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4-3 富士FF学園 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

剣崎は、十里木高原に来る前に、須藤夫妻の所在を探して、静岡市蒲原の住所を訪ね、富士FF学園に行きついたことを亜美に話した。そして、その学園がすでに閉鎖されていたこと、周囲の住民から迷惑な存在だったこと等を伝える。
「でも、それだけじゃ、怪しいと決めつけるのは早計だと思います。」
亜美は反論する。
「よく考えてみて。マリアが日本に来て、名古屋から長距離バスに乗った。そしてそこに、昔の施設の親代わりの女性が乗り合わせた。・・そんな偶然があるかしら?」
剣崎が言う。確かにその通りだった。あまりにも出来過ぎている。
「それに、私たちが静岡駅に着いた時、レヴェナントに監視されていて、レイさんが拉致された。私たちの動きは知られているのよ。須藤夫妻とアメリカの施設、あるいは、レヴェナントと関連があるのは明らかじゃないから?」
そうなると、マリアは、すでに、レヴェナントか、特殊施設の手中にあるということになる。
「あの暗号文、勝という文字を解明するには、富士FF学園の正体を突き止めることが必要のようね。」
剣崎は亜美に言う。
「しかし、一樹やレイさんは・・。」
と、亜美が不安そうに言うと、
「矢澤刑事はもうすぐ回復するでしょう。そして、レイさんはおそらくマリアと接触するために必要だと判断したから拉致したに違いないわ。それなら、恐らく、レイさんは無事。マリアの動きは私たちがここで監視しているから、あなたは富士FF学園の正体を突き止めるのよ。」
剣崎の言葉は、亜美への指示だった。
直ぐにカルロスの運転で、亜美とりさは、蒲原へ向かった。
一樹や剣崎が一度訪れ、周囲の聞き込みは終わっている。そこで掴めなかったものを探さなければならない。亜美とりさは、富士FF学園の跡地の前に立ち、考えていた。
「ここは富士FF学園の本体なんでしょうか?」
りさが呟く。
「ここは、余りにも狭くありませんか?どこかに本部があるんじゃないでしょうか?」
りさはMMという組織に居た。
MMは、全国にいろんな施設を持ち、一つ一つでは何をしているのか判らないよう偽装していた。そして、本部は、予想もできない様な所に置かれていて、組織の人間さえ知る者は少ないようになっていた。富士FF学園が、アメリカの特殊機関と繋がっているとしたら、当然そういうカモフラージュがされていたに違いない。りさの言いたいことは判る。だが、どこを探せばよいのか、見当もつかない。
「更地になっているという事はまだこの土地の持ち主は富士FF学園の関係者の可能性があります。」
二人はすぐに、法務局へいき、登記簿などを入手した。りさの言う通り、登記簿から、土地の持ち主は須藤夫妻ではなく、IFF研究所という会社のものだと判った。
亜美とりさ、カルロスの三人は、法務局前にある小さな喫茶店に入り、昼食を摂りながら、これからの事を相談することにした。店の一番奥の席に座り、サンドイッチとコーヒーを注文する。そして、法務局の書類をテーブルに広げた。
「富士FF学園は、この会社の一部門だったようね。」
亜美がグラスの水を飲んでから言った。
りさが、もう一つ書類を広げる。IFF研究所のものだった。登記簿には、IFF研究所という会社の役員名簿があった。理事の名前が並んでいる。
「理事なんて、おそらく、みんな、名義貸しでしょう?」
サンドイッチとコーヒーが運ばれてきて、それをつまみながら、亜美が言う。
「この理事長が組織のトップでしょうか?」
りさが訊く。
「そうとも限らないでしょうね。実際に会社を動かしていたのは、ナンバー2という事もあるから。順番に当たってみるしかなさそうね。」
亜美が、大きな口を開けて、厚めのハムサンドを一気に食べる。りさも大きく口を開けてサンドイッチを食べると、コーヒーで一気に流し込む。のんびり、食べていたカルロスは慌ててサンドイッチを頬張ると、亜美たちを追って店を出た。
「さあ、行きましょう。」
店を出て、まず、理事長宅へ向かった。
静岡市内の住所だったが、そこは、既に大きなマンションに建て替わっていた。
周辺で尋ねたところ、2年ほど前に、事故で亡くなったとのことだった。住民は余り口を開こうとはしなかった。どうやら、不可解な事故のようだった。
副理事長宅は、浜松市だった。
東名高速で2時間ほどで着く。だが、そこも、空き家になっていた。2年前、首をつって自殺したんだと、隣家の住人が、声を潜めて話してくれた。
「どういうことでしょう?」
りさが呟く。
「理事長が不慮の事故、副理事長が自殺。IFF研究所というところは、もう充分に怪しいわね。」
亜美が答えた。
「常務理事は、隣町のようですし、この人物が組織のトップかもしれません。行きましょう。」
常務理事は磯村という人物だった。街はずれの住宅街にひと際大きな敷地の総2階の大きな家、門柱に磯村の表札が出ていた。
インターホンを押すと、すぐに返答があった。インターホン越しに、IFF研究所と富士FF学園の事を伺いたいというと、すぐに玄関が開いて、40代くらいの男性が慌てた様子で現れた。
その男性は、家の中を少し気にしながら、門の外まで出てくると、二人に言った。
「ここでは充分にお話しできません。大通りに、ピアンというレストランがあります。そこで待っていて下さい。あなた方が知りたい情報をきっと持っていきますから。」
そう言うと、その男性は、また、慌てた様子で家の中へ戻って行った。
「彼が磯村常務かしら?」
二人は指定されたレストランに入り、待つことにした。
30分ほどすると、先ほどの男性が、カバンを抱えて店の中に入って来た。
周囲を気にしている。その男性は、レストランのキッチンに入り、オーナーシェフと何か話している。すると、オーナーシェフが静かに客席にやってきて、「どうぞ、あちらに」と言って、奥の部屋を示した。
話をするのに、目につかない場所の方が良いという事なのだろう。言われるままに奥の部屋に入る。
キッチンの脇にある通路を進むと、小部屋があった。大きな椅子が4脚と、どっしりとしたテーブル。特別な客のための部屋のようだった。
二人が椅子に座ると、その男は対面に座った。
「磯村健一と申します。」
男は、深々と頭を下げる。
何か、謝罪しているかのような振る舞いだった。
「磯村健一さん?いや、私たちは磯村勝さんに話を伺いたくて来たんです。勝さんは?」
予想外の人物の登場に、亜美が少し苛立ったように訊いた。
「すみません。父は病気なんです。数年前に、精神を病んでしまい、今は、とてもお相手できる状態ではないのです。それで私が代わりに参りました。」
「いつからです?」
「2年ほど前でしょうか。ある日突然でした。すぐに、幾つか、精神科や脳外科も受診したのですが、原因不明で、とにかく、意味の分からない言葉を一日中つぶやき続けていて、まともにお話しできる状態ではありません。富士FF学園という名を耳にすると、興奮でして、自傷行為を起こしてしまいますから、家ではお話しできなかったんです。」
偶然とは思えなかった。理事長も副理事長、そして常務理事まで2年前に亡くなったり、精神を病んでしまったりしていた。
「まさか、他の理事の皆さんも?」と、亜美が訊く。
「えっ?ええ。」
そう答えた磯村健一は、少し不思議な反応をしている。
「そのことで、刑事さんは我が家に来られたんじゃないんですか?てっきり、あのことを捜査されているのかと思いました。」
「いえ。」
と亜美が答えると、磯村健一は、抱えていたカバンの腕を緩め、何かほっとした表情を見せた。

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