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7-4 チェイサー [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「カルロスは牧場の裏山に入っていったんだったな。」
一樹がアントニオに訊く。
「ええ、まちがいない、そうです。」
アントニオはそう返事をして、ドローンの映像を早送りにしてモニターに映し出した。
山道を登っていくカルロスの姿があった。ドローンは急上昇し、広く周辺の映像に切り替わり、カルロスの姿は確認できなくなった。
「止めて!少し戻して!」
映像を見ていたルイが叫ぶように言った。
カルロスが登った道の先に、映像が切り替わったところまで戻すと、ルイが目を閉じた。
何かの思念波とシンクロしようとしている。
「どうしたんですか?」
心配になってリサが訊ねる。
すると、ルイは目を開けて答えた。
「その大きな木が立っている辺りに、レイがいたようだわ。もう映ってはいないけれど、その木の映像から、とても強烈な思念波を感じるの‥。ドローンを見つけて、思念波を送ってきたのよ。」
すぐに、地図を広げて位置を確認した。
「行きましょう!」
亜美が言うと、一樹とリサも立ち上がった。
一樹と亜美とリサの3人は、カルロスが上った山道を登っていく。周囲が少し開けたところに、車が入れる林道があった。
「こんなところに抜け道があったのか!」
轍がついているところを見ると、ごく最近、車が通過したのは間違いない。
林道はそのまま牧場へ続いているようだった。少し進むと、人影があった。林道脇に立っている大杉にもたれて座っているように見えた。
「カルロスか?」
すぐに、一樹が走り寄る。
だが、そこに居たのは黒いスーツを身につけた見知らぬ男だった。意識がない。
「一樹、こっちにも・・。」
亜美が、林の中に倒れている男を見つけた。こちらも気を失っているようだった。
「おい!起きろ!おい!」
一樹が、杉の木にもたれかかっている男を強く揺さぶって起こした。男は目を開けたが定まらない。何かに精気を吸い取られたように見える。
「ダメだ!亜美、そっちはどうだ?」
「こっちも・・目を開けそうにないわ。」
一樹は周囲を見回す。カルロスがきっと近くにいるはずだ。
「ここです!カルロスさんが!」
リサが、林道の先、牧場の裏手に入場できるゲートの方から叫んだ。一樹と亜美が急いで向かう。
カルロスもさっきの男達と同様に、完全に意識を失っている。その上、肩口から出血しているようだった。
一樹は、大男のカルロスを何とか背負って、トレーラーまで戻って来た。カルロスをすぐにベッドに横にさせた。
「矢澤刑事の時と同じね・・。」
カルロスの様子を見て、剣崎が言った。
「じゃあ、これはマリアが?」
一樹が訊く。
「いえ・・そうじゃないわ。マリアなら、カルロスは死んでいたはず。おそらく、ケヴィン。」
「やっぱり、あそこに、レイが居たのか!」
一樹は悔しそうに言う。
「マリアも、ケヴィンたちが連れて行ったに違いないわ。」
剣崎が言うと、亜美が訊いた。
「マリアは大人しくついて行ったんでしょうか?」
「きっと、レイさんが拉致された時のように、気づかれぬうちに意識を奪ったんでしょう。」
と、剣崎が答える。
「あの男たちは?カルロスさんと闘って、意識を失ったわけじゃなさそうでしたけど。」
今度はリサが剣崎に訊く。
「もしかしたら・・・。」
今度はルイが口を開く。
皆がルイを見ると、少し戸惑った表情を見せて、ルイが続けた。
「もしかしたら、レイかもしれません。」
「どうして?レイさんにそんな力が・・。」と亜美が驚いて訊く。
「先程のドローンの映像にレイが残した思念波から感じた事だけど、レイの中に、恐ろしい能力が覚醒したのかもしれない。・・昔、感じた事のある思念波・・・そう、伊尾木の思念波に近い・・。」
ルイは冷静に答えた。
それを聞いて、剣崎は何かを決断した様子で口を開いた。
「もう、全て話すわ。」
剣崎を取り巻くように座り、皆、話を聞くことにした。
「まず・・倒れていた男はチェイサーの部下。」
「チェイサー?」と亜美。
「ええ、そう。コントロールできなくなったケヴィンが作り出したレヴェナントを壊滅させるため、F&F財団は、強い能力を持った者をチェイサー・・追跡者にして、行方を追っているの。」
剣崎は哀しげな顔で答える。
「私がアメリカを発った時から、ずっと彼らにマークされていた。マリアを保護することだけじゃなく、そこにケヴィンが現れると予測していたの。」
「じゃあ、私たちが捜査協力したことは、結果的に、F&F財団の思惑に沿っているということ?」
亜美が少し憤慨して、剣崎に訊く。
「まあ、結果的にそうなるわね・・。」
「なんてことだ!・・それなら、須藤夫妻のことも、IFF研究所のことも、伊尾木のことも、全て、剣崎さんには判っていたんじゃないんですか?」
亜美はさらに剣崎に詰め寄った。
「いいえ・・私は、知らなかった。本当よ。亜美さんたちの協力がなければ、ここまでは辿り着けなかった。私に判っているのは、全ての根源は、F&F財団にあるということ。チェイサーもレヴェナントも、サイキックの能力を極限に高めるためのもの。」
「サイキックの能力を極限まで高める?まさか・・じゃあ、あのプロジェクトは存在していたっていうことなの・・。」
ルイが怯えるように言った。
「あの計画って?」
亜美がルイに訊く。
「私が・・そう、私が居たイプシロン研究所には、幾つかの研究チームが作られていた。私がいたのは、もっとも初歩的な、特殊能力のメカニズムを解析するチームだった。私自身が実験台でもあったから、遺伝子や脳の構造・・いわゆる生理学的医学的な解析を行っていたわ。他にも、特殊能力を生み出すための薬品の開発・・これが、おそらく、レヴェナントを作り出したケヴィンのような被験者を使った研究チームに引き継がれたはず・・。他にも、動物を使った研究もあったわ。・・その中でも、トップシークレットとされたチームがあった。研究者の中では、エヴァ・プロジェクトというニックネームで噂されていた。」
「エヴァ・プロジェクト?」
苛立ちの表情を見せながら、一樹が訊く。
「真偽のほどは定かではなかった。でも、様々なチームから特に優れた研究者が突然姿を消すのよ。そして、最強のサイキックを創造するプロジェクトに抜擢されたという噂が流れた。」
「最強のサイキック?そんなもの、どうするつもりだ?」
一樹が誰にともなく吐き捨てるように訊く。
「世界を支配するためよ。」
剣崎が口を開く。

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