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4-5 秘められた事実 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

剣崎の元に戻ると、一樹はすっかり回復していて、アントニオと交代で、十里木の館を監視していた。亜美たちが留守の間、特に動きはなかった様だった。
「こんな書類、良く見つけましたね。」
戻った亜美とりさに、剣崎は労いの言葉を掛けた。
「剣崎さん、ここ、どう思います?生方さんの情報にあった解読不能な書類と同じ記号ですよね。」
例の『勝』という記号のことである。
「磯村勝さんの勝という文字だと思うんですが・・。」
剣崎は亜美が示す書類を食い入るように見つめ、小さく頷いた。
「しかし、当人は精神障害を起こしていて、内容を確認するのは難しいのです。」
りさが続けるように言う。
亜美は戻る前に大まかな情報を剣崎に報告していた。剣崎は、2年前におきたIFF研究所の火災事故について、FBIに情報照会を掛けていた。
「日本の警察には記録がなくても、アメリカにはあるものなのよ。・・これが日本の現実。」
剣崎は誰に言うわけでもなく、そう言って、FBIから取り寄せた情報をモニターに映した。
「磯村健一氏が言った通り、2年前、IFF研究所は研究員の焼身自殺と建物火災を起こしていたわ。そして、当時の役員全員、事故や自殺、精神障害等を起こしている事も判った。そして、その事実が日本の警察では隠蔽されている事から見ても、IFF研究所は国家権力が絡んだ闇の組織だったことは間違いないでしょうね。」
一樹と亜美は、割り切れない気持ちで剣崎の話を聞いた。警察という組織はいったいどれほどの力を持っているのか、正義とは何か、得体のしれない国家権力というものへの恐怖さえ湧いてくるようだった。
「誰かが仕組んだということは?」と、一樹が剣崎に訊く。
「FBIの情報には、・・そういう記述は見当たらないようね。」
剣崎は何か含みを持たせるような言い方をした。
「磯村健一さんは、誰かの陰謀ではないかと考えているようですが・・・。」
亜美がさらに追及する。
「もし、そうだとすると、FBI・・いや、アメリカ政府も関与しているかもしれないわね。でも、私の立場では、これ以上追及するのは難しいわ。いや、出来たとしても、それは、私自身の破滅を招くことになりかねない。私はFBIの依頼で、マリアを追跡しているのだから。」
剣崎には、事の成り行きが見えているようだった。
「でも、あなたたちが捜査をしているのは、FBIとは関係ないでしょ?あくまで、日本に密入国してきた少女を発見し保護する事。その過程で、得た情報は正当なもの。圧力は掛かるでしょうけど、どこまで真相に辿り着けるかは、あなたたち次第。」
剣崎は、一樹と亜美を試すような言い方をした。
剣崎は、さらに、亜美に告げる。
「紀藤さん、あなた、磯村健一さんと約束したんでしょ?必ず真相を突き止めるって・・。約束は果たさなきゃ。嘘つきは泥棒の始まり。警察官なら、きちんと約束を守りなさい。」
「しかし・・どこから手をつければいいのか・・。」
亜美が少し弱気な事を言った。
「このファイルをもっと読み込むのよ。あなたが磯村健一さんに言った通り、あのファイルはきっと、陰謀を企てた者から重要な情報を守るために託されたはず。きっと、これに全て詰まっているはずよ。」
剣崎はそう言うと、ファイルを亜美に手渡した。
「あなたが見つけた暗号文書にとらわれず、もっと見方を変えて考えるの。良いわね。」
剣崎はそう言うと、席を立ち、ベッドルームに消えた。
「剣崎さんは、暫く、眠っていないんだ。いや、眠れないようなんだ。」
一樹が囁くように言った。
「どうする?」
一樹が亜美に訊く。
「もちろん、調べるわ。約束したんだから。」
亜美は、そう言うと、ソファに座り、ファイルを広げる。りさも亜美の隣に座り、大量の書類を丁寧に読み始めた。
数年間の決算書や財務状況表、役員会の記録、新聞記事、数年分の磯村常務の手帳、それから、記号化された表が大量にあった。それを一つ一つ、読んでいく。決算書や財務諸表に不審な点は見つからなかった。唯一、収入の大半を寄付金に頼っていた事と、収支はほとんど赤字となっていたことだった。そして、一つの事業部門であった富士FF学園の経費が異常に大きかったことだった。
「富士FF学園は、収入もなく経営していたのね。どういうことかしら。」
亜美が言う。
「そうですね。児童養護施設なら、何らかの補助金があってもおかしくないですよね。国や行政から認可された施設ではなかったということでしょうか?」
りさが答える。
「親を亡くした3歳の幼子を、どうして富士FF学園に入れたのかしら。児童相談所が関与していれば、そんな無認可の児童養護施設を紹介するかしら?」
それを聞いて、一樹が言う。
「見方を変えて考えろって、剣崎さんが言ってたろ?・・富士FF学園に入る事が前提だったと考えたらどうだ?」
「富士FF学園に入ることが前提?」
と、亜美が訊き返す。
「ああ、ある組織がマリアの特殊な能力に目をつけた。それを手にするために、両親を殺して富士FF学園に入れ、5歳になった時、アメリカの施設へ連れて行った。」
一樹の話に、亜美も、りさも驚いた。
「そんなこと・・。」
と亜美が言うと、りさが続けた。
「どうやって、マリアの能力を見つけたんでしょう。」
「ああ、そこは判らない。偶然というには都合が良すぎる。もしかしたら、マリアの父母が、IFF研究所の誰かと繋がっていたということもあるんじゃないか?」
一樹が言うと、
「そんな・・例え、そういう能力を見つけたとしても、わが子を実験台にするなんて・・」
亜美はそこまで言って、不意に、ルイとレイの親子を思い出して、口を噤んだ。
「見方を変えれば、IFF研究所はそういう子供を見つけ出すための役割を担っていたということも考えられる。例えば、警視庁のデータベースから、不可解な事件、犯人が特定されない未解決の事件、そういう事件の関係者を調査し、特殊な能力を保持している可能性のある人間をピックアップしていた・・とか・・。」
一樹の言葉を聞きながら、りさは、MMの事を考えていた。MMが目をつけた人間を拉致するのは、それほど難しい事ではなかった。家出した少女は、同じような場所に集まるからだった。だが、普通の家庭の少女を拉致するのは容易な事ではない。一樹の仮説が事実だとしたら、IFF研究所は途轍もなく恐ろしい組織である。
「元締めがアメリカの施設だとして、世界各地にいる特殊な能力を持った子供たちを集めて育成し、剣崎さんのように特殊機関で働かせるというプランを持って動いていると考えれば、全て、筋が通るだろう?IFF研究所は、そういう子供を見つけ出すための日本の機関だったんだろう。だから、いろんな情報が隠蔽されていた。もしかしたら、日本政府も一翼を担っている可能性もあるだろうな。」
一樹が、妙に理論的に推察する。
亜美が知っている一樹とは別人のように感じていた。
「一樹、どうしたの?何か変よ。」
「そうかあ?・・・」
一樹は、曖昧な返事をした。その返事さえもどこか別人のように思えてならなかった。
「じゃあ、火災事故を起こし全てを消し去ったのも、F&F財団が仕組んだのかしら。」
亜美が、敢えて、一樹に訊く。
「いや、それはどうかな。役割が終わったということもないようだが・・。」
一樹の推理はそこで止まった。

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