SSブログ

1-12 見立て [アストラルコントロール]

署に戻ると、刑事課の部屋には、山崎警部と武藤が、浮かぬ顔をして椅子に座っていた。現場周辺の聞き込みからは新たな情報は取れていないのは歴然だった。
零士の話を聞いた五十嵐は、思い切って、山崎に進言した。
「この事件の見立てなんですが、通り魔による殺人ではないとは考えられないでしょうか?」
山崎警部は怪訝そうな顔をして五十嵐を見た。
「通り魔ではないとすると、どういう見立てになるんだ?」
「本田幸子による犯行という可能性はないかということなんです。」
それを聞いて、武藤が立ち上がって強い口調で言った。
「まさか!彼女も瀕死の重傷だったんだぞ!」
「だから・・・可能性の話をしているんです。これだけ調べても確実な目撃情報は掴めていない。あの場所に、ほかの人間はいなかったと証明しているようなものでしょう?」
「だからってそんな・・。」
「だから、そう考えられるんじゃないかと言ってるのよ!」
二人がやりあう様子を見ていた山崎警部が口を開く。
「いや、その線も調べておく必要がありそうだ。」
「山崎さん!」と武藤が憮然とした表情を浮かべて言った。
「確かに、殺害方法が妙なんだ。片岡優香さんは首筋の一突きで命を落としているが、本田幸子さんは、胸元。なぜ、二人とも首筋を刺さなかったかは気になるところだ。」
「しかし、本田幸子さんも瀕死だったんですよ。どうしてそんなことをする必要が?」
まだ、武藤は納得していない。
「まあ、聞け。胸元を刺された本田幸子さんも、犯人を正面から見ているはずだが、あいまいなところが多い。本田幸子が片岡優香を殺害したという見立てもあながち外れていないかもしれない。」
山崎の言葉に武藤はようやく納得したようだった。
「二人の関係、最近の行動を、徹底的に調べてみろ。」
山崎の決断で、次の日から、手分けして、二人の交友関係や最近の状況について捜査が始まった。
三日ほどたったころ、再び、刑事課の部屋に、山崎警部や武藤、五十嵐が集まった。
「片岡優香は、ここ1年ほどほとんど仕事が入っていなかったようですね。過去のスキャンダルで、CMとかドラマとかからのオファーはなかったようで、所属している事務所も、近いうちに契約解除の予定だったようです。」
と武藤が報告した。
「他には?」と山崎。
「仕事がなかった割に、暮らしは派手だったようです。アイドル時代の習慣からか、毎週エステに行き、洋服も高級店で買いあさっていました。男性の噂も健在でした。ただ、以前のような大物タレントとかスポーツ選手とかじゃなく、ホストの類ですから、そうとう貢いでいたかもしれませんね。」
「仕事もしていなくてそれだけの浪費となると借金か?」と山崎。
「いえ、そんなこともなさそうで、どうも、お金は本田幸子が用立てていたようですね。」
武藤が答える。
「本田幸子のほうはどうだ?」と山崎。
「アイドル時代に片岡と本田は同じグループだったんですが、本田は早々に引退して、今の事務所で片岡のマネージャーになったようです。10年ほどになります。本田がマネジャーになった年、片岡に映画会社からのオファーが入って、数年はそれなりに活動できていたようですね。なんどか、タレントやスポーツ選手との交際の噂が出て週刊誌にも取り上げられていて、それなりに話題の人だったようですが・・3年ほど前にスポーツ選手との不倫疑惑でイメージダウンしてしまってからは、かなり苦労していたようです。」
五十嵐が報告する。
「わがままなタレントに振り回されたマネジャーが思い余って殺害か?それが動機なら、世の中のマネージャーはほとんど殺人を犯してもおかしくないな。もっと強い動機があるように思うが・。」
山崎が言うと、武藤も五十嵐も頷いた。
「もう少し調べてみる必要がありそうだな・・。」
山崎はそういうと、部屋を出て行った。
武藤と五十嵐は、互いに情報をすり合わせて、もう一度、二人の関係を調べることにした。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント