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4-2 生方からの情報 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

丸一日が過ぎた頃、亜美から、三島駅に着いたという連絡が入った。カルロスが、駅まで迎えに行き、夕刻にはトレーラーに戻って来た。
亜美は、石堂りさを伴っていた。石堂りさは、前の事件でMMという組織から追われ、新道レイの許に匿われていた。
トレーラーのベッドルームで、ぼんやりとした表情を浮かべて横たわっている一樹を見て、亜美は言葉を失った。
剣崎が一通りの経緯を簡潔に話したところで、亜美はようやく平静になれた。
「元に戻るんでしょうか?」
亜美は剣崎に訊いた。
「判らない・・今は、まだ、マリアの強い思念波が意識の中に絡みついているのだと思うわ。徐々に薄れていくとは思うけど・・。」
実のところ、剣崎は、三保の老夫婦の姿を思い出し、もしかしたら、これまでの事を全て忘れてしまっているかもしれないと心配していたのだが、亜美には告げなかった。
「おそらく、彼はマリアの姿を見たのでしょう。私やカルロスよりも影響を受けているのが証拠。彼女は、あの別荘にいる。」
剣崎はそう言うと、マリアが潜んでいる別荘の方へ視線を向けた。
「レイさんは?」
亜美は、レイが拉致されたことを、ここへきて初めて知った。石堂りさも、心配な表情を浮かべ、剣崎の答えを待った。
「レヴェナントと呼ばれる組織に拉致されたのは確か。ただ、今、どこにいるのか。彼らには特殊な能力がある。駅前の監視カメラやNシステムもきっと改ざんされているでしょう。厄介な相手が関わってきてしまったわ。」
剣崎が答えると、石堂りさが訊いた。
「無事なんでしょうか?」
りさは、レイの許に匿われ、新しい人生を送ることができている。レイは命の恩人である。自分の命と引き換えにしても守らねばならないと自分に誓っている。
「きっと大丈夫。おそらく、彼らは、マリアに接触する為にレイさんの能力を必要としたはず。目的を達するまでは無事よ。」
「でも、目的を達した後は・・。」
と、りさが呟くと、剣崎はりさの目を見て言った。
「そうはさせない。彼らより早く、マリアに接触し、保護するの。りささんも協力して。」
「はい。私にできることは何でもやります。」
りさは、MMという組織で短期間に高度な訓練を受けていた。一樹や亜美よりも高い戦闘能力を持っており、それは、カルロスに匹敵するものと言えるだろう。
「剣崎さん、これを見てください。」
亜美は気を取り直して、カバンからパソコンを取り出し、モニターに接続した。
モニターには、いくつかの鮮やかな色どりの絵画が映し出された。
「これは生方さんから送られた映像データです。」
絵画などの映像を使って暗号文を送る手法は以前にも見た事がある。だが、大抵は、単純な方法ですぐに解読することができる。そういう類のものを生方が送って来たのかと、剣崎は余り期待できない様子を見せた。
「そして、これをこのアプリで開くと・・。」
亜美はそう言うと、マウスをクリックした。
モニターに映っていた絵画が徐々に色を失っていく。そして、さらにもう一度クリックすると、絵画が、いくつかの表や文字へ変換されていく。
剣崎はじっとモニターを見つめている。初めて見る暗号手法だった。それ程まで細工された暗号で送る情報は、恐らく、極めて危険な情報に違いなかった。
「これは・・・。」
剣崎がモニターを見つめながら口を開く。
「判りますか?」
亜美が剣崎に訊く。
「ええ・・これは、あの施設で作成された文書ね。・・似たようなものを見たことがあるわ。」
「それはたぶん、剣崎さん自身のデータ文書でしょう?」
亜美が、いくつかの会がデータから浮かび上がった文書を並べながら剣崎に訊く。
「ええ、そう。私が施設からFBIへ行く時に渡された文書の束・・・施設での研究データや私の能力に関する記録だったはず。でも、どうしてこんなものが・・。」
剣崎は驚いた表情を浮かべて訊いた。
「生方さんは今、そういう仕事をしているそうです。」
剣崎は哀しげな表情を浮かべ、
「無事だと良いけど・・。」
と呟いた。
「一通り、この文書を読んでみました。剣崎さんが話された通り、マリアは途轍もなく恐ろしい能力をもっています。施設内でも何人も自殺する事件が起きているし、周囲にいる人間は無事では済まない。早く保護しないと大変なことになりますね。」
亜美の言葉に、剣崎は、なにをいまさら・・という表情で聞いていた。
「ただ、どうしても内容が判らない文書があるんです。」
亜美はそう言うと、手書き文字の文書の画像をモニターに拡大した。
それは、ノートをコピーしたようなものだった。数字やアルファベットがぎっしりと並んでいて、これを書いた人物はとてつもなく几帳面か、変質的な性格ではないかと思える代物だった。
「これは暗号文書ですね。」
横で見ていた石堂りさが口を開く。剣崎は小さく頷く。
「読めますか?」
更に、石堂りさが剣崎に訊く。
「いえ・・判らない。おそらく、あの施設で書かれたものではないわ。あの施設の情報は外には出ないことが前提だから、暗号化する必要がないから。他の文書は暗号化されていなかったでしょ?」
剣崎は石堂りさを見て、返答した。
「ええ・・。」
剣崎は再び、その暗号文書に目を向ける。
何かヒントになるものはないか、暗号文書はFBIでは幾つも目にしてきた。もしかしたら、そのどれかに近いものではないか、そう考えながら丹念に並んでいる数字を読み解こうとした。だが、皆目見当がつかない代物だった。
「おや、これは?」
剣崎はモニターに近付き、暗号文書の画像の隅の方を食い入るように見た。
そこには、数字とは違う、記号のようなものがあった。
「これは何かしら?ここをもっと大きくしてみて。」
亜美が言われた通りに画像の一部を拡大する。
余り画質が良くない為、拡大すると粗くなり、それ自体がどういう形かさえ判らなくなる。何度か拡大や縮小を繰り返しているうちに、何とか文字らしきものと判読できるものになった。
「これって・・勝という文字じゃないかしら?」
剣崎の言葉に、亜美と、りさも、モニターに近づいてじっと見つめる。
「ええ・・そう読めますね。」
りさが答える。
「文字からすると、日本で書かれた文書ね。あの施設やFBIの文書じゃない。富士学園かしら?」
剣崎が言う。
「えっ、富士学園ですか?。しかし、あそこはマリアを一時保護していた児童養護施設ですよね。そこが、こんな暗号のような文書を?」
亜美が反論するように言う。
「富士学園は普通の児童養護施設ではないはずよ。アメリカの特殊機関と繋がっているのは確か。もしかしたら、あの機関の日本支部という可能性だってあるわ。」
剣崎が言う。
「何のために、アメリカの特殊機関が・・。」
亜美の疑問はどんどん広がっていく。

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