SSブログ

6-7 筋書 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

亜美は、橋川に戻る途中で、剣崎にここまでわかったことを報告した。
「そう・・結局、本物の磯村氏は亡くなっていたのね・・。だとすると、神林教授の研究内容は別の誰かによって、F&F財団に伝わったということになるわね・・・。」
「ですが、そういう人物は見当たらないんです。」と亜美。
「神林教授の研究室にいた他の研究員や助手はどうしてるの?」
「一応調べましたが、研究室が閉鎖された後、磯村氏以外は、別の研究機関に移って、それぞれの研究をされていました。」
「そう・・・いや、そうじゃないわ。神林教授の研究内容は、ルイさん自身のことでしょう?それなら、ルイさんの研究こそが、イプシロン研究所やマーキュリー研究所の基になっているということじゃないかしら?」
神崎は冷静に整理して言った。
「まさか・・ルイさんが深く関与しているということですか?だって、ルイさんはイプシロン研究所に研究員として入ったんですから、それ以前からイプシロン研究所は存在して・・」
亜美が、少し反発するように言った。
「もちろん、そうよ。でもね、研究所では様々な研究がされている。イプシロンやマーキュリーはいずれも、人間に備わっている特別な能力について研究していた。世界中から、サイキックの素質がある人間を集めて、実験台にしていた。その中でも、ルイさんの研究、いえ、ルイさんのシンクロ能力は特別なものだと考えられていたんじゃないかしら・・・。」
剣崎が言うと、亜美が思い出したように言った。
「確か、磯村・・いえ、伊尾木氏にも、特別な能力があって、イプシロンで被験者になっていたとルイさんが言ってました。シンクロとも違う・・・人を操る事ができるような・・・。」
「それは、マリアと同じ能力、マニピュレート。マーキュリー学園でも、その能力があるのはマリアだけだったようね。シンクロ能力がさらに高まると、マニピュレート能力へ進化する‥そういうことも考えられるんじゃないかしら?」
「ルイさんに確認してみます。」
亜美は剣崎との連絡を終えた。
運転席でリサは二人の会話を聞きながら、ふと、レイを思い出していた。
「レイさんが拉致されたのも、もしかしたら、それと大きく関係しているんじゃないでしょうか?」
リサが呟いた。
「レイさんが?」と亜美が訊き返す。
「ルイさんから聞いたんですが、ルイさんは神林教授から、能力を高めるための特別な装置に監禁されていたんですよね。」
亜美はあの忌まわしい事件を思い出す。
「でも、レイさんは、母ルイさんから能力を引き継ぎ、自然に使いこなしている。レイさんの能力は、ルイさんよりも進化しているとは考えられませんか?」
リサが亜美に訊く。
「確かに、これまで、様々な事件で彼女の能力は見てきたけど・・・。」
「彼女自身は気付いていないけど、もしかしたら、そういう経験を通じて、マニピュレートできるほど能力が高まっているんじゃないでしょうか?」
「レイさんもマリアちゃんと同じだと言うの?」
「ええ・・。」
二人の会話は途切れる。
仮定に過ぎない話ではあるが、もしそれが事実であれば、「マリアの保護」は一つの口実であり、マニピュレート能力を持つ者を炙り出し集めているということになる。マリア、レイ、そして伊尾木、既に3人がマニピュレート能力を持っている者として、明らかになりつつある。
この先、なにが起こるのか、二人は想像した。
例えば、一国の首相や大統領を意のままに操る。強大な軍事力を統率する者を操る。そうすることで、世界中を支配することも十分に可能である。政治的利用は、最も恐れる事態であることは容易に想像できた。シンクロ能力とは明らかに次元の違う能力であることは間違いない。
二人が橋川に戻ったのは、深夜遅くだった。
翌朝、皆、リビングに集まり、亜美は、ルイと署長にこれまでの経緯を話した。そして、車中で想像したことも話した。
「そんなことが・・・。」
ルイは、亜美とリサから一通りの話を聞いて、困惑している。
「全ての発端は、私・・ということなのね。」
亜美は、落ち込むルイを見て言った。
「いえ、そういうことではありません。むしろ、そういう研究を主導してきたF&F財団にこそ、その根源はあるんです。」
「ああ、そうだよ。君のせいじゃない。」
紀藤署長も、庇う様に言った。
「でも、このままだと、レイはどうなるんでしょう?マリアちゃんも・・。」
「F&F財団やレヴェナントがどういう目的をもって、そういう能力を持つ者を探し集めようとしているのか・・それが問題なんです。人を自在に操るなんて、あってはならないことです。」
リサが厳しい口調で言う。
自ら、MMという組織に拉致され訓練され、暗殺の仕事をさせられてきた経験を持つリサには、今回の事態は、恐ろしい事を引き起こす危険なことであり、能力を持つ者の人生を奪う卑劣な事に繋がることを容易に想像できた。そして、今回はそれを遥かに凌ぐ緊急事態であることも判っていた。
「まずは、伊尾木氏と接触することだな。」
紀藤署長が言う。
何故?という顔で亜美もリサも、紀藤署長を見る。
「彼は、こういう事態を想像していた。いや、それを予見したからこそ、IFF研究所を自ら閉鎖に追い込んだんだろう。」
「自らの保身ではなく、F&F財団の思惑に気付いたということ?」と亜美。
「ああ、そうだ。確かに伊尾木氏は、身分を偽り、身を隠していたんだろう。だが、F&F財団の狙いに気付いて、このままでは危険な事態に向かうと判断したんじゃないだろうか。研究員の死、研究記録一切の消失、自らも精神異常にあることを装うことで、F&F財団の接近を封じたんだとすると、辻褄があう。」
署長が説明すると、
「だから、これ以上捜査するなと警告をしてきた・・。」と亜美が言った。
「でも、我々がマリアちゃん保護のために捜査に入り、レイさんを巻き込んだことで、伊尾木氏の予見したことが現実になってしまった。」
署長が続ける。
それを聞いて、亜美が言う。
「ちょっと待って‥それって、全て剣崎さんの依頼だったんでしょ?それなら、剣崎さんもF&F財団と通じているということになるわ。」
「通じているかどうかは判らないが・・・シナリオに乗せられてしまったのは事実だろうな。」
「この先のシナリオはどうなっているんでしょうか?」
リサが二人に訊く。
「どうなるのか・・・ただ、例のレヴェナントの動きはおそらくF&F財団としては予見していなかったことかもしれない。レヴェナントが、F&F財団に抵抗する組織であれば、今回の目論見は変わってくるだろう。」
紀藤署長が言う。
「そうでなかったら?」と亜美。
「自体は一層深刻だな。」と紀藤署長は言うと、目を閉じた。
「とにかく、伊尾木氏に接触し、事態が深刻になっている事を知らせ、次の手を考えないと・・。」
亜美が立ち上がる。
「私も行きます。彼に接触するには、シンクロ能力が必要ですから。」
ルイも立ち上がる。
亜美、ルイ、リサ、そして紀藤署長は、浜松の磯村氏、いや、伊尾木氏の家へ向かった。

nice!(7)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 7

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント