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1-19 自白 [アストラルコントロール]

「心中しようとしたということ?」
五十嵐は、零士が考えていたことを聞き、驚いた。
「あの時、貴方はとても悲しい目をしていた。片岡優香を恨んだり、妬んだりしているような表情ではなかったし、優香さんが倒れたとき、貴方は彼女の体を支えてそっと地面に横たえた。そして、そのあとの行動も、自分が助かるためではないこともわかりました。」
「二人が心中するなんて、どういうことなの?」
五十嵐が訊く。
零士は五十嵐に説明するのではなく、本田幸子に向かって話をつづけた。
「二人は、アイドルグループに入る前からの友人、いや、恋人だったんですよね。貴女の部屋には、片岡優香さんが載っている雑誌や大きなポスター、小さな記事の切り抜き、アイドル時代だけじゃない、もっと古いものまでたくさんありました。単なるマネジャーの域を超えている。・・以前、野球選手との不倫記事の取材の時、貴女の態度は、私の取材への苛立ちではなく、彼女への苛立ちのほうが強かった。まあ、貴女が一方的に思いを寄せていたようですが・・。」
本田幸子は急に声を上げて泣き出した。
「アイドルグループのセンターを譲ったのも、そういう理由からですね。彼女が望んでいるからと。売れなかったからというのが対外的な理由になっているようですが、そうじゃない。事実、優香さんがセンターになってもさほど変わらなかったし、貴女が引退したのは別の理由があったからですよね。」
「どういうこと?」
五十嵐が、もはやついていけないという表情で零士に言う。
「貴女の想いを、社長に気づかれてしまった。秘密にする代わりに、体を要求されたんじゃないですか?・・・あの、山路という社長は、以前にも、事務所のタレントに手を出していたのは、業界では知られた話でした。タレントの秘密をネタに言いなりにする奴なんです。引退してマネジャーになったのも山路社長の差し金でしょう。」
本田幸子は、悔しそうな表情で頷いた。
「それを、片岡優香はあなたから告白され、山路社長を脅した。片岡優香が社長からお金をもらっていたのは、その口止め料なんでしょう。しかし、片岡優香は、その金でぜいたくな暮らしをし、さらに最近はホストに貢ぐようになった。どんどん、貴女から離れていく。それがどうにも我慢できず、ついに、無理心中ということになったんですか?」
零士の推察に、ようやく、本田幸子が口を開いた。
「いえ、ホストへ貢ぐのはたいしたことではありません。これまでも何度も同じようなことはありましたから・・。」
「ほう。じゃあ、どうして?」と零士が訊く。
「優香は・・・優香は社長の愛人に・・。」
絞り出すように、本田幸子は言った。
「優香さんから聞いたんですか?」
と零士が訊く。二人の関係は全く認識していなかった。
幸子は首を横に振った。
「ネクタイを持っていたんです。優香の部屋の片づけをしたとき見つけました。」
幸子の部屋を見たとき見つけたネクタイのことだった。
「優香さんには確認しなかったんですか?」
と零士がやや強い口調で訊いた。
「聞けませんでした。でも、行きつけのバーのバーテンダーが、二人が密会していると教えてくれました。副社長・・奥様もそれをご存知だと・・近々離婚する予定だとも・・それで、許せなくて・・。」
とぎれとぎれに呟くように言うと突っ伏して泣き出した。
「それで、無理心中しようとしたんですか・・。」
零士はそういって、五十嵐を見た。
この事件の顛末が明らかになってきていた。
「だからって、死ぬことはないでしょう?」
五十嵐は、そう聞くのが精いっぱいだった。
「彼女を・・優香を愛していました。報われないのは分かっていました。そばにいて、彼女が幸せに暮らしているのを見ているだけでよかった。なのに、どうして・・社長と・・どうしても許せなかったんです。」

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