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8-6 暗号 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

二人が頭を抱えているのを見て、リサが、MMにいた時に訓練を受けた「暗号」を思い出した。
「あの・・いいでしょうか?」
リサの言葉に二人がぼんやりと反応する。二人の頭の中は、数字と文字で一杯になっていて、他の情報はもうは入らない様子だった。それでも、一樹が「何か、思いついたのか?」と訊く。
「一つ一つバラバラじゃなくて、重ねてみたらどうでしょう。・・何か、あの幾何学模様の絵はそんなふうに使うんじゃないかと思うんです。」
そう言われて、亜美がゆっくりと画像を重ねてみた。
「これは・・。」
モニター画面には、人物の写真の入ったデータが浮かび上がっている。
その時、剣崎が意識を取り戻した。
一樹と亜美、そしてリサはモニター画面を消して、剣崎を見る。
剣崎はカルロスに支えられながら起き上がった。
「大丈夫ですか?」
リサがいたわるように訊くと、剣崎は「大丈夫」というように手を少し上げて答えた。
「ケヴィン殺害の犯人の顔は判らなかったわ・・。」
剣崎は、強い衝撃で意識を失ってしまったことで、残像をサイコメトリーできなかったことを強く悔しがっていた。
そのうち、ルイも目を覚ました。
ルイは起き上がると、すぐに、剣崎の手を取った。そして、目を閉じる。
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
心配する亜美が声を掛けたが、既に、ルイは剣崎の思念波にシンクロしているようだった。ほんの数秒の事だった。
ルイは、大きく溜息をついた。
「やはり・・彼なのね・・。」
予想していた通りだとルイは哀しい表情を見せた。
「判ったんですか?」と亜美が訊く。
「ええ、剣崎さんの思念波に残っていた映像にシンクロしました。かなり強い思念波が、剣崎さんの中に残っていました。そして、そこには、彼の・・伊尾木の姿が見えました。」
ルイの言葉に皆驚いた。
「どういうこと?彼にそれ程の力が?」
剣崎がルイを質すように訊いた。
ルイは、小さく頷き、何から話すべきかと頭の中を整理する様子を見せた後、口を開いた。
「彼は、イプシロン研究所の被験者だったという話はしましたね。」
亜美も一樹も、頷いた。
「イプシロン研究所には、未熟な研究者が多かったんです。その上、特別な能力の存在を証明することに研究の大半を費やし、特別な能力が起こす現象を捉えることに熱心だったんです。被験者がどのような能力を持っているかよりも、サイコキネシスとか透視とか、素人でも理解できる現象を追い求めていました。・・私自身も、シンクロ能力がどういうものかというより、それで何ができるのか、例えば、相手の心を読むとか、特定の人の所在を思念波で見つけるといった、そういう実験ばかりに明け暮れていたんです。だから、私や伊尾木が持っている能力の可能性について・・いえ、その能力がレベルアップするとどうなるのかまで、研究のテーマにしていなかった。」
「つまりどういうこと?」と剣崎が聞き直す。
ルイは少し間を置いてから答える。
「特別な能力は、それ一つではないんです。人間が成長するように、能力も成長する。父も、そこに着目し、私を実験台にしていた。伊尾木もおそらくそのことに気付いていたんでしょう。イプシロン研究所の事故は、彼が、あそこから逃げ出すために仕組んだものだったんです。」
「ルイさんはそのことを知っていたんですね?」
と、剣崎が再度訊く。
「ええ・・でも、そのことは黙っていました。イプシロン研究所で行われていた非人道的実験を知り、研究所は存続すべきではないと思っていたからです。おそらく、伊尾木が事件を起こさなければ、私が起こしていたかもしれません。それ程に酷い実験を繰り返していたんです。」
ルイは、イプシロン研究所の事を思い出し、少し震えていた。
「でも、伊尾木は、磯村氏になりすまして、IFF研究所を作った。矛盾していませんか?」
亜美が訊く。
「ええ、身を隠すためという方法としては賢い方法ではない。むしろ矛盾しているように見えるかもしれませんね。」
ルイが答える。
「矛盾しているように見える?」と、亜美が訊く。
「おそらく、彼は、イプシロン研究所のバックにいるF&F財団に立ち向かうために、敵の懐に入ったのだと思います。内情を探るには、格好の場所ですから。」
剣崎が、ルイの話を聞いてハッと閃いた。
「きっと彼は、F&F財団の情報を得る中で、エヴァ・プロジェクトを知ったのかも・・。」
「おそらく、そうでしょう。」とルイ。
「ちょっと待ってください。・・確か、マリアが施設を抜け出たのは、エヴァ・プロジェクトの第一歩だったと言ってましたよね。でも、その・・うまく言えませんが・・・マリアをマーキュリー学園に入れたのも、伊尾木だったんでしょう?・・彼は、マリアの能力を知らなかったはずはないと思うんです。マリアをマーキュリー学園に入れなければ、エヴァ・プロジェクトも始まらなかったんじゃないんですか?」
亜美は、混乱する頭を整理するように言葉を綴り、質問する。
「知っていたけれど、抵抗する事ができなかったのでしょう。」
ルイが言う。
「それで、富士FF学園やIFF研究所を閉鎖したのでしょう。これ以上、F&F財団に加担することは自分自身許せなかったのかもしれません。」
剣崎も、ルイの言葉を続けるように言った。
「じゃあ、伊尾木は、マリアさんやレイさんを守るために、ケヴィンを殺害した・・私たちの味方ということでしょうか?」
リサも訊く。
「そんな簡単なものじゃないだろうな・・。」
話を聞いていた一樹が口を開く。
「浜松で、彼を見た時、探すなと言ったんだろ?きっと何か別の思惑があるはずだ。」
一樹はそう言うと、先ほどのモニター画面を起動した。
そこには、生方から送られたデータから見つかった文書が映っている。
「え?これは何?」
剣崎が画面を食い入るように見る。ルイも同じように画面を見た。
「これ・・伊尾木の・・被験者だったころの記録です。なぜこんなものが?」
ルイが訊く。
「生方さんから送られてきたんです。どういう意味か判らないんですけど・・。」
亜美が答えると、剣崎が訊く。
「これはどんな形で送られてきたの?」
そう訊かれて、元データを映し出した。
「これには、L/M/OK、の文字と20桁の数字が隠されていました。L/M/OKというのは、きっとレイさんとマリアさんが無事だという報せではないかと…もう一つの数字は全くわかりません。」
亜美が説明すると、剣崎は、すぐにパソコンのキーボードを叩く。
どうやったのかは判らないが、文字と数字を打ち込んだ後、何か別の文字を入れたようだった。
すると、画面には意味不明なアドレスが表示された。さらに、剣崎は、何か文字を打ち込んでいく。そこにはIFFとかEvaの文字が並んでいた。
「何が書いてあるんですか?・・というか、これは何ですか?」
一樹が剣崎に訊く。
剣崎は、一樹の質問に答えず、じっと画面を食い入るように見つめている。

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