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8-3 恐れるべき力 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

カルロスを救いだした後、レイが残した「森の中にいる」という言葉を聞き、一樹たちは後を追うことにした。
「どうして、こんなところに?」
一樹が呟く。
トレーラーの窓から見える、青木ヶ原の樹海は深く暗く、その奥がどこまで続いているのか見当もつかない。何処を探せば良いのか。
その時、カルロスがようやく目を覚まし、起き上がって来た。
「モニターヲ、ツケテクダサイ。」
カルロスはアントニオに言う。
まだ、完全に回復してはいないようだが、何とか動ける程度だった。
カルロスはアントニオに、二言三言、話をして、アントニオがPCを操作した。すると、モニター画面にマップが表示され、いくつかの光が点滅している。
「これは?」と、剣崎が訊くと、アントニオがカルロスに代わって答えた。
「牧場の裏山で見つけた車両のいくつかにGPSを取り付けたようです。」
それを聞き、皆、食い入るようにモニターを見た。
二つの点滅は、キャンプ場らしきところに停まっている。もう一つの点滅は、本栖湖だった。
「きっと、レイさんはあのキャンプ場の近くにいる。」
すぐにトレーラーはキャンプ場へ向かうが、キャンプ場の入口通路が狭く、奥には入れない。一樹と剣崎が、バイクで奥へ向かった。
「アントニオ!カメラは作動している?」
林道をバイクで疾走しながら、剣崎が無線で話す。
「OK!ボス!」
ヘルメットに取り付けたカメラから映像がトレーラーのモニターに届いている。トレーラーに残っていた、亜美、リサ、カルロスたちは、様子を見守る。
一樹と剣崎が、キャンプ場に着いた。
車が2台放置されている。ロッジの中には誰もいない。
剣崎は、すぐにロッジの中にある様々なものに触れて、サイコメトリーをした。そして、ベッドに触れた時、「ここにマリアがいたのは確実よ。」と言い、一樹に周囲を探すように言った。
だが、日が傾き始めていて、森の中はもはや暗くてよく見えない。
それでも一樹は、必死で二人の姿を探した。森の奥に入ったのだろうが、追いかけるには危険すぎる。じっと森の中を睨みつけていると、木陰からふらふらと男が歩いて出て来た。
男は視点が定まらない様子で、まるで、夢遊病者の足取りで、木の根や石ころに躓きながら、ゆっくりとこちらへやってくる。
「おい!止まれ!」
一樹が拳銃を取り出し、銃口を向けて制止する。
だが、男はそのまま、ふらふらと出てきて、一樹の前でつんのめり、ばたりと倒れた。
「おい!しっかりしろ!」
うつ伏せで倒れた男を起こそうとして肩を掴む。
「うわっ!何だ?」
男の肩は、ぐにゃりとして、コンニャクのように柔らかい。
「いったい、これは・・。」
これまで体験した事の無い感覚で、一樹は思わず手を放す。
その拍子に、男の体が地面にドサッとつくと、そのまま、空気が抜けた風船のようになってしまった。生身の人間では考えられないような変化に一樹は思わず、吐き出してしまった。
「チェイサーの強い思念波にやられた様ね・・。」
一部始終を見ていた剣崎が苦々しく言った。
「こんなことって・・。」
一樹はまだ吐き気が収まらない様子で口を押さえながら言う。
「これが、チェイサーの本当の力なのよ。その気になれば、分子レベルまでばらばらにできるでしょう。この程度で済んだのはまだよかったかも・・。」
さすがの一樹も、剣崎の言葉を聞き、肝を冷やした。
「マリアやレイさんたちは無事だろうか?」
ようやく気持ちが落ち着いた一樹が、剣崎に訊く。
「森の中に入ったようね。マリアちゃんとレイさんは大丈夫よ。チェイサーの能力を凌ぐだけの力を持っているはずだから。」
剣崎の言葉に、一樹はまた驚いた。
マリアの能力がどれほどかは知らないが、レイにはそれほどの能力があるとは思えなかった。もしも、剣崎の言葉が本当なら、自分の知っているレイの力はごく一部にすぎないことになる。だが、それを確かめる勇気はなかった。
「ケヴィンもここに来たんですよね。」
「ええ、間違いないわ。」
剣崎は、放置された2台の車に触れ、1台はケヴィンたちの者、もう1台のワゴン車はチェイサーたちのものだと判別した。
「奴らは、森に入ったのか?」
「おそらく、そうでしょう。ここに、マリアとレイさんが居たのは事実。その先は・・。」
そこまで剣崎が言った時、「剣崎さん!!」と無線からアントニオが叫ぶ声がした。
「どうしたの!」
剣崎は、無線で応答する。
「GPS信号を発している、本栖湖に停まったの車があります。もしかしたら、捕まえられるかもしれません。」
「すぐ戻るわ。」
剣崎と一樹はバイクに乗り、すぐにトレーラーに戻った。
剣崎はアントニオが言ったGPS信号を確かめると、本栖湖へ向かうため、国道を西へ向かう。
途中で、不意に剣崎が空を見上げる。
同じ時、寝室にいたルイも目を開け、「えっ」と呟いた。
二人は何かを察知したようだった。
国道から、本栖湖へ続く道路を降りていく。夕方になり、殆んど観光客は居なかった。
GPSがついた車が湖畔に停まっている。
「あれね・・。誰か乗っているようね。」
剣崎が呟く。
一樹がトレーラーから降りて、気づかれないように、その車にそっと近づく。
運転席に男が一人、眠っているように見えた。窓ガラス越しにじっと顔を見て、一樹は驚いた。運転席に座っている男は、口から泡を噴いてすでに死んでいるようだった。
剣崎もすぐにその車のところへ来た。
「ケヴィンよ、間違いないわ。」
「誰にやられたんでしょう。」と一樹。
剣崎は、車の窓ガラスに手を当てて、サイコメトリーした。
そのとたん、「ううっ」と呻いたかと思うと、剣崎が蹲った。
「剣崎さん!大丈夫ですか!」
驚いて、亜美が駆け寄り、肩を支える。と同時に、亜美の体も電気に触れたように痺れ、二人ともその場に座り込んでしまった。
「一体どうしたんだ?」
一樹が二人を支える。
「判らない…でも、途轍もなく強い思念波だった・・こんなことって・・。」
剣崎も呆然としている。
「亜美!亜美!」
一樹は、亜美の異変に気付き、肩を揺する。亜美は完全に意識を失っていた。一樹は亜美を抱え上げ、トレーラーに運ぶ。
「どうしたんですか?」
リサがトレーラーに運ばれた亜美を見て一樹に訊く。
「判らない、突然、意識を失ったんだ。」

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