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9-6 対決 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「止まりなさい!」
一樹と向かい合う様に、亜美が銃を構えていた。その後方に、カルロスと剣崎も居た。
「その銃でどうしようというのかな?」
「あなたを撃つ!」
それを聞いて、一樹は不敵な笑みを浮かべて言った。
「撃ち殺す?相棒の、矢澤一樹を撃ち殺すと言うのか?本当に、そんな事ができるのか?」
「レイさんやマリアちゃんを守る為なら、できるわ。」
亜美は引き金に指を掛ける。
「私は、彼をマニピュレートしているだけだ。彼が撃たれたところで、自分自身は傷つくことはない。彼は命を落とすかもしれないが・・」
確かに言う通りだった。
撃ったところで一樹の命を奪うだけである。
「さあ、そんな物騒なものは仕舞いなさい。」
そう言われても、引き下がるわけにはいかない。少しずつ距離を詰めて、何とか、レイとマリアのところに辿り着く。
「レイさん、大丈夫?」
すぐに剣崎がレイを支える。カルロスも傍に来て、レイとマリアを体の陰に隠した。
一樹は、一連の動きをただ眺めているだけだった。
「それ以上、近づかないで!」
亜美が叫ぶ。
「私は敵ではない。」
一樹が意味不明な言葉を放つ。そして、ふっと腕を上げて小さく振った。
すると、亜美は、急に、体の自由が利かなくなった。
手も足も何か太いロープに繋がれているようで、動かそうとしてもビクともしない。そして、銃を握る指が勝手に開いていく。銃が足元に落ちる。
「マニピュレート・・ね。」
剣崎が小さな声で呟く。
『剣崎さん、これはマニピュレートではない。思念波で操っているだけですよ。』
一樹は、剣崎へ思念波で話しかける。
『本当のマニピュレートは、こういうことです。』
目の前で話しかけてきていた一樹が急にばたりと倒れた。そして、剣崎が急に立ち上がる。
「今、剣崎さんをマニピュレートしています。」
剣崎の声でそう言った。そしてすぐに、剣崎も倒れ、今度はカルロスが立ち上がる。
「今、カルロスさんをマニピュレートしています。」
亜美の驚く顔を確認すると、再び、一樹の体に戻った。
「もう、判ったでしょう?私が、あなた方の敵なら、皆さんを殺すことは容易いのです。だれにでもマニピュレート出来るわけですから。亜美さん、あなたにもマニピュレートできるのですよ。」
亜美は抵抗する気力を無くしていた。
「マリア、危害は加えない。もうバリアを解きなさい。」
一樹が言うと、マリアは一樹をじっと見つめていたが、ふっと力を抜いた。
レイと自分を守っていたバリアが解かれた。
一樹が、両手を伸ばす。
亜美の眼には見えないが、強い思念波の糸がマリアに伸びている。レイと剣崎にはそれが見える。レイが抵抗しようと思念波を発する。だが、それは、一樹の体から発せられる思念波の糸に絡めとられるだけだった。
「私は、マリアを守りに来たのだ。」
亜美も剣崎も、そんな言葉をまだ信じられる状態ではないが、余りに強大な力を前にして抵抗することは無駄だと悟っていた。
レイとマリアは、彼から延びる思念波から、悪意は感じられず、むしろ、優しさが溢れているように感じていた。
「そんな言葉、信じられないわ!」
亜美がきつい口調で答える。
「どうすれば、信じられる?」と一樹が言う。
「一樹を解放しなさい。」
亜美が訊く。
「判りました。」
一樹はそう言うと、その場にパタリと倒れた。
「どうしたの?一樹?」
亜美が訊く。
『要求通り、彼を解放した。しばらくすれば意識が戻るだろう。』
今度は、頭の中で声が響く。思念波が、皆の頭の中に入ってきているのだ。
「どこにいるの?」と、剣崎が訊く。
『剣崎さん、まだ、わからないのか?君もサイキックの端くれではないのか?』
剣崎は目を閉じ、思念波が発せられる場所を探ろうとした。
だが、自分の周囲からこの思念波は感じられない。
「いったい、どこ?どういうこと?」
剣崎は混乱している。
「剣崎さん、あれを見て。」
レイが、上空を指さして、剣崎に言った。
はるか上空に、星のように光る物体があった。
「まさか!あれが正体?」
剣崎はレイに訊く。
「ええ・・あれがこの思念波の正体。そして、私たちは今、あの物体が作り出した大きな思念波の殻の中にいるの。彼は敵ではないわ。」
そういうレイの表情は何か少し安堵しているように見えた。
「どういうこと?」
亜美がレイに訊く。
「彼の思念波から、悪意や殺意は感じられない。マリアに対して愛情の様なものを感じたの。」
レイはそう言うと、マリアを見た。
マリアはじっと上空の光る物体を見ている。
「マリアちゃん?」
亜美が声をかける。だが、マリアの耳には届いていないように見えた。
マリアは、レイの腕をすり抜けて、一歩二歩と前に出て行く。上空の光る物体をじっと見つめながら、何か、懐かしいものを見るような眼をして近づいていく。
光る物体の真下に来ると、マリアは両手を広げた。
レイや剣崎の眼には、マリアから、絹糸の様な思念波がその光る物体へ徐々に伸びていくのが見える。すると、光る物体からも同じように思念波が伸びてきて、絡まるようにして繋がった。
「何が起きてるの?」
亜美が、レイに訊く。
「マリアとあの物体が繋がろうとしているの・・。」
レイが答え終わらぬうちに、光る物体が徐々に降りて来る。
まるで、絹糸のような思念波に導かれるように、マリアに近付き、終に、マリアの体の中へ入った。マリアの髪が一瞬膨らみ、体が少し宙に浮いた。
亜美たちを取り巻いていた思念波が消えた。
レイの頭の中にあった強烈な思念波も消えた。
マリアは大きく深呼吸をし、両手で、胸を抱く様な仕草を見せた。大切なものを抱き締めるような仕草に見えた。
マリアは、レイたちの居る方向へ振り返り、笑顔を見せた。
「大丈夫?」
レイが訊いた。
「ええ・・大丈夫・・おじさんは私の中にいる。」
そう答えたマリアは、飛び切りの笑顔を見せる。何か途轍もない幸福感に包まれているようだった。

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