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1-11 夢の話 [アストラルコントロール]

「さて、ええと・・。」
「ああ、五十嵐です。」と警察バッジを見せて、改めて名乗った。
「聞きたいこととはいったい何でしょう?」
射場は、コーヒーカップを取り出しメーカーからサーバーを外してコーヒーを注ぎながら言った。
五十嵐は、どこから聞けばよいのか少し困った。
真正面からの質問にきちんと答えてくれるのか、いや、答えることで自分が犯人だと認めることにもなりかねない。それでも、五十嵐は疑問を解きたい。そう決意して口を開いた。
「聞きたいのは、どうして、詳しく知っていたのかということなんです。その場にいなければわからないようなことも・・やはり・・。」
五十嵐がそこまで言ったとき、零士は遮るように言った。
「それは犯人しか知らないこと。やっぱり犯人ではないかと・・。」
零士は少し不満げな顔をして、コーヒーを飲む。
「ええ・・。」
五十嵐は、小さくうなずく。
「ああ、コーヒー、どうぞ。」
五十嵐は小さく頭を下げてからコーヒーカップに手を伸ばして一口飲んだ。美味しかった。
「信じてもらえないとは思うのですが、あの事件を目撃・・いや、正確に言わなければ信じてもらえないかな・・。だが・・。」
零士はそう言って、もう一口コーヒーを飲み、考え込んだ。
「教えてください。」
五十嵐が真剣な表情で言った。もはや、捜査とは次元が違う言い方だった。
「では・・信じられないでしょうが・・あの夜、僕は仕事から戻り疲れてそこのベッドで横になりました。嘘じゃない。それからすぐに、夢を見たんです。いや・・夢だったかどうかよく判らないような、リアルな夢でした。」
零士は、そう切り出してから夢で見た光景を思い出せる限り細かく話して聞かせた。五十嵐ははじめのうちは疑念を抱いていたが、極めてリアルに続けられる話の内容にある確信を得ていた。
「やはり、犯人だと思うでしょうね。」
「いえ、そうじゃなくて、犯人なら、そこまで周囲の様子を細かくは覚えていないんじゃないかと思います。目的を達するため、女性の姿くらいは覚えているでしょうが、そんなに周囲の様子を覚えてはいないはずなんです。そして、目的を達したら一目散に逃げ去るはず。だが、あなたは、本田幸子が緊急通報し、胸を刺すところまで詳細に話してくれました。そんなことは犯人にはできるはずがないんです。」
「じゃあ、信じてもらえるんですか?」
「いえ、全面的にとは言えません。共犯者という可能性は残っていますから・・。ですが、あなたの話の裏付けがあれば・・そう、なぜ、本田幸子は、片岡優香を殺したのか・・動機です。あの殺し方は尋常じゃない。時間をかけて計画を立て、完全犯罪に仕立てようとしている。それほどのことはよほどの強い恨みがなければできないはずなんです。」
五十嵐は、そう零士に話しながら、自分がやるべきことを整理しているようだった。
「片岡優香と本田幸子の関係について何か知っていることはありませんか?」
五十嵐が唐突に零士に訊く。
零士はカップに残っていたコーヒーを飲み干すと、すっと立ち上がって、きれいに積みあがっていた取材ノートをいくつか拾い上げて広げた。
「以前、片岡優香の不倫問題を取材したときの記録です。もう数年前になりますが、そのころから、本田幸子はマネージャーをやっていました。おそらく10年くらいです。問題を起こすたびに、マネージャーが処理してきた。そう言う点では、恨みを持っていてもおかしくはない。しかし、それなら、世の中のタレントのマネージャーは、みんな、殺人者になる可能性がある。もっと別の強い動機があるはずです。」
「そうですか・・。」
五十嵐も、カップのコーヒーを飲み干した。
「本田幸子を調べてみます。」
五十嵐は、そう言うとすっと立ち上がって、零士の部屋を出て行った。


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