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5-3 怪しげな部屋 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「私は思念波をシンクロさせるだけの能力しかありません。そんなこと・・。」
レイの言葉を聞いて、ケヴィンが言う。
「まだ、あなたは自分の本当の能力に気付いていないだけです。生まれつき、そんな能力を持つ人間など、奇跡と呼ぶにふさわしい。無限の可能性を秘めている証拠なのです。」
ケヴィンはそう言った後、少し寂しい表情をした。
「あなたの能力は、生まれつきではないんですか?」
ケヴィンの言葉に少し疑問を感じたレイが訊ねる。
「元々、そんな能力はあったようです。十歳の時に起きた事件がその証拠です。しかし、それは、大人になるに従い、徐々に失われてしまうのです。」
能力が徐々に失われるというのは、初めて聞く話だった。勿論、レイの周囲で、特殊な能力を持っている人間は、母ルイ以外にはいない。ルイは、特殊な能力はあったが、それはレイほどはっきりしたものではなかった。だからこそ、ルイの父は、ルイの能力を強化する薬を手にしようと、忌まわしい事件を起こしたのだった。そう考えると、ケヴィンの能力は同じような薬による作用と言える。
「まさか・・。」とレイが口にした時、ケヴィンはレイの口を塞ぐようにして立ち上がった。
「話が過ぎたようですね。まあ、暫くゆっくり考えてください。マリアにとってどうするのが良いのか、賢明なあなたなら、判るはずです。」
ケヴィンは、それ以上の会話はせず、部屋から出て行った。

部屋を出たケヴィンは、エレベーターに乗りこんだ。
そして、数階上がったところで、エレベーターを降りると、別の部屋に入っていく。
ドアを開くと、広い部屋に、数人の男がソファーや椅子に座っていた。
「どうでしたか?」
男の一人がケヴィンに訊く。
「まだ、これからだ。それより、連絡は?」
ケヴィンが、ソファに座り、別の男に訊く。
「はい。無事、保護したそうです。まだ、怪しまれてはいないようです。」
「そうか・・だが、それほど時間はないだろう。マリアは、彼らの正体をすぐに見抜くだろう。その前に、何としても、レイと合わせる必要がある。」
ケヴィンは、そう言って、タバコに火をつけた。
「それと・・どうやら、刑事たちも、マリアの居場所を突き止めたようです。」
その言葉に、ケヴィンは反応する。持っていたタバコをもみ消すと、強い口調でその男に訊く。
「それで、何もなかったのか?」
「詳しくは判りません。接触はしていないようですが・・・。」
「そうか。」
ケヴィンはそう言って、窓の外を見た。窓からは富士FF山が間近に見えた。
「接触すれば、ただでは済まないだろうな。マリアはまだ自分の能力をコントロールできない。ただ、マリアが何かを察知したとすると、あまり、時間がない・・。」
ケヴィンは呟く。
「近々、マリアを連れて、町へ出るようです。その時がチャンスです。それまでにレイさんを説得できますか?」
ケヴィンはそれを聞いて、しばらく考えていた。
「モニターを。」
ケヴィンがそう言うと、テーブルに置かれたモニターのスイッチが入れられた。そこには、レイが映されている。

ケヴィンが部屋を出ると、レイは部屋の中を注意深く観察した。
何か、ここの所在地のヒントになるものがないか、外の様子を見たいと思った。だが、部屋には窓が一つもない。照明を落とせば、恐らく真っ暗になる。
ソファの置かれた部屋の隣には、大きめのベッドが置かれている寝室、そして、トイレとバスルーム。ソファのある部屋には、小さなキッチンと冷蔵庫がある。置かれている機器は、ありきたりのものばかりだった。
壁に耳を当ててみる。何か音や振動を感じれば、街中かどうかも判るかもしれない。だが、何も感じられなかった。
天井を見上げた。普通の部屋に比べて、少し天井が低く感じられる。照明機器は部屋に似つかわしくない大型のものだった。よく見ると、中央にレンズがある。おそらく、監視カメラだろう。
何か目的をもって特別に作られた、そんな部屋だった。
レイは、目を閉じ、周囲から、人の気配を感じ取ろうとした。ケヴィンが近くにいるかもしれない。危険な行為だと判っていたが、このまま、レヴェナント達の指示に従うことができない。何としても、剣崎に自分の居場所を伝えたい。そう決意して、レイは能力を使った。
「だめ・・・。」
ひとしきり周囲の思念波を捉えようとしたが、全く捉えられない。
近くに人が居ないのか、それとも、この部屋自体に何かあるのか。とにかく、ここではシンクロ能力が使えなかった。
レイは、天井に設置されたモニターカメラを睨む。赤い光が点灯していて、監視されていることはレイにも判った。そして、静かに目を閉じた。
レイは自分の思念波を、モニターカメラに集中した。経験はなかったが、以前、映像から思念波を感じる事ができた。もしかしたら、カメラを通じて、それを見ている人物の思念波を捉えられるかもしれない。暫く、レイはその状態で動かなかった。

「やはり、能力を使ったか・・。」
ケヴィンは残念そうな表情を浮かべた。
そして、部屋の隅に置かれていた黒いアタッシュケースを開き、中から銀色のケースを取り出す。その様子を、周囲にいた男たちが見守る。
「大丈夫ですか?」
男の一人がケヴィンに訊く。
「仕方ないだろう。彼女を説得しなければ、作戦は成功しない。」
そう言うと、ケヴィンは銀色のケースを開く。そこには、小さなアンプルが幾つか並んでいる。すでに2本は使ったようだった。
ケヴィンは、少し躊躇いがちに手を伸ばし、アンプルの中身を注射器に入れる。
そして、自分の首元に躊躇いもなく注射した。
顔が歪み、蹲った。両手で体を締め付け、震えを止めようとしている。だが、全身の震えは止まらない。目や鼻から血を流し始める。声を上げそうになるのを必死に耐えていた。
周囲にいた男たちは目を背ける。余りにも苦しそうな表情を見ていられなかった。
暫くすると、苦しみが治まったのか、ケヴィンはゆっくり立ち上がった。目や鼻からの出血を丁寧に拭きとり、大きく深呼吸をする。そして、服装を整え、周囲にいた男達を見た。
「行ってくる。」
そう言うと、その部屋を出てエレベーターに乗り込んだ。

レイの部屋のドアがノックされ、ケヴィンが姿を見せた。
「大人しくしていましたか?」
そう言って、ケヴィンは部屋に入り、ソファに座る。
レイは、先ほどのケヴィンとは、何か様子が違う事をすぐに察知した。
「協力する気になりましたか?」
ケヴィンの声は少し低くなり、脅しているようにも聞こえた。
レイは表情を変えず、じっとケヴィンを睨みつける。
「そうですか・・では、仕方がない。」
ケヴィンはそう言うと、レイにゆっくりと近づいていく。一歩ずつ、距離が縮まると、レイは思わず頭を抱えた。
ケヴィンが、マニピュレート能力を使ったのである。
レイの思念波に絡みつくように自らの思念波を送る。それは、レイの頭を強く締め付けるような感覚だった。徐々に強くなり、呼吸さえも辛いほどになる。ケヴィンの思念波を遮断しようと、レイも能力を使う。しかし、抵抗しようとすると、更にそれは強くなる。ケヴィンから離れようとしたが、体が思うように動かない。

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