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5-2 正体 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「さて、本題に入りましょう。」
そういうと、ケヴィンはゆっくりと立ち上がると、冷蔵庫から飲み物を取り出し、レイの前のテーブルに置いた。
「まず、我々の正体を知りたいでしょうから、お話しします。」
ケヴィンはそう言うと、目の前のドリンクを一口飲んだ。
「レヴェナント・・なのでしょう?」
レイは、剣崎とシンクロで会話した時、剣崎の思念波にあった『レヴェナント』という言葉が閃き、確か、存在しない者達という意味だと、何となく脳裏に浮かんでいた。
「おや、その言葉をご存じなのですか?」
ケヴィンは、意外だという表情をして答えた。
「存在してはならない存在・・そんな意味から、私たちをそう呼ぶ人たちがいます。だが、それは、彼らにとっての意味に過ぎません。私たちは、この世にちゃんと存在していますし、私たちを作った彼らこそ、社会に知られてはならない存在なのです。」
彼が言いたいことは大よそ理解できた。
「私たちは、本国では、サイキックと呼ばれています。日本では、超能力者と言われているようですが、ノーマルな人間には持っていない特別な能力を持った者。」
ケヴィンの言葉にレイは少し戸惑った。特別な力を持っているというのは事実だが、一樹や亜美は、超能力者と呼んだことはない。いつも、「特別な能力」と言っていた。サイキック、超能力者とか、それはおそらく、特別な力を持たないノーマルな人間が、差別的に使うのではないかと思った。
「サイキックは、彼らによって見つけ出され、訓練で能力を開花し、与えられた任務をこなすことで存在を許された者なのです。」
「与えられた任務とは?」
レイが訊くと、ケヴィンは顔を歪める。
「口にできないほど恐ろしい事です。おそらく、世界で起きている事件や紛争の大半に、サイキックが関わっています。」
ケヴィンはそう言って、しばらく沈黙した。自分が関わっていた事件を思い出したようだった。
「だが、任務が完了し、不要になれば、命を奪われる運命なのです。国家や世界を揺るがすような重大な事実を知っている者だからです。だが、中には、その運命に逆らい、身を隠す者が出て来た。それを、レヴェナントと呼び、存在しない者として扱うのです。」
「どれほどの人が?」とレイが訊く。
「自分の特別な能力を使って、逃げ延びた者は多数いました。ですが、奴らも、特別な能力を持つ者をチェイサーに仕立て、レヴェナントを探させて、追い詰めて、殺してしまうようになりました。今は随分少なくなりました。」
彼の話が本当なら、と、レイは考えた。
「もしかして、剣崎さんはチェイサーなのですか?」
レイの言葉を聞き、ケヴィンはうっすら笑みを浮かべた。
「いや、彼女には、それほどの能力はありません。彼女は、チェイサーが撒いた餌に過ぎません。彼女が、事件を捜査する時には、必ず、近くでチェイサーが監視しています。そして、事件に我々のような者が関与していることが判れば、すぐに行動を起こすようになっています。」
「ということは、あなたの動きはすでにチェイサーに知られているということではないんですか?」
「ええ、おそらくもう知っているはずです。彼女を監視しているチェイサーが私に辿り着くのも時間の問題でしょう。」
ケヴィンはそう言いながらも、何か、そうならない理由を持っているようだった。
「話を戻しましょう。私たちは、この哀しい運命に終止符を打つことが目的なのです。」
先ほどから、彼は、幾度と「私たち」という言葉を使った。
特殊な能力を持った人間は、彼以外にも多数いるのだと思わせているように感じ、むしろ、ごく少数なのではないかと考えていた。拉致された時の記憶には、他にもう一人男がいたようだったが・・。
「マリアは、このままでは、最も若いレヴェナントになってしまいます。」
ケヴィンの口から突然マリアの名が出た。やはり、彼らはマリアを追っている。
「マリアを救いたい。組織から解放し、普通の女性として生きていける道を開いてやりたい。そのために、あなたに協力していただきたいのです。」
彼は真剣な眼差しでレイを見つめた。
「ちょっと待ってください。」
レイは目の前のドリンクを飲んだ。
「私は、剣崎さんと一緒に、マリアさんの居場所を見つけ保護するのが目的です。あなた方と目的は同じだと思うんですが・・。」
レイが少し反論めいた口調で言った。
「同じ目的?」
ケヴィンが顔を曇らせた反応をした。
「何が同じなんですか?剣崎さんは、組織の依頼で彼女を発見し、元の施設へ送り届けることが目的でしょう?彼女をまたあの地獄のような場所へ連れ戻すことが彼女の目的です。全く違う。」
「じゃあ、あなた方は、彼女を保護した後、どうするのですか?」
レイが執拗に訊く。
「組織からは見つからない場所で暮らせるようにします。」
ケヴィンはやや答えに詰まりそうになりながら言った。
「本当にそんな場所があるのですか?」
レイは強い口調でケヴィンに訊く。
ケヴィンは、即答できないでいた。
「レヴェナントになった人達にはチェイサーの追跡があり、見つかれば殺されるとおっしゃいましたよね。マリアさんも、追われる身になるだけ。一生、怯えながら、隠れて暮らすことになるのではないんですか?」
レイは、そう言いながら、ふと、片淵亜里沙、いや、『りさ』のことを思い出していた。
彼女は今、新たな戸籍を手にして、名を変えて生きている。彼女を追っていたMMは壊滅し、すでに命を奪われるようなことはないのだが、MMに在籍していた時の犯罪は消すことはできない。彼女が片淵亜里沙と判れば、司法当局から、厳しい追跡を受けるのは必至だ。マリアもそういう生き方をする事になるのではないか。
「確かに、今のままでは、彼女は、我々同様、そういう人生を歩むことになるでしょう。だからこそ、終止符を打たなければならないのです。」
ケヴィンが言う。
「そんなこと、無理でしょう?」
レイが言うと、ケヴィンはようやく本題に入ったというような表情で言った。
「確かに、今のままでは無理です。そのためには、F&F財団やそれを支える組織全体を壊滅させなければならない。マリアの能力はそれを可能にするはずなのです。」
「マリアさんの能力で組織を?」
「ええ、そうです。」
「結局、マリアさんを利用するということですね。」
「利用するとは言葉が不適切です。」
「自分たちの能力ではF&F財団を壊滅できないから、マリアさんの力を借りる・・利用するという言葉以外にないでしょう?」
レイはわざと強い口調で非難するように言った。
「彼女自身、F&F財団やマーキュリー学園には深い恨みを持っているはずです。連れ戻されるくらいなら、全てを破壊したい、そう思うに違いない。その思いを遂げさせてあげたい。そして、それは、我々のようなレヴェナントを解放することにもなるのです。」
ケヴィンの目的は、マリアを救いだし解放することではなく、F&F財団を消し去ることだというのは判った。そして、それはレヴェナントを解放することなのだというのは確かな主張だとは理解できた。だが、どこか、レイは納得できなかった。
「でも、マリアさんはそんなことを望んでいるとは思えません。」
レイが否定する。
「だからこそ、レイさんの能力が必要なのです。」
ケヴィンの言葉の真意が判らなかった。

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