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1-17 甘い見立て [アストラルコントロール]

「確か、さっき、山路修は殺人教唆の罪になるって言ってましたね。ということは、山路が本田幸子に片岡優香を殺すように指示したということですよね。・・じゃあ、山路は片岡を邪魔な存在と思っていた。面倒になって殺そうとして・・。」
「ええ・・そういう筋書きになります。片岡優香は、山路から遊ぶ金を貰っていた。ホスト遊びや洋服やカバンなどの買い物・・とにかく、浪費し続けていた。事務所の経営が厳しくなり、社長といえども金の工面には苦労するようになった。だから・・。」
と、五十嵐が説明したが、零士は納得できなかった。
「いや、それなら、山路が片岡との関係を清算すれば済む話でしょう。山路は片岡優香に弱みを握られて脅されていたんじゃないんですか?」
「弱み?」と五十嵐が唐突に言う。
「それと、副社長の奥さんの話も信じがたい。事務所のタレントやマネジャーと浮気していることを知りながら、なぜ、問い詰めたり、タレントを辞めさせたり、手段はいくらでもあったはず。それに、どうして離婚しなかったんでしょう?山路と本田幸子はそんなに深い仲なんでしょうか?彼女の部屋を見た限り、山路社長が入り浸っているにしては男の臭いはなかった。」
零士が続けて言うと、もはや五十嵐は反論しようのないところにいた。
「ちょっとずつ、何かが違うように感じます。このまま、二人を逮捕するのは止めたほうがいい。もっと真実をちゃんとつかまないと・・。」
零士は、自分の疑問を五十嵐に話した。
捜査本部での見立ての甘さが五十嵐にもはっきりと分かった。だが、どうやって疑問点を一つ一つ調べなおせるかが思いつかなかった。
「どうしよう・・・。」
五十嵐は思わず本音を吐き出した。
「当事者から話を聞くしかないでしょうね。」と零士が言う。
「本田幸子に話を?正直に言うとは思えない。彼女は、貴方に刺されたと証言しているんですよ。」
「でも、今の見立てでも、彼女が片岡優香を殺したと確信を持っているから逮捕するつもりなんでしょう?同じことじゃないですか?有力な物証でもあるんですか?」
零士の問いに、五十嵐が思い出したように言った。
「あの・・凶器になったアイスピックです。あれは、事件の数日前に、本田幸子の行きつけのバーから無くなったことが分かったんです。あのアイスピックは本田幸子が殺害目的で盗み出したということが根拠なんです。」
「本田幸子が盗んだという証拠は?」
「いえ、状況証拠の範囲です。」
「知らないと言われれば終わりじゃないですか。そんなあやふやな証拠で犯人になるなんてありえない。僕が犯人でも否定する。もっと、確実な証拠が重要でしょう?」
「じゃあ、どうすればいいの?彼女に話を聞くとして正直に話すはずないわ。零士さんならどうするの?」
五十嵐が切れた。
そして、射場零士を思わず「零士さん」と下の名前で呼び、以前のようなタメグチに戻っていた。
「彼女に会いに行こう。一度は僕を犯人だと証言した。僕が目の前に現れれば、彼女は取り乱すはず。自分のウソがばれたと観念するんじゃないかな?」
零士は自分から事件に深くかかわるのは止めておくべきだと考えていたのだが、五十嵐の様子を見て思わず口をついて出てしまった。
別に成功する確信があったわけではない。現状を打開するには、これまでとは全く違う発想が必要だと思っただけのことだった。
ただ、零士には別のシナリオが浮かんでいた。もしそのシナリオ通りなら、彼女を動揺させて真実を引き出す以外に方法はないだろうとも思っていた。
五十嵐は、一度、署に戻ることにした。
零士との会話で、今のままで逮捕状を請求してもおそらく却下されるのは明らかだと考えたからだった。何とか、山崎を背得できないかと考えながら署に戻ったが、捜査本部の雰囲気は、もはや犯人逮捕に向かっていて、とても口をはさむ余地はなかった。

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