達を屋敷に戻らせて、一斉に検挙する作戦で臨むことにした。そのためには、片淵亜里沙の証言が必要だった。
だが、一樹たちからの連絡はない。このままでは、マンションの遺体も無かった事にされてしまう。
「カルロス、ドローンは飛ばせる?」
屋敷近くに止めた車の中で、剣崎はカルロスに訊く。カルロスは、ふっと夜空を見上げて答えた。
「月夜。大丈夫。」
そう言うと、すぐに支度を始めた。
「これ、高性能。サイレント、ナイトビジョン、ステルス、最高!」
カルロスは、得意げにドローンを見せると、空高く飛ばした。
音もなく、高く舞い上がり、屋敷内へ入っていく。手元のモニターにはナイトビジョンの映像がくっきりと見える。
「館の裏手へ!」
剣崎が言うと、カルロスは「OK!」と言ってドローンを館の屋根高くに向かわせた。館の裏手には、空き地がある。黒服の男達の会話から、引き取ってきた遺体を埋めるはずだ。予想通り、男二人が布袋を抱えて現れる。大きさから遺体に間違いなかった。既に、埋める穴は掘られていて、男たちはそこへ布袋を放り込み、スコップで土をかけ始めた。周囲を注意深く見ると、同じような土盛が綺麗に並んでいる。
「十人くらい、殺したようね。もう良いわ。」
剣崎は、この館が殺人を請け負う組織のアジトだと確信した。
そこへ、生方から連絡が入った。
「剣崎さん、屋敷で動きがあります。」
そう言うと、モニター画面が、屋敷内に仕掛けられた監視カメラの映像に替わった。
『想定外の事はあったが、ミッションは終了だ。』
黒服の男に、別の男が報告している様子だった。
『あの刑事たちは?』
『ああ、何故、あそこに刑事が現れたのか、捜査は中断したはずだったが・・。』
『大丈夫なのか?』
『ボスには報告した。だが、ここも早々に引き払うよう指示された。』
『Kは?』
『病院だ。まあ、意識は戻らないだろう。』
『そうか。』
黒服の男達の会話から、剣崎は、片淵亜里沙が組織に手で抹殺される運命だったことを知った。
「手配はどうなってる?」
剣崎が、生方に訊く。
「あと2時間ほど完了します。先に、県警が到着するようですが・・。」
「いいわ。誰ひとり取り逃がさないよう、周辺の道路封鎖を。SWATが着いたら教えて。それと、彼らには、片淵亜里沙の監視を強めるよう伝えて。」
剣崎はそう言うと、車を降りた。
「レイさんは、ここに残っていて。ここから先は私の仕事。良いわね。」
「はい。」
レイは車に残り、モニターを見つめた。
剣崎はカルロスとともに、ドローンの映像を見ながら、裏山へ入って行った。ようやく、夜が明け始め、周囲が明るくなり始めていた。
藪を抜けて、屋敷の裏側の山に辿り着く。目の前に、先ほど男たちが遺体を埋めた場所があった。
「準備できました。」
生方から連絡が入った。
「突入させて!」
剣崎の指示とほぼ同時に、覚王寺の別荘で激しい爆発が起きた。その衝撃はすさまじく、辺りの森の木々の枝が大きく撓り、屋敷の中にあった大木が倒れた。土煙が収まると、次は火の手が上がった。屋敷の隣にある館だった。
「どういうこと?」
館の周囲に配備されていた警察の部隊は、爆発の衝撃で混乱している。
それでも何とか体勢を立て直し、突入部隊が門を破壊し、なだれ込んだ。何発か銃声のようなものが聞こえた。
「行くわよ。」
剣崎はそう言うと、カルロスとともに、館の裏庭に入る。
目の前の館が大きな炎に包まれていて、窓には必死に助けを求める女性の姿があった。ここは、山中である。消防の到着にはまだ時間がかかる。
再び、爆発が起きた。今度は、館の厨房当たりのようだった。プロパンガスに引火したに違いない。
剣崎もカルロスも、その爆風で吹き飛ばされた。
気が付くと、先ほどの女性の姿はなかった。そればかりか、目の前の館が焼け崩れ始めている。
ようやく消防が到着し、放水を始めた。だが、火の手はなかなか収まらず、結局、屋敷も館もすべて焼け落ちてしまった。
逮捕するために集まっていた警察隊も、消防とともに、焼け落ちた屋敷や館に生存者はないか捜索を始めた。
「意図的に爆破したんでしょう。生存者はないでしょうね。」
剣崎は、無惨に変わってしまった別荘を見つめながら、落胆した表情で言った。
「カルロス、遺体が埋まっている場所を掘り返して!」
皆が、焼け跡を整理し始めたのを確認すると、カルロスに地面を掘り返させた。
「ありました。」
カルロスが掘りかえした穴から、布袋に入った遺体を引き上げる。全裸の若い女性だった。腕には注射の跡、手足を縛られていた痣があった。それに、あの入れ墨も見つかった。慰みものにされていたか、変質的な性癖の客だったか、いずれにせよ、殺されたのは間違いなかった。この館で囲われていた女性が、あの部屋に派遣され、結局殺されたということだろう。

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