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囮の女性-3 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「小型船から人が乗り込んだのが確認された。不法出国の疑いで捜索する。」
保安官が厳しい口調で、船長に告げる。
船長や船員たちは、厳しい顔で聞いている。
「さあ、捜索しましょう。」
剣崎はそう言うと、一番先に、船内に向かった。一樹や亜美、カルロスも手分けして船内を探す。保安官も乗り込み、船内の一斉捜索が行われた。
30分が経過した時、貨物船の船倉にあるコンテナに、女性が数人隠れているのが見つかった。すぐに、取り押さえられ、甲板に連れて来られた。
その女性たちは、明らかに外国人だった。東南アジア系の顔立ちをしている女性が多かった。
「片淵亜里沙がいない!」と、一樹が叫ぶ。
「あの女性、片淵亜里沙の服を着ているわ。」
すぐに亜美がその女性に近づいて訊いた。
「ねえ、これ、どうしたの?」
怯えた表情を浮かべている女性に、亜美が訊く。
「モラッタ。コレ、キテイケバ、フネデ、クニへ、カエレル。」
片言の日本語で、彼女は答えた。
「どこで?」
と、一樹が強い口調で訊く。
訊かれた女性は怯えて、口を噤んだ。
「ねえ、教えて?いつ、どこで貰ったの?」
亜美が、優しく尋ねると、その女性は、一樹の顔を睨みつけながら答えた。
「ミナト、サッキ、モラッタ。キテイレバダイジョウブ、イワレタ。」
「しまった!」
一樹が悔しがる。
片淵亜里沙は追跡されている事に気付き、衣服にGPSが着いている事も見抜いていた。この女性は囮だった。
「片淵亜里沙の方が一枚上手だったようね。」
剣崎は、そういうとあっさりと引きさがり、海上保安庁の保安官に礼を言い、クルーザー船へ戻った。
海上保安庁の保安官は、貨物船で見つけた不法出国者を集め、本部へ連れて行った。
「まだ、港近くにいるかもしれません。戻りましょう。」
一樹が、剣崎に言う。
「いえ、もう良いわ。信楽の事件を担当している部署へ任せましょう。我々は、もとの任務、EXCUTIONERの捜査に戻りましょう。」
一樹も亜美も、剣崎が急に態度を変えたように感じた。
「しかし・・。」
「囮まで用意していたという事は、追跡している事を想定し準備していたはず。充分に逃走可能な作戦でいるのなら、追ったところで無駄でしょう。アントニオ、港へ戻して。」
剣崎はそう言って、クルーザーのキャビンにある大型ソファーに座り込んで、目を閉じた。
一樹は、クルーザーのデッキで海を眺めながら、事件の事を考えていた。気になるのは、片淵亜里沙が逃走した事だったが、それに手を貸した男と、あの現場で見かけた黄色い頭髪の男の事だった。
組織的な犯行は間違いない。そもそも、今回の事件発覚のきっかけは、マンションでの殺人事件だった。
組織がマンションの男の殺害を計画したのなら、自身が命取りの策に出た事になる。警察の動きに気付かなかったとしても、それなら、なぜ、片淵亜里沙の逃走計画はあれほど完ぺきだったのか。
何か、今回の事件全体に矛盾が多いような気がしてならなかった。
「俺たちの動きは、確実に知られていた・・だが、誰が?・・黒服の男達なら敢えて危険を冒してまで、マンションの男の殺害はしないはず。それに、片淵亜里沙だけを逃がすというのも変だ。」
一樹は、頭の中に、疑問ばかりが浮かんできて収拾がつかなくなってしまった。こうした時、亜美がブレイクスルーする役割だった。だが、亜美は、疲れ切って眠ってしまっていた。
1時間ほどでクルーザーは港へ戻った。
そこには、生方が乗っているトレーラーも来ていた。
「皆さん、疲れているから、今日はもう休みましょう。」
アントニオが陽気に言う。
剣崎とカルロスも納得して、それぞれのトレーラーに戻った。一樹と亜美もトレーラーに戻り、部屋で横になった。
翌朝、剣崎は、一樹と亜美、そしてレイを集めた。
「昨日、片淵亜里沙の服を回収し、サイコメトリーしました。」
剣崎は、ビニール袋に入った服を取り上げて言う。
「それで・・。」
と、一樹が言い掛けると、剣崎が一樹を睨みつける。
「判った事があります。」
剣崎はそう言うと、マイクスイッチを入れて、生方に指示した。すると、大型のモニターに写真が出た。それは、片淵亜里沙の写真だった。
「彼女は片淵亜里沙。矢澤刑事も紀藤刑事も、顔は見ているわね。マンションの防犯カメラに残っていた映像から、生方が修正したものです。」
二人は頷く。
「彼女には捜索願が出ていました。その頃の写真をいくつか入手しました。」
モニターに映像が出る。家出前に撮られたものだと想像できた。
「本当に、これが彼女なんですか?」と亜美。
「ええ、顔かたちは随分変わっている。おそらく整形されたんでしょう。」
剣崎はそう言うと生方に、二つの写真を合わせて共通点を示した。
「ありがとう。もう良いわ。」
剣崎はそう言うと、マイクスイッチを切った。
「昨日、サイコメトリーで見た映像には、彼女の傍に男が居ました。マスクとサングラスで顔は判別できませんが、黒服の男ではありません。彼女の表情から、彼に対して信頼している感情が感じられました。彼からも、彼女を守ろうという意思が感じられました。二人は組織から逃げたのだという見方が、正しいのではないかと考えます。」
剣崎は驚くべきことを口にした。

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