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8-7 トップシークレット [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「やはり・・そうなんだわ・・。」
剣崎はそう呟くと、画面から目を離し、一樹たちの方を向いた。
「すべて判ったわ。さっきの画面はF&Fについて、アメリカ政府が独自に調査していた記録にちがいない。生方はそれのありかを見つけたのよ。」
剣崎は続ける。
「さっきの文字と数字は、昔、私が彼に教えた暗号だったの。教えてくれたのは、トップシークレットを保存しているサイトのアドレスよ。Lというのは左から、そしてMというのは真ん中から、OKは、ゼロをKに置き換えろと言う意味。暗号化されたサイトへの入り口を教えてくれたのよ。」
意味が判るような判らない様な説明だったが、とにかく、トップシークレットとされた情報を入手したのは間違いなかった。
生方は、剣崎が特別な能力を持つとは知らない。ただ、今回の事件から、彼なりに調べた結果のようだった。
「それで何が判ったんだ?」
一樹が訊く。
「エヴァ・プロジェクトの発端は、やはり、伊尾木だったようね。」
「伊尾木が発端?そんなはずは。彼は、イプシロン研究所の被験者の一人に過ぎなかったはず。」
ルイが驚いて反論する。
「伊尾木自身が始めたというわけじゃないわ。被験者の一人だった´伊尾木’の能力がある条件で飛躍的に高まることを発見した研究者がいたのよ。そして、それは、財団トップに報告された。そこから、エヴァ・プロジェクトが始まったのよ。」
「その研究者は?」とルイ。
「あなたも知っているはずよ。報告したことを知った伊尾木がその研究者を殺し、研究所を閉鎖に追いやるほどの事件を起こして逃げた。そのあと、彼は、じっと身を潜め、この計画を潰す機会を待っていたようね。」
剣崎が言うと、一樹が言う。
「だが、彼自身、IFF研究所から、マリアをマーキュリー学園に送り込んだ張本人。自ら、エヴァ・プロジェクトの片棒を担いでいる・・矛盾している。」
「ええ、そう。彼もおそらく、マリアにそれ程の能力があったとは知らなかった。でも、組織にいて、マリアの事を知った。それでエヴァ・プロジェクトが始動した事も知ったはず。」
「自分で蒔いた種じゃないか!」
一樹は腹立たしさを隠さず強い口調で言った。
「だから、彼は、富士FF学園を廃止し、IFF研究所も閉鎖した。おそらく、自宅に放火したのも彼自身かもしれないわね。・・そうやって、エヴァ・プロジェクトを潰すことを最後の目的にしているのでしょうね。」
剣崎が言うと。亜美が驚いて訊いた。
「まさか、計画を潰すというのは?」
剣崎は哀しげな顔で答える。
「マリアさんを抹殺するということでしょうね。すでにマリアさんには、伊尾木を凌ぐほどのマニピュレーターとしての能力がある。このまま、レイさんと一緒にいれば、それは一層高まっていくでしょう。そうなる前に、伊尾木はきっとマリアさんの居場所を突き止め、殺すつもりでしょう。」
剣崎は、生方から送られたメッセージを確実に読み解き、冷静に分析して確信をもって言った。
「そんな・・彼女は何も知らない少女なのに・・」
ルイが涙を流しながら言う。
それは、娘レイの歩んできた道と重なると感じたからだった。ルイに備わっていた能力は、確実に、娘レイに引き継がれた。そして、それが、彼女の人生を大きく左右してきた。娘レイには、受け入れがたい運命(さだめ)だったはずである。
「一刻も早く・・いや、伊尾木よりも早く、レイさんとマリアさんを見つけなければ・・。」
一樹が言う。
「でも、どうやって・・。」
亜美が言う。
ルイが、まだ濡れた瞳のままで、そっと言った。
「探さない方が良いわ。」
一樹も亜美も、信じられないという表情を浮かべてルイを見た。
ルイは涙を拭い、一呼吸おいてから言った。
「昨日、富士山の中を走っていた時、一瞬だけど、独特の波長をもった思念波を感じたの。おそらく、あれは、伊尾木のもの。伊尾木は、ケヴィンを殺害した後、キャンプ場へ向かったはず。私たちは、すれ違ったのよ。剣崎さんも感じたんじゃありませんか?」
ルイに問われ、剣崎も小さく頷いた。
「彼も私たちの存在に気付いたはず。・・あの思念波は、近くにいるサイキックを見つけるための・・言わば、レーダーのようなものだったんじゃないかと思うんです。」
「レーダー?」と一樹。
「ええ、そうやって、彼はきっとケヴィンの居場所を突き止めて殺害した。もしかしたら、次はチェイサーを仕留めようとしていたのかもしれません。伊尾木の力は、想像を超えた領域にあるはず。」
ルイが説明を続ける。
一樹は、あのキャンプ場で無残に殺された男たちの姿を思い出していた。思念波で人を殺すというのは、銃やナイフで殺害するのとは次元が違うことを目の当たりにして、そんな相手を殺害しようと考えている伊尾木の能力はもはや想像すら届かない者だろうと感じていた。
「でも、それなら、なおさらレイさんやマリアさんを早く見つけないと・・。」
亜美が重ねて訊く。
ルイが答える。
「私たちがレイの居場所を突き止めようとしている事は、恐らく伊尾木も気づいている。私たちが気付かないところで、彼は私たちの動きを監視しているように思うんです。」
「そんな・・じゃあ、私たちはどうすれば・・。」
と亜美が言うと、剣崎がルイに代わって答えた。
「きっと、彼はマリアさんだけでなく、マリアを守ろうとするレイさんも殺害するはず。そして、ルイさんもターゲットにしている可能性があるのよ。一堂に会したところで一気に仕留めるということだって考えられるわ。もし、レイさんがマリアさんとともに、安全な場所に身を隠しているのなら、少しそっとしておいてみたらどうかしら?・・その間に、伊尾木とどう戦うかを考えなければ・・今の私たちには勝ち目はないでしょう?」
剣崎の真意は判った。
確かに、今、伊尾木と対峙しても圧倒的な能力の違いに為す術はないだろう。伊尾木という人物をもっと知らなければならない。そのうえで、彼と対峙するのではなく、彼とともにエヴァ・プロジェクトを潰すためにできることを見つけることが最善だと言えるだろう。
「一度、橋川へ戻りましょう。」
剣崎が皆に訊く。亜美やルイ、リサが頷いた。
「俺はもうしばらく、ここに残る。伊尾木がチェイサーを狙っているなら、まだ、近くにいるはずだ。伊尾木が俺たちの動きを監視していると言っても、おそらく、剣崎さんやルイさんたちのようなサイキックだけかもしれない。俺は対象外だという可能性は高い。それなら、こちらから伊尾木の居場所を掴むこともできるかもしれない。」
一樹の提案は判ったが、命の危険が高い事も事実だった。
「亜美、橋川に戻って、レイさんが身を潜めていそうなところを探してくれ。きっと何か手掛かりがあるはずだ。」
一樹は、皆の了解を取るまでもなく、カルロスから乗用車のキーを奪う様にして取り上げ、さっさとトレーラーを降りて行った。
「まあ、良いわ・・カルロス、矢澤刑事と一緒に行って!」
カルロスがすぐに一樹の後を追って出て行った。
「アントニオ、橋川へ戻るわよ。」
トレーラーはゆっくりと動き始める。それとは反対の方向に、一樹とカルロスの乗った乗用車は走り出した。

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