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2-1 捜査開始 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「中部セントレアに着いてから後のことは?」
一樹が剣崎に訊く。
「わからない。空港の監視カメラには姿は捉えられていない。しかし、彼女は確実に日本にいる。」
剣崎の言葉から焦りの心が透けて見える。
「アメリカに比べ、日本は狭いと言ったって、10歳の少女を見つけるのは不可能だろう。」
一樹は判り切ったことを言う。
「だから、ここへ来たの。」
剣崎はそう言うと、レイを見た。
「まさか、レイさんの力を使って彼女を見つけようというの?」
剣崎の様子から亜美が驚いて訊いた。
その時、レイは剣崎と思念波で会話をしていた。
『あなたの力が必要なの。判るでしょ?』
『ええ・・マリアの思念波を捉えるのでしょう?』
『彼女の思念波は特別。あなたならきっと捉えられるはず。』
亜美は、二人が思念波で会話をしている事に気付いた。
「二人で話を進めないで!」
亜美が強く拒むように言った。
剣崎とレイは驚いた。二人が思念波で会話している事に何故亜美が気付いたのか。
「どうしてわかったの?」
剣崎が訊く。
「判らない。でも、何か二人の間に波動のようなものを感じたの・・。」
亜美も自分自身の感覚が信じられないように答えた。
「矢澤さん、感じた?」
剣崎は一樹に確認した。
「いや・・何も・・所長は?」
「いや、判らなかったが・・・。」
「レイさんと剣崎さんが強い思念波で会話しているという事でしょうか?」
亜美は自分自身のことながら判らず訊く。
「いえ・・もしかしたら、亜美さんにも何か能力があるのかも・・。」
剣崎が言うと、紀藤署長が一瞬戸惑った表情を見せた。
「そんな・・たぶん、レイさんと一緒にいる時間が長いからかも。」
一樹がフォローするように言った。
「まあ、良いわ。レイさんは既に承諾してくれたわ。後は御二人の協力をお願いしたいわ。」
剣崎はそう言うと、紀藤署長を見る。その時、署長室の内線電話が鳴った。
「すまない。」
紀藤署長は、電話を取ると「判った。まわしてくれ。」と答え、椅子をくるりと回して、皆に背を向ける形で電話を続けた。何度か、「はい」という返事をしている。電話を終えると、小さな溜息をついてから、こちらに向き直った。
「今、警視庁外事課から、剣崎さんを護衛し、捜査協力するようにと指示があった。矢澤、亜美、暫く剣崎さんと一緒に行動するんだ。目的が達成されるまで、二人は外事課へ出向となった。」
「どういうことですか?」
一樹が少し苛ついて訊く。
「言った通りだ。米国と日本の安全のため、FBIからの要請があったようだ。詳細はシークレット。あくまで、剣崎さんが外国要人という扱いで、護衛が主目的という指示だった。おそらく、背後にはCIAも絡んでいる。剣崎さんはCIAの監視対象になっているようだな。まあ、MM事件で大きく世間を騒がせた人物だからな。おそらく、今回の件は米国としては国家機密に当たる事案なんだろう。外国要人であると同時に危険人物とされているはずだ。」
紀藤署長が説明する。
「何だか、ややこしい事になりそうですね。」
一樹が呆れ顔で言う。
「だが、マリアは一刻も早く見つけ出さないと・・どんな目的があるとしても、良からぬ輩が彼女の力を利用して大きな事件を起こすかもしれないからな。」
紀藤署長が、一樹を宥めるように言う。
一樹は、レイの顔を見た。レイは既に覚悟した表情を浮かべている。
「また、レイさんを危うい目に遭わせることになりますよ、署長。」
一樹は再確認するように署長に訊く。
「そのために、お前や亜美が護衛に就く。剣崎さんに協力して一刻も早く、彼女の居場所を突き止めるんだ。レイ、頼んだぞ。」
紀藤署長は厳しい表情を浮かべて言った。
一樹、亜美、剣崎、レイ、カルロスは、直ぐに、アントニオが待つトレーラーへ戻った。
「お帰りなさい!」
アントニオが陽気に出迎える。五人がトレーラーに入ると、アントニオが周囲を見ながら、中に入ってカーテンを閉めた。
「四方から見張られています。」
一樹が、そっとカーテンの隙間から外を見る。はるか離れたところに、黒い車が止まっている。反対側の窓から見ると、同じような車が止まっている。
「奴らは?」
一樹が剣崎に訊く。
「おそらく、CIAでしょうね。日本の警察は信用されていないから。勿論、私もね。マリアと同じ施設で育ち、私は自分の運命を受け入れ、訓練を受け、特殊任務を遂行した。でも、今回、マリアが施設を抜け出したことは私だって十分理解できる。まだ、十歳なのよ。ようやく、自分が何者なのかを考え始める歳。周囲の大人たちとの関係を見極めようとする歳なのよ。彼女の能力は私とは比べ物にならないほど危険だから、きっと、完全に隔離されていたはず。そんな状態を受け入れられるわけはないわ。私だって、脱走したいと思っていたし・・・。」
剣崎の告白を聞いて、CIAが剣崎を監視対象にしている理由も理解できた。マリアを見つけた後、剣崎はすんなりと政府機関に引き渡すとは考えていないのは明確だった。
剣崎の言葉を聞いて、暫く沈黙が続いた。
「剣崎さん、とにかく今はマリアの居場所を見つけることに集中しましょう。」
亜美が沈黙を破るように言った。
「ああ、そうだな。」
一樹も口を開く。
「とにかく、彼女が着いたはずのセントレア空港に行きましょう。まだ、彼女の思念波が残っているかもしれない。それをキャッチできれば、何か、糸口がつかめるかもしれません。」
レイがいつもとは違って強い発言をした。
「OK!」
アントニオが立ち上がり、トレーラーの運転席へ座り、発車させた。
そのトレーラーを追って黒塗りの車が少し離れて追ってくる。
トレーラーハウスのソファー席に座り、一樹は、セントレア空港の敷地図を見ている。
亜美は、剣崎の持ってきたマリアの資料に目を通している。
「まだ随分幼く見えるわ。」と呟く。
「ああ、その写真は3年前のもの。彼女の能力で何人もの研究者が命を落としたから、完全隔離の部屋に幽閉されていたようなの。最近の写真はないわ。」
「それじゃあ、もし、彼女と出会っても判らないじゃないですか。」
亜美は少し腹立たしそうに言う。
「ここを見て。」
剣崎が写真の一カ所を指さす。
「彼女の右耳。3歳の時に事故が起きて、彼女は耳を怪我したらしいの。だから、右耳の上に切り込みのような傷があるの。この傷が彼女を特定できる手掛かり。よく覚えておいて。」
剣崎が説明すると、亜美が訊く。
「3歳の時の事故って?」

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