SSブログ

1-18 面会 [アストラルコントロール]

零士は、いったん、アパートへ戻った。
そして、机の上に積みあがっている取材ノートを広げた。過去に、片岡優香のゴシップを取材したとき、いろいろと集めてきた情報を今一度確認したかった。記憶の中にあることが果たして正解だったかを確かめた。
「やはりそうだ。間違いない。」
零士は自分の取材記録をじっくり読んで、改めて事件の本質を確認した。
そうしているうちに、アパートのドアがノックされた。
「さあ、行きましょう。」
ドアの前には五十嵐が立っていた。周囲にはほかの刑事はいない様子だった。
「君ひとりかい?」
「ええ、彼女にあなたを引き合わすなんて、上司には理解できない行為よ。承認するはずもないのは分かっていたから、あえて、何も言わず、とにかく面会の許可だけを取ってきたわ。」
二人はすぐに、本田幸子が入院している病院へ向かった。
本田幸子はずいぶん回復していて、ベッドを起こして座る形で外の景色を見ていた。
「失礼します。県警の五十嵐です。」
ドアを開く。本田幸子は五十嵐が入室しても姿勢を変えることなく外を眺めていた。射場零士も、五十嵐に続いて部屋に入った。
「五十嵐さん、事件のことでもう少しお話を聞きたいんですがよろしいでしょうか?」
五十嵐が切り出した。本田幸子はちらりと五十嵐のほうを見た。そして、その後ろに立っていた射場が視界に入った。その途端、急に、本田幸子の表情が強張った。
「あの・・その人は・・。」
少し声が震えている。
「ええ、あなたが犯人だと証言した射場零士さん、フリーライター。以前に、片岡優香さんの不倫騒動の取材で会ってますよね。」
「どうして・・。」
本田幸子は動揺を隠しきれない様子だった。
「犯人は彼ではありませんでした。その確認のために来ていただいたんです。」
もちろん、そんな必要などない。
「本田さん、あなたはなぜ彼を目撃したと証言したんですか?本当に彼を見たんですか?」
五十嵐が厳しい口調で問い質す。
「ごめんなさい!」
本田幸子は、そういうとベッドに突っ伏した。
「正直に話してください。あの日、何があったのか。そして、なぜそんなことをしたのか。洗いざらい話してください。」
五十嵐が、やさしい声で本田幸子に声をかける。
しかし、本田幸子は突っ伏したまま顔を上げようとはしない。
射場零士が口を開く。
「あの日、貴女は片岡優香と二人、取材を受け買い物を済ませてあの場所に来た。人通りのない暗い道路、貴方は前後を確認すると、手に白いハンカチを巻いて、カバンの中からアイスピックを取り出して、彼女の肩に手をやると、一気に彼女の首元にアイスピックを突き刺した。アイスピックは優香さんの首の奥深くまで達して、頸動脈と頸椎まで貫き、一瞬で彼女は絶命した。それを確認すると、貴方はスマホで緊急通報して、自分の胸にアスピックを突き立てた。」
零士は事件の様子を細かく描写し、まるで、その場にいたかのように話した。いや、確かにそこにいたのだ。
それを聞いて、本田幸子は、驚いた表情で顔を上げた。
「見ていたんですか?」
当然の質問だった。そして、それは、自白と同じことだった。
零士はそれには答えずさらに続けた。
「貴方は彼女と一緒に死のうとしたんですよね。でも死ねなかった。緊急通報したのは、助かるためではなく、すぐに救急隊が来れば、彼女の遺体を衆人に晒さずに済む。そう考えたんでしょう。」
本田幸子は、諦めたように、小さく頷いた。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント