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5-4 レイの能力 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

ケヴィンは、一歩下がり、能力を止めた。レイはその場に力なく座り込んでしまった。暫く、沈黙が続いた。暫くすると、ケヴィンが口を開いた
「やはり、あなたの能力は恐るべきものですね。」
レイの前に立つケヴィンは、目や鼻から出血している。そして、ゆっくりと座り込んだ。
初めに、ケヴィンは、能力を使うとレイが苦しむことになると言った。だが、明らかに、ケヴィンの方がダメージが大きかった。
どういうことなのか、レイには理解できなかった。
自分は、ケヴィンの思念波を遮断しようとしただけだった。だが、何の効果もなく座り込んでしまったからだった。
「レイさんは・・まだ・・自分の力を・・知らないだけなのです。」
ケヴィンは、床から何とか立ち上がり、ゆっくりとソファに移った。だが、姿勢を保っているのも辛そうに見えた。
「どういうことでしょう?」
レイはケヴィンに訊く。
「お話しします・・その前に、少し、水を・・。」
ケヴィンはなかなか回復しなかった。レイは、キッチンに置かれた冷蔵庫に行き、ペットボトルに入ったミネラルウォーターをケヴィンに渡す。
ケヴィンは、蓋を開け一気に水を飲む。そして、目や鼻から流れた血を拭き取ると、ようやく、平常な会話ができるほどに回復した。
「レイさんは、今まで事件捜査で、その力を使いましたよね。」
「ええ・・。」
「シンクロ能力と呼ばれていたようですが・・・。」
「はい。祖父や母から教えられたことです。私には生まれつき、特殊な能力があると・・。」
レイが答えると、ケヴィンは何故か、レイを憐れむような目つきになった。
「初めのうちは、他人の思念波を捉えることで、被害に遭っている女性の居場所を突き止めることができました。ですが、徐々に、それは、・・」
レイが話し始めたところで、ケヴィンが遮った。
「これまでのところは我々も調べて知っています。・・ただ、それは、全て、特殊な能力を持たない人が対象だったはずです。」
思い返してみると、確かに、そうだった。だが・・とレイは思った。
「剣崎さんは?」
「ああ、彼女は別です。・・彼女の能力は、我々とは違う、別のものです。物体から記憶を読み取るなんて、我々には理解できないものです。・・少し伺いますが、あなたが、シンクロした人はその後どうしているか知っていますか?」
ケヴィンに訊かれ、答えに困った。
犯罪被害者を救い出したり、犯人の行方を探したり、能力を使った後は、一樹や亜美の仕事だった。その後、どうなったかなどは考えることはなかった。
「まさか、何か影響が残っているというんですか?」
レイは、驚きを隠せず、ケヴィンに訊いた。
「いえ、心配するようなことはありません。ただ、紀藤刑事は少し影響を受けたようですね。」
ケヴィンはどこまで自分たちの事を知っているのだろう。随分、以前から自分たちの事を調べていたのだろうか。
「亜美さんが?」
レイが訊く。
「ええ・・彼女も少し特別な能力のDNAを持っているようです。あなたと何度か接触し、シンクロする場面に立ち会う中で、影響を受け、徐々に特別な能力が生まれ始めているようです。勿論、レイさんのような強い力ではありません。たぶん、・・そう、直観力が高くなったと感じる程度ではないでしょうか。」
「そんな・・。」
レイの表情を見て、ケヴィンが続ける。
「私の様子はご覧になりましたね。最初、私は、あなたをマニピュレートする事ができました。しかし、同時に、私自身も苦しむ結果となった。どういうことだか判りますか?」
レイは理解できなかった。
更にケヴィンは続ける。
「シンクロするということは、相手と同じ、思念波を持つということです。私とレイさんは、あの瞬間、一つの思念体になったんです。だから、あなたをマニピュレートして苦しめることは、自分自身も苦しむことになるのです。ここまでは、理解できますね。」
レイは、何となくその関係が理解できた。
「では、私を殺せば、あなたも死ぬということですか?」
レイが訊ねる。
「いえ、そんな単純なものではありません。ノーマルな人間であれば、命を落とすと、そこで思念波は消えます。確かに、僅かですが死を感じることになるかもしれませんが、自分が苦しむことはほぼありません。あくまで、サイキック同士の関係で成立することなのです。」
サイキック同士であればと聞き、レイは、以前、剣崎とシンクロした時のことを思い出していた。
「ただ、あなたの能力が凄いのは、そのダメージを相手に移す事ができることです。自分はさほど苦しまず、相手にその何倍かの苦しみを与える事ができるのです。その証拠に、あなたのダメージは、そこに座り込む程度だった。あと数秒、私がレイさんをマニピュレートし続けていたら、私はきっと死んでいたでしょう。」
ケヴィンの様子を目の当たりにしていたレイには、その意味がよく判った。同時に、どうして自分はそんな能力を持ってしまったのかと考えていた。
更にケヴィンは続けた。
「そのプロセスは判りません。ピッチャーが投げたボールを打ち返すと、その打球が投手のボールスピード以上で飛んでいくのに似ているような、そういうものかもしれません。」
ケヴィンの例えはよく判らなかった。
「あるいは、平面の鏡は自身の姿を映し出すだけですが、球面の鏡では実像と虚像が同じではなくなる。おそらく、そういうものだと思います。」
「それを知っていて私に能力を使ったというんですか?」
レイには、ケヴィンの行動が理解できなかった。
「いや、それが真実かどうかを確かめたかったんです。昔、マーキュリー研究所で、あなたに似た能力を持つ人物にあったことがある。その人も、自分の能力の全てを理解していたわけではありませんでした。ただ、訓練中に、事故が起きた。特殊能力を持つ研究員がいて、その人の訓練に同席していて、命を落としたのです。我々の様な能力を持つ者が、むやみに能力を使うと、相手を強く傷つけ、命を奪う事にもなる。あなたのシンクロ能力はその中でも最も危険と言えるでしょう。今まで、刑事たちの依頼で能力を使ってきたのでしょうが、それはかなり危険な行為だと理解した方が良い。」
ケヴィンは、レイに優しく忠告した。
「今、マリアは私たちの協力者の許に居ます。だが、それは時間の問題。マリアが何か不審に感じれば、彼らの意識の中に潜り込むでしょう。そして、その協力者から、私たちの存在を知ることになるはずです。そうなってしまえば、マリアは我々と対峙するに違いありません。」
「救い出そうとしていると伝えればいいのでは?」
と、レイがケヴィンに訊く。
「ええ、だが、それほど簡単ではありません。マリアはまだ十歳。社会から隔離され生きてきたのです。誰が味方か敵か、正しく判断することはできないでしょう。」
ケヴィンは哀しげな表情で答えた。
「じゃあ、どうすればいいのです?」
レイが訊ねると、ケヴィンはレイをまっすぐに見て答えた。
「レイさんのシンクロ能力が必要なのです。・・マリアに近づけば、きっとあなたをマニピュレートするために思念波を送ってくるはずです。その思念波にシンクロして、我々の真意を伝えてほしいのです。・・私は、彼女と同じマニピュレート能力を持っていますが・・おそらく、マリアの前では赤子の様なもの。どうしても、生まれつき・・」
そこまで口にして、急にケヴィンは黙った。

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